[Photo by Kim Kyung Hoon / Reuters]

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■森保監督に完敗した開幕戦
 浦和レッズは2007年にアジアチャンピオンに輝いてからタイトルとは無縁となっている。2007年は、ACLを制覇し、リーグ戦でも終盤戦まで他を寄せ付けない圧倒的な強さを見せていた。誰もがリーグ戦を連覇すると確信していた。

 ところが、年間60試合を超える公式戦に選手はかなり疲弊していた。リーグ戦でも最後の最後に失速。最終戦でJ2降格が決まっていた横浜FCに敗れ、鹿島アントラーズに優勝をさらわれてしまった。これ以来レッズはタイトルとは縁遠くなっている。

 浦和レッズに栄光の日々をもたらしたギド・ブッフバルトがチームを去ったあと、オジェック、エンゲルス、フィンケ、ゼリコ・ペトロヴィッチと4人の指揮官が監督の座に就いた。5年間で4人の監督交代という事実をみれば、このチームがうまくいっていないことは明らかだ。もちろん監督が長く指揮を執るから、良いチームというわけではない。しかし「サッカーとは監督のスポーツ」であり、監督の考えがどれくらい選手たちに浸透しているのかは、ピッチに立つ選手たちを見ればはっきりする。

 クラブは巻き返しを図るために、昨季までサンフレッチェ広島で6シーズン指揮を執ったミハエル・ペトロヴィッチを招聘した。監督就任までの経緯などは、違う機会でじっくりと考えることにしたい。今回は2012シーズンを、浦和のこれまでの戦い方から占ってみることにしたい。
 
 リーグ開幕戦はペトロヴィッチ監督の古巣であるサンフレッチェ広島が相手だった。浦和にはかつて広島に所属した柏木陽介とドイツの1.FCケルンから期限付き移籍している槙野智章がいることから、大きな注目を集めた。

 ペトロヴィッチ監督は自らが好む3−4−3(3-4-2-1)のフォーメーションを採用。対する広島の森保一監督も全く同じフォーメーションで対峙してきた。イングランドのレスター・シティから加入した阿部勇樹をセンターバックに、槙野を左、五輪代表の濱田水輝を右に配置し、ボランチは柏木と鈴木啓太が入った。

 これで守備の安定性を得られるだろうと考えたペトロヴイッチ監督は、ケガから復帰したばかりの山田直輝をトップ下のシャドーのポジションに配置し、トップには田中達也を起用した。田中は広島の佐藤寿人とはプレースタイルは異なるものの、アジリティ能力に長けている。田中の起用はターゲットとなる長身の選手を前線に配するのではなく、スピードを重視した攻撃を目指すというペトロヴィッチ監督からのメッセージだった。

 下馬評では、選手のポテンシャルの高さを比較し、浦和有利の声が多かった。ところが、いざ試合が始まると長年積み上げてきた戦術浸透の違いを、浦和はまざまざと見せつけられる形となった。

 攻守の連携もチグハグでボールは落ち着かず、浦和の攻撃の際に屈強な守備ブロックを形成する広島守備陣を前に放ったシュートはわずかに5本。縦パスは封じられ、逆に縦パスに翻弄されるという場面が連続した。広島はミキッチのスピードを活かすべく、徹底的に対峙する梅崎司の裏に縦パスを入れ続けた。この戦略は結果的に佐藤のゴールに結びついた。

 スコアこそ0−1だが、浦和は完敗だった。ペトロヴィッチの手の内は広島の森保監督にも、選手にも全てがお見通しだった。同じフォーメーションであることから、我慢比べとなるだろうと思われた試合も、広島に一日の長があったのは明らかだった。
 
■勝利の要因は現実的な布陣
 1週間後、広島に完敗したことを受けてペトロヴィッチ監督は選手起用を大幅に変更して試合に臨んだ。対戦する柏レイソルは昨年のリーグチャンピオン。ホーム開幕戦とあって埼玉スタジアムには4万1069人もの観客が集まった。DFにはセンターバックに永田充、右に坪井慶介の元日本代表の2人が入り、阿部は本来のポジションであるボランチで起用。柏木も押し上げられる形でトップ下のシャドーに配された。