議員の席に資料などが置いたままになっているフィンランド国会の議場(撮影:佐谷恭)

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(2)の続き

議員の給与はサラリーマン並み

 10月1日。時折小雨が降っており、街歩きには適さない天候だった。18世紀から続く伝統のニシン市を見学した後、港に近いマーケットスクエアから、雨宿りをしながらヘルシンキの中心部を目指した。宿泊しているホテルに向かう途中にある建物に、10人ほどの観光客が集まっていた。そこはフィンランドの国会だった。

 ちょうど見学時間が始まる直前だったので、その一行に加わることにした。国会ツアーは大抵、誰もいない議場に案内され説明を受けるだけなのだが、国会の仕組みにはその国の考え方などが反映されているので面白い。実は、隣国スウェーデンの国会見学をしたこともあり、全閣僚がおしゃれにキメてポーズを取っているポスターをお土産にもらい、驚いた経験がある。

 日本では国会というと一般人には近寄り難い雰囲気がある。国会議員は「先生」などと呼ばれ、庶民との違いが強調されたりもする。では、フィンランドの国会はどうか。まず、近寄り難い雰囲気はなかった。国会の建物には柵もなく、軒先で雨宿りできるぐらいだ。もちろん、中に入るには荷物を置いて、金属探知機をくぐる必要があるのだが。

 議場に入ると、それぞれ議員の席に資料が置きっぱなしになっていた。説明員に問うと、「熱心な議員は早めに議場に来て資料を読み、論点を整理する。そのために資料が必要」と答えてくれた。さらに聞くと、多くの国会議員は職業政治家ではなく、ほかに仕事を持った人がほとんどだそうだ。中には地方議員との掛け持ちもいると聞いた。フィンランドの国会議員にとって、「国会は政治の場、会社は仕事の場、自宅は家族との場」とはっきりしているのかもしれない。ちなみに、議員としての収入は、「サラリーマンと同程度」だそうだ。

女性と共に将来を考える国

 また、フィンランドの国会は女性が多いことでも有名だ。現在は全議員の3分の1以上が女性で、数年前には大統領、首相、国会議長がすべて女性だったこともあるという。1906年に同国で普通選挙が始まったとき、国民は世界で初めて男女ともに被選挙権を含めた参政権を得た。

 法案などが委員会で審議、採決され、本会議にかけられるところは、日本の国会と似ている。しかし、15ある常任委員会の中に「The Committee for the Future(未来委員会)」という聞きなれないものがあり、興味を覚えた。同委員会は、将来起こる可能性のある大きな問題について、政策とビジョンを作ることが使命だという。日本で言えば「少子化」や「環境問題」などがテーマになる。政権が短命に終わることが多い日本で、こういう長期的なビジョンについて話すグループがあれば面白い。フィンランド出身の(日本の)参議院議員ツルネン・マルテイ氏は自ら発行するメールマガジンの中で、6年と任期の長い参議院で、衆議院と異なる役割を果たすために未来委員会を置くべきと主張している。一理あるように思う。

 今年はフィンランド国会創設100周年。ロシア帝国の占領下にあった1906年、日露戦争の敗戦でロシアが動揺したときに、フィンランドは普通選挙による近代議会をつくった(独立は1917年)。その創設に間接的にでも関わった日本は、100年の歴史に敬意を表し、フィンランド国会のあり方を学んでみてはどうだろうか。雨宿りで入った国会で、そんなことを思った。(つづく

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