「統計数理」から見たAIブームをすべて話そう

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 統計数理研究所は大学共同利用機関として統計やデータ科学の人材を養成し、研究基盤を支えてきた。近年のビッグデータ(大量データ)と人工知能(AI)ブームで日本の人材不足が鮮明になっている。樋口知之所長に打開策を聞いた。

 -AIブームをどう見ますか。
 「AI技術が日々進化する状況だ。年や月ではなく、日単位でアイデアが共有され、技術が更新されている。従来の研究や学術界を揺るがしかねない流れだが止まらないだろう。この背景には三つの要因がある。まずディープラーニング(深層学習)が圧倒的なパフォーマンスを実現したことだ。深層学習の中身はブラックボックスになるが、それを上回る利点があった。画像やテキスト、音声データの学習はめどが立ち、動画への対応が進む。人間がコミュニケーションする情報のほとんどを機械で扱えるようになった。情報系研究者は誰でも使えるほど使い勝手が良い」

 「次に計算プラットフォームが広く提供された。グーグルの『テンソルフロー』など基本的な深層学習フレームワークや計算ライブラリーが提供され、計算環境は買えば手に入る状況になった。最後は米コーネル大の論文共有サイト『アーカイブ』(arXiv)だ。もともと物理学分野で論文の査読が終わる前のペーパーを共有するために始まったが、コンピューターサイエンスの研究者が投稿するようになり投稿が爆発的に増えている」

 「この三つがそろったことで、研究開発が飛躍的に加速した。アーカイブで論文を読んで、良いアイデアをみつけたらプログラムを書いて一晩計算機を回す。翌朝、良い結果が出ていたら2-3時間で論文を書いて投稿する。そしてアーカイブで次のアイデアを探す。研究者が知恵を絞って書いた論文は次の日にはキャッチされている。数日後には、その先の論文が投稿される。こんなことが日常的に行われている。もう老人にはついていけない」

 -プログラムは開発共有サービスの「ギットハブ」(GitHub)をはじめオープンソースも整いました。
 「使えるオープンソースはどんどん広がっていく。SNSで『いいね』ボタンを押すかのようだ。プログラミング自体も変わり、コピペ感覚で作られるようになった。いまの若い世代はコードを自分で書くというよりも、コードを検索してコピペする。探して見つからなければ、また探す。プログラミング言語の『パイソン』(Python)が広く使われるのはコピペしやすいからだ。二次元的に展開され、見た目で構造がわかりやすい。慣れると使えそうなコードがぱっと見でわかる」

 「私が若い頃は図書館で論文を探し、プログラムは自分で書いた。図書館のどの棚の、どの雑誌にこの情報はあるはずと、いわば構造化された考え方をしていた。いまの世代は初めから検索だ。知識はフラットで、必要な情報は検索し、足りないものは集めてくる。自分が不得意な分野は、得意な人から力を借りる。借り物であることに抵抗はない。シェアリングの考え方だ。分野の垣根なくつながり、高速にアイデアを試していく。今回のAIブームは若い世代の強みが表れている。正直、学会や論文はどうなるのだろうと考えさせられる。学術界は論文を査読し、科学として体系立ててきたが、いまの流れに追いつけるとは思えない。だが学会を含め、コミュニティーは人が作るものだ。この流れは止められないだろう」

 -研究者が先端を走り続けるのは大変ですね。研究環境がオープン化することは教育環境もオープン化しているといえます。ですが日本はAIやデータ科学の人材が足りないとされています。
 「英語が読めれば無尽蔵に勉強できる環境だ。私自身、研究所の所長をしていると自由な時間はほとんどない。だが通勤電車の隙間時間で十分勉強できてしまう。アーカイブ論文のハイライトが日々ツイートされ、解説や要点がスライドシェアで共有される。スマートフォンだけで技術解説を読み、論文チェックができてしまう。すべて無料だ。オープン化は学術にとって一つの理想ではあるが、大学や教員の役割はどうなるのかと考えてしまう」