「今日のサッカー界は、より借金を抱えている者がより勝つ仕組みになっているように見える。これは倫理的におかしい」

 モスクワでの昨季CL決勝を前に、プラティニUEFA会長が放った言葉だ。決勝を戦ったマンチェスター・Uとチェルシーは、毎年数百億円という収入がある一方で、実はとびきりの負債を抱えている。欧州サッカー界の社会的健全化を謳い会長に就任したプラティニが今取り組んでいるのは、頂点から末端に至る欧州クラブの会計赤字を撲滅することである。

 一企業が成長を図るとき、資金を調達・投入し、後に回収を目指すのは資本主義ビジネスの道理であり、そのブランド力とポンド高によってプレミア勢が世界中の投資家の投機対象となったのも当然の帰結といえる。「赤字イコール倫理悪である」というのは、あまりに短絡すぎる考えのようだが、問題は我が世を謳歌するイングランドにではなく別の諸国にある。

 プラティニはこれまでにCL及びUEFA杯改革を行い、ポンドやユーロほどの競争通貨を持たない東欧クラブにも欧州カップ戦への可能性を広げたが、それでもなおそれらの財政基盤は脆弱だ。また昨季起こったレバンテの給料未払い事件や、先日発覚したメッシーナ(セリエB)の破産など、スペインやイタリアの地方クラブ財政状況は明らかに疲弊している。皆が皆、プレミアのようにはいかない。

 C・ロナウド(マンU)に1億ユーロ、カカー(ミラン)に9000万ユーロ。そんな数字が飛び交う今夏の移籍市場にあって、かつての名将サッキが伊紙『ガゼッタ・デロ・スポルト』上でプラティニへ提言した。

 「現在のクラブは、稼ぐ額以上に(金融機関や投資家から)借入を重ねている。プラティニは各クラブが真っ当な会計によって運用されるよう介入すべきだ」

 先週末、仏ブレストで欧州27か国の蔵相と会合をもったプラティニはこう応えた。

 「サッキ氏の意見に完全に賛同する。クラブ側もまたこのままでは破滅へ向かうしかないことを知っている。クラブ側と折衝しつつ、全員が納得できる解決策のために動いている。ルンメニゲ(Bミュンヘン最高取締役)が唱えている、クラブ会計総支出額制限も一つの手だと考えている」

 そのクラブ総支出額制限案だが、クラブ支出の大部分を占めるのは選手の人件費。しかし抑制策として真っ先に上げられる「サラリーキャップ制度」の導入は、欧州においてほぼ不可能だ。自由主義経済を絶対の是とするEUの認可を受けられるはずがない。

 各クラブの会計へ監査介入しようにも、各加盟国の税制はバラバラ。国によって差異が出ないよう、どう折り合いをつけるのか。さらにモラッティ(インテル)、アブラモビッチ(チェルシー)のようなパトロンが、“ポケットマネー”でクラブ損益を補填する場合には、企業としてのクラブ支出制限など意味を成さないものになってしまう。

 すべてのクラブから赤字を無くす。今のところ、これはプラティニの理想にすぎない。法律や市場、数字といった、目に見えない巨大すぎる相手との戦いを始めたかつてのファンタジスタに勝算はあるだろうか。