(※写真はイメージです/PIXTA)

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定年や退職は、夫婦にとって生活の節目でもあります。仕事中心だった日々が終わり、これから二人で過ごす時間が増えると考える人もいるでしょう。しかし、その節目を「第二の人生の始まり」と捉えるのが、必ずしも夫婦そろってとは限りません。長年言えなかった不満が、退職を機に表面化することもあります。

「これからは二人でゆっくり」のはずが…妻に告げられた言葉

「退職金、3,000万円くらいになるらしい」

夫の修一さん(仮名・65歳)からそう聞いたとき、妻の雅子さん(仮名・63歳)は、ようやく肩の力が抜けたといいます。

夫婦は結婚して35年。子ども2人はすでに独立し、住宅ローンも数年前に完済していました。

雅子さんは結婚後、子育てをしながらパート勤務を続けてきました。家事や学校行事、義父母の手伝いなど、家庭のことはほぼ雅子さんが担ってきたといいます。

修一さんは会社員として忙しく働き、帰宅は遅い日が多く、休日も仕事関係の付き合いがありました。

「ずっと、夫が定年になったら一緒に旅行しようと思っていました。子どもにもお金がかからなくなったし、これからやっと夫婦の時間ができるんだと」

退職を数ヵ月後に控えたある日、雅子さんは旅行会社のパンフレットを食卓に置きました。

「最初は温泉でも行かない?」

すると修一さんは、しばらく黙ったあと、思いもよらない言葉を口にしました。

「その前に話がある。退職したら、離婚したいと思ってる」

雅子さんは意味がわからず、「どういうこと?」と聞き返しました。

浮気をしているのか。別に暮らしたい相手がいるのか。最初は疑ったものの、修一さんは否定しました。

「誰かがいるわけじゃない。もう残りの人生くらい、一人で好きに暮らしたいんだ」

雅子さんには、さらに理解できませんでした。仕事が忙しい夫に合わせ、家のことを引き受けてきたのは自分です。修一さんが働き続けられたのも、家庭を守ってきたからだという思いがありました。

「あなたが好きに働けるように、私はずっと家のことをやってきたじゃない。それなのに、会社員生活が終わった途端に私もいらないってこと?」

厚生労働省『令和6年(2024)人口動態統計』によると、2024年の離婚件数は18万5,904件。このうち、同居期間35年以上の夫婦の離婚は7,193件でした。長年連れ添った夫婦であっても、退職や子どもの独立など生活の節目を迎えるなかで、夫婦関係を見直すケースがあります。

雅子さんがもっともショックを受けたのは、「離婚したい」という言葉そのものだけではありませんでした。

修一さんが、何年も前からそのつもりだったと知ったことでした。

「定年まで待っていた」夫が明かした35年間への不満

話を重ねるうち、修一さんは少しずつ本音を話し始めました。

夫婦仲が決定的に悪かったわけではありません。

しかし、子どもが独立してからも会話は必要事項ばかり。休日に一緒に出かけることもほとんどなく、修一さんは「夫婦というより同居人のようだ」と感じていたといいます。

「俺が帰っても、夕飯を出して、それで終わりだっただろ」

雅子さんは思わず言い返しました。

「あなたが帰ってくるのはいつも遅かったでしょう。私だって話しかけても、疲れたって言われてきたのよ」

二人とも、自分なりに家庭を守ってきたつもりでした。

しかし、修一さんは「仕事を辞めてから今の生活を続けたくない」と考え、雅子さんは「仕事を辞めればようやく夫婦の時間が始まる」と考えていたのです。同じ35年間を過ごしながら、退職後に思い描いていた生活は正反対でした。

さらに雅子さんが現実に引き戻されたのは、退職金の話でした。

修一さんは「退職金は自分が働いて得たものだから、自分の老後に使いたい」と口にしました。

しかし財産分与の対象となるのは、婚姻中に夫婦が協力して取得・維持した財産で、土地や建物、預金、株式などが含まれます。一方の名義であっても、実質的に夫婦の協力で形成された財産であれば対象となり得ます。厚生年金については、財産分与とは別に年金分割の制度があります。

雅子さんはすぐに離婚届へ署名することはせず、まず夫婦の預貯金や保険、退職金などを整理することにしました。

「離婚したくないというより、何も知らないまま『はい』とは言えませんでした」

修一さんも、離婚すれば退職金3,000万円をそのまま自由にできるわけではないことを知り、当初より慎重になりました。

現在、二人はまだ離婚していません。すぐに関係を修復できたわけでもありませんが、退職後にどこで暮らしたいのか、いくら必要なのか、これまでの生活をどう考えているのかを初めて具体的に話しています。

長い婚姻生活は、それだけで老後も同じ方向を向いていることを保証するものではありません。

退職金や年金の準備だけでなく、退職後に誰と、どんな生活を送りたいのか。定年が近づく前に夫婦で言葉にしておくことが、思わぬすれ違いを防ぐために必要なのかもしれません。