これで寂しさが紛れるなら…〈年金16万円〉〈老後資金2,000万円〉74歳独居男性が始めた“新たな趣味”。半年後、ATMで気づいた「異変」
内閣府の「孤独・孤立の実態把握に関する全国調査(令和6年)」によると、孤独感を感じている人がその原因として最も多く挙げた出来事は「家族との死別(24.6%)」であり、次いで「一人暮らし(18.8%)」となっています。たとえ潤沢な資産を持っていても、それが「孤独」と掛け合わされると、思わぬワナにハマってしまう可能性も……。74歳男性の事例を通して、「老後の孤独感」がどのように生活に影響しうるのか、その現状と注意点をみていきます。
お金があっても他人事ではない「老後の孤独感」
老後の生活においては、「お金さえあれば安心」とは限りません。内閣府の「孤独・孤立の実態把握に関する全国調査(令和6年)」によると、孤独感を抱く人がその原因として最も多く挙げた出来事は「家族との死別(24.6%)」で、次いで「一人暮らし(18.8%)」となっています。長年連れ添った配偶者を亡くした単身高齢者は、孤独を抱えやすい傾向にあるのです。
一方で経済状況を見ると、内閣府「令和6年度 高齢者の経済生活に関する調査結果」によれば、高齢者の金融資産総額の平均は1,769万円にのぼり、ある程度の資金的余裕を持つシニアも少なくありません。
しかし、この「ぽっかりと空いた孤独な時間」と「手持ちの資金」が結びついたとき、思わぬリスクが生まれます。マサオさん(仮名・74歳)も、2,000万円という十分な老後資金がありながら、妻を亡くした喪失感から“とある趣味”にのめり込んでしまいました。
愛する妻を失い、孤独な時間を埋めた「新たな趣味」
「妻が元気なころは、二人でいろいろな場所に出かけては充実していました。でも、一人になってからは毎日がただ過ぎていくだけで……」
マサオさんは中堅のメーカーで定年まで勤め、現在は持ち家の一戸建てで一人暮らしをしています。3年前に妻を病気で亡くしてからは、家事も最低限になり、誰とも会話をしない日が続くことも珍しくありませんでした。
マサオさんの収入は月に約16万円の年金のみですが、預貯金は約2,000万円あります。住宅ローンもすでに完済しており、一人で生活していくうえで経済的な不安は特にありません。
「お金に困ることはないのですが、とにかく時間が余るんです。話し相手もおらず、孤独で寂しくて」
そんなマサオさんの日常が変わるきっかけは、近所の知人からパチンコに誘われたことでした。
「家に引きこもってばかりじゃ気が滅入るだろう。少し気晴らしに打ちに行こう」
最初は本当に軽い暇つぶしのつもりでした。数千円だけ使って、少し勝ったり負けたりして帰る。店内のにぎやかな音や光のなかにいると、一人きりの静かで寂しい家にいるよりも気が紛れたといいます。通ううちに顔見知りの常連とも軽く挨拶を交わすようになり、それが嬉しくて少しずつ頻度が増えていきました。
週に1回程度だったのが、気づけば週に3回、4回と増え、午前中から夕方まで入り浸る日も増えていきます。さらに、パチンコだけでは飽き足らず、競馬やボートレースなどの公営ギャンブルにも手を出すようになりました。
「自分には2,000万円の貯金があるから、多少娯楽に使っても大丈夫だろうと思っていました。生活費を切り詰めているわけではないし、これで寂しさが紛れるなら安いものだと言い聞かせていたんです」
500万円超が“消えた”…半年ぶりの記帳で気づいた「異変」
マサオさんが異変に気がついたのは、ギャンブルにのめり込んでから半年ほど経ったときのことです。
銀行に立ち寄り、せっかくだからとATMで通帳を記帳してみると、印字された残高を見てマサオさんは思わず息を呑みました。この半年の間に、預貯金から500万円以上が消え去っていたのです。
衝撃を受けたマサオさんでしたが、すぐにギャンブルをやめることはできませんでした。「失った分を取り戻さなければ」と焦りが生まれ、より大きな金額を賭ける悪循環に陥ってしまったのです。
「孤独を紛らわすために始めたはずなのに、結局は自分をさらに追い詰めてしまったんです。退屈と寂しさの埋め方を間違えてしまいました」
厚生労働省の「ギャンブル障害およびギャンブル関連問題の実態調査(令和5年度)」によると、ギャンブル等依存が疑われる人が過去1年間で最もお金を使ったギャンブルは「パチンコ(46.5%)」が最多で、「パチスロ(23.3%)」「競馬(9.3%)」と続いています。また、ギャンブル等依存が疑われる人は、そうでない人に比べて有意に抑うつや不安が強いこともわかっています。孤独を癒すための気晴らしが、逆に心を蝕んでしまったのです。
現在、マサオさんは地域の相談窓口に足を運び、ギャンブル依存からの脱却を図っています。それと同時に、生活のリズムを立て直すため、週に2回、地域のボランティア活動に参加し始めました。ボランティアを通じて地域の人々と関わる時間が増えたことで、ギャンブルに向かっていた意識が自然と外の世界へ向き始めたといいます。
「人と関わることで、自分もまだ誰かの役に立てるんだと実感できました。お金を使うこと以外で、ようやく孤独を埋められる場所を見つけられた気がします」
老後の生活は、ただお金があれば幸せになれるというわけではありません。豊富な時間とお金の余裕があるからこそ、それをどう使い、どう社会と関わっていくかが問われます。マサオさんのように、失いかけた日常を取り戻すための鍵は、案外「人とのあたたかなつながり」のなかにあるのかもしれません。
[参考資料]
・内閣府「孤独・孤立の実態把握に関する全国調査(令和6年)」
・内閣府「令和6年度 高齢者の経済生活に関する調査結果」
・厚生労働省「ギャンブル障害およびギャンブル関連問題の実態調査(令和5年度)」

