JA農協でも農水省でもコメ農家でもない…2026年度もコメの価格を吊り上げ続けている"真犯人"

■コメの価格はかつての1.5倍のまま
以前、コメの価格は玄米60kgあたり1万2000〜1万5000円くらいでしたが、2025年産は3万円を超え、今年5月時点でも3万3164円と、過去の水準から見れば大きく値上がりしたままです。
白米での店頭価格は、以前は一般銘柄米で5kgあたり2000〜2500円ほどでしたが、昨秋には4000円を上回り、今年6月下旬の平均は3458円でした。少しは値下がりしたものの以前に比べれば高く、家計にじわじわと打撃を与え続けています。
しかし、昨年のコメの歴史的高値を受け、今年は作付け面積が増え、生育も順調なことから「これでコメの価格は落ち着くだろう」と期待する声が少なくありません。実際、令和8年産の概算金は、前年よりも下がる見通しです。早場米は1万8000円で、昨年に比べると約4割減の価格になったと報道されています。ただし、まだ店頭価格は予想されたほど下がっておらず、依然として「コメが高い」という声がある状況です。
では、コメの高値は誰がつくっているのでしょう。米価高騰は、JA(農協)、農林水産省、コメ農家のせいだという声がありますが、本当なのでしょうか。
■JA農協が価格をつり上げているのか
じつは、2025年産のコメの価格が高騰したのには理由があります。2023年度産の米が悪天候により不作だったために在庫の積み増しがないままとなり、2024年度産の米を先食いしたからです。当時、一部の米農家や関係者から、その先の米価高騰を危惧する意見が出ていましたが、あまり大きく報道されることなく、2026年度を迎えます。
しかも、2025年の生産見通しが定まらず、JAもまだ概算金の発表をしていない頃から、一部のJA「外」の業者が先んじて高額な値段を提示して集荷にまわっていたことが複数の農家や農協関係者の証言からも明らかになっています。その結果、JAとしては在庫を確保しなければならないので概算金を引き上げ、結果的に2025年産米が豊作傾向だとわかる頃には、コメの取引価格が上がりきっている状態でした。
つまり、需給の逼迫、在庫不足の見通しによって市場で高値になってしまい、結果的に価格が上がることになったのです。ですから、「JA農協が価格を吊り上げた」と断定してしまうのはおかしいと言わざるを得ません。
だいたい、現在のコメ流通全体におけるJAの集荷率は約3〜4割です。そのほかの約6〜7割は民間業者などですから、「JAは比較的大きなプレイヤーだが、市場を牛耳るほどの支配力はない」ということは明らかです。

■コメの妥当な価格はいくらくらいか
では、コメの妥当な価格はどのくらいでしょうか。世の中の物価全体が上昇していて、燃料や肥料といった資材価格が上がる中で、コメの価格を以前の水準である店頭価格5kg2000円程度に抑えるのは、農家の経営持続性から考えても難しいでしょう。
ある専門家は、コメ生産のコスト指標となる「全算入生産費」は市場に任せると60kgあたり7000円であり、本来の小売価格は5kg1539円が妥当だと主張しています。しかし、実際の全算入生産費は、令和5年において60kgあたり平均1万5944円であり、50ha以上の大規模経営だけの平均でも1万220円です。
もちろん、消費者から見れば、主食であるコメは安いほど助かりますし、望ましいことだと思います。しかし、「60kgあたり7000円でコメの生産を続ける」というのは生産者から見れば非現実的です。小規模農家が淘汰されて効率化したとしても、大規模農家の全算入生産費から30%以上も下回る価格でコメが売られることになれば、生産し続けることはできません。日本の稲作は崩壊していくでしょう。そうなれば、供給不足によって、コメの価格はむしろ際限なく上昇していくはずです。
今現在のコメの適正価格を出すことは難しいですが、精米歩留まりや流通経費を考慮に入れた上で安定した農業生産を担保するには、玄米60kgあたり2万円前後(店頭売りで5kgあたり2500〜3000円程度)が妥当ではないでしょうか。

■大規模化すればコストが下がるか
では、コメ農家の大規模化を進めれば、少しは価格は下がるでしょうか。たしかに農業の効率化においては重要な視点です。ただ、前述した通り、大規模化しても以前に比べて農業資材などのコストがかかるため、大幅にコメの価格を下げることは難しいでしょう。
さらに、日本では国土の約7割が山地・丘陵であり、平坦な農地ばかりではありません。農水省が区画や水路などを整備して生産性の高い農地を作る事業「ほ場整備」の指針においても、平坦地と傾斜地では考え方を分けていて、地域条件に応じた大区画化が前提です。つまり、「農家を一律に全部大規模化すればよい」という単純な話は通用しません。地形・水利・地域合意の制約があるため、全国で同じ形の大規模経営に揃えることは現実的に難しいのです。
また、水田はコメを生産するだけでなく、大雨の際に雨水を一時的に貯留して洪水を軽減する機能、水を地下へ浸透させて水資源を涵養する機能、多様な生物の生息環境となる機能、美しい農村景観を維持する機能など、多面的機能を持っています。もしも小規模な水田が淘汰されれば、食料生産だけでなく、こうした多面的機能も失われてしまうことを忘れてはいけません。
■とにかく増産しまくればいいのか
「減反政策によりコメ不足になってコメの価格が高騰したのだから、とにかく増産すれば値下がりする」という意見もあります。しかし、これは事実とは異なります。
そもそも、減反政策が導入された背景には、食生活の多様化や人口減少などにより、日本人のコメ消費量が長年にわたって減少し続けてきたという事情があります。需要以上のコメを作り続けると大量の余剰米が発生し、価格が暴落して農家の経営が成り立たなくなるおそれがありました。そのため、需要に応じた生産へ誘導する政策として「減反政策」が採用されたのです。
そして、今では「減反政策」は廃止されていて存在しません。主食用米から麦・大豆・飼料用米などへの転換を支援する仕組み「水田活用の直接支払交付金(水活)」はありますが、これは「米を作らせないための制度」ではありません。コメの需要が少ない場合に、農家が水田を他に活用することができるようにするための制度で、いわば需給バランスをとるためのクッションのような役割を果たしています。
現在の農政では、できるだけ水田を維持しながら、需要に応じたコメの生産を行い、食料生産基盤と多面的機能を将来にわたって守ることを目的としています。だから、「とにかくコメを増産すれば解決する」というわけではないのです。

■コメが余ったら輸出すればいい説の問題
では、「コメを大量生産して価格を下げ、余ったら輸出すればいい」という主張については、どう考えたらいいでしょうか。
輸出入米の価格は、為替相場、輸送費、品種、品質、契約条件などによって大きく変動します。また、日本米が海外でどの程度の価格で販売できるかというのは、相手国や市場によって大きく異なるものです。ですから、例えば「カリフォルニア米が5kgで約9000円だから、日本米は5kgが1万1000円で売れる」などと推測することはできません。ちなみに今の日本産米の輸出価格は、白米60kgで約1万5000円程度です。ただ、海外の消費者が毎年継続して日本米を購入してくれるという保証はありません。
世界のコメ市場は、小麦やトウモロコシなどと比べると取引量が限られていて、タイやインド、ベトナム、パキスタン、アメリカなどの輸出大国が激しく競争しています。日本米は品質面で高い評価を受けてはいますが、その需要は主に富裕層や日本食市場に限定されています。品質や食味が優れていても、簡単に輸出量が激増することは考えにくいでしょう。
しかも、世界中で大量消費される長粒種ではないので、一般米とは市場そのものが異なります。おまけに現在の日本米輸出の主力はパックご飯・加工品であり、原料米としての輸出は限定的であることにも留意が必要です。
このような状況下でコメの輸出を拡大するには、生産量を増やすだけではいけません。海外市場の開拓、ブランド戦略、物流網の整備、精米・保管施設の拡充、検疫対応、販売代理店の育成など、多額の投資と長期間の市場形成が必要になります。もちろん、「輸出を拡大すべき」という方向性そのものは否定しませんが、現在の輸出実績をすぐに何十倍にも増やすのは不可能です。
■農水省の失策だったのか
以上のようにコメの価格高騰は、JA農協が引き起こしたものでも、農水省だけの失策でも、コメ農家が意図的に価格を吊り上げた結果でもありません。
もちろん、政治に全く問題がなかったとはいえないでしょう。需要予測の精度向上や備蓄米の運用、統計手法の検証、市場への情報発信など、今回の経験を踏まえて改善すべき点はたくさんあると思います。
特に平年作を前提とした需給見通しだけでは、近年の急激な需要変動、異常気象などに十分対応できないことが明らかになりました。今後は需要・供給の双方における不確実性を織り込んだ、より柔軟な制度設計が求められます。
それでも、農業は工業のように、必要量を短期間で増産できる産業ではありません。ほとんどの作付けは年単位で計画され、収穫量は天候や病害虫などの自然条件に大きく左右されます。さらに、常に変化する日本人の消費動向、訪日外国人の増減といった社会経済情勢にも影響されます。
このような数多くの不確実性を抱える中で、毎年過不足なく需給を一致させることは極めて困難なことなのです。
■あえて「真犯人」を挙げるなら
それでも、今回あえてコメ価格高騰の「真犯人」を挙げるとすれば、それは特定の組織や個人ではなく、「需給逼迫が生み出したコメ不足への恐怖や不安が、市場全体へ広まったこと」ではないでしょうか。
市場経済において、価格というのは、誰か一人が自由に決められるものではなく、売り手と買い手の期待や不安、将来的な予測までが織り込まれて形成されるものです。特にコメのように収穫が年1回しかなくて短期間に供給量を増やせない農産物で、しかも主食だと「不足するかもしれない」という心理だけで価格が大きく跳ね上がります。今回の米価高騰は、まさにそうした市場心理が需給逼迫と結び付いて生じた典型例といえるでしょう。
だからこそ、価格高騰のたびにJA農協や農水省、あるいは農家へと責任を押し付けていても、本当の原因や再発防止策が見えてきません。必要なのは、誰かを「真犯人」に仕立て上げることではなく、需給や在庫、市場心理がどのように価格へ影響したのかを冷静に分析し、同じ事態を繰り返さないための情報発信、制度づくりを積み重ねていくことだと、私は考えます。
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SITO.(シト)
農家、農業ライター
1993年、愛知県生まれ。キャベツとタマネギを栽培する露地野菜農家で、農業ライター。就農前から日本農業の諸課題に関心を持ち、生産現場の知見と幅広い農業情報を融合しながら「農業とそれに携わる人たちの持続可能な社会」を模索し続けている。また、農業分野にまつわる誤情報やデマと戦う姿勢を貫き、学術的な知見と実践的な経験の両面から、正確な情報発信に努めている。
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(農家、農業ライター SITO.)
