だれにでも、失敗はある。そんな時に助けてもらえれば嬉しい。感謝の念も湧いてくる。見知らぬ人ならばなおさらだ。「脳残」君も、うっかりして物を無くしてしまった時の、見知らぬ日本人の親切に、心の底から感謝・感動した。そして、「どうして日本は無くした物が戻ってくるのだろう」と考えた。

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 だれにでも、失敗はある。そんな時に助けてもらえれば嬉しい。感謝の念も湧いてくる。見知らぬ人ならばなおさらだ。「脳残」君も、うっかりして物を無くしてしまった時の、見知らぬ日本人の親切に、心の底から感謝・感動した。そして、「どうして日本は無くした物が戻ってくるのだろう」と考えた。

 「脳残」君は学校に行く途中、24時間営業の100円ショップで食パンを買った。

 店を出ようとした時、雨が降りだした。そこで、持っていたレインコートを着た。そのために、店の出口のところにあったカプセルトイ販売機、いわゆる「ガチャガチャ」の上に食パンを置いた。そして、忘れてしまった。気づいたのは、学校に着いてからだ。

 消費税込みでわずか105円にすぎないが、惜しいし悔しい。中国での常識では「出てくる可能性は、限りなくゼロ」。でも、ここは日本だ。「無くした物の半数以上は戻ってくる」と聞いている。とにかく、学校が終わってから、店に駆けつけた。

 「ガチャガチャ」の上を見た。ない。「しかたないか」と、あきらめかけた時だ。店の入り口のところで、他の人とおしゃべりをしていたやや年配の女性が「これ、あなたのでしょ」と、食パンを渡してくれた。たしかに、なくした品と同じだった。

 「脳残」君によると「いまだに分からない、不思議だ」という。なぜ、自分がなくしたものと知っていたのか。しかも、食パンを置き忘れて店を去ってから、何時間もたっていた。食パンを渡してくれた女性は服装からして、店員さんとは思えないという。「脳残」君はつぶやいた。「日本人の神秘だ」――。

 「脳残」君には、中国にいたときの苦い思い出がある。妻とまだ結婚する前、プレゼントしようと思って、ゲーム機のプレイ・ステーション・ポータブルを買った。うっかりして、途中の道に落としてしまった。すぐに気づいて、落としたと思われる場所に戻った。2分もたっていなかったはずだ。しかし、影も形もなかった。

 「脳残」君は、戻ってきたパンを食べた。人の情けが身にしみた。ありふれた食パンだが、とりわけおいしかった。

 「脳残」君は最後に語った。「ボクの頭に問題があるのか、日本に来てから無くし物ばかりしている。財布をなくしたこともある。かなりのお金が入っていた。でも、無くした物は全部戻ってきた」という。

 どうして、日本では無くした物が戻ってくるのか。人々が豊かということもあるのだろう。それは否定できない。しかし、法律や人々の意識がしっかりしていることは見逃せない。「拾得物は自分のものでない。勝手に取ったら犯罪になる」ということを、皆が知っている。「脳残」君の結論は「日本のような社会環境ならば、だれもが自分の顔に泥を塗るようなことはしたくないだろう」ということだった。

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 「脳残」君は、日本語学校に通う中国人留学生のペンネームだ。来日は2011年5月。自分自身が登場するマンガ『日在日本』が、中国のインターネットで人気を集めた。掲載サイトには、「日本の真実を教えてくれる」などのファンの声が次々に書き込まれている。

 『日在日本』は作者の了承を得て、日本人読者向けにサーチナでも掲載できることになった。「脳残」君の目を通して、中国人がいだく「日本留学の印象」をお伝えしたい。(編集担当:如月隼人)