【現役デザイナーの眼:BMWノイエクラッセ】賛否両論の方向転換 市販化で薄れたコンセプトの軽快感
これまでのデザインから大きく方向転換
7月22日、いよいよ『BMW iX3』が日本でも発表となりました。BMWの次世代プロジェクトである『ノイエクラッセ』は、今回発売されたiX3をはじめ、『i3』に先日本国でデビューした『X5』と3車種出揃っています。
【画像】賛否両論の方向転換?BMWの次世代プロジェクト『ノイエクラッセ』のコンセプトカー&市販モデルたち 全19枚
しかし、これまでのデザインから大きく方向転換したので、賛否が分かれていますよね。BMWがこれほど大胆にデザインを変えてきたのは、E36型3シリーズの登場時やクリス・バングルがデザインを指揮した時代以来でしょう。今回はどのような狙いがあるのでしょうか。

7月22日に『BMW iX3』が日本でも発表。BMWの次世代プロジェクト『ノイエクラッセ』、第1弾です。 ビー・エム・ダブリュー
近年のBMWは、大型化したキドニーグリルや複雑なキャラクターラインなど、存在感や迫力を強く打ち出すデザインが続いていました。それは主に市場ニーズを反映した結果ですが、一方でBMW自身も、この方向性を続けることに限界を感じていたのではないでしょうか。
ノイエクラッセでデザインを刷新
そこでEV時代の到来に合わせ、新しいブランドイメージを築くために登場したのが『ノイエクラッセ』です。名称も1960年代の名車を受け継ぎ、BMWの原点へ立ち返る意思を示していると言えます。
新しいデザインではキャラクターラインを極力減らし、メッキなどの装飾も最小限としました。キドニーグリルも昔に戻ったような比率に。装飾で個性を作るのではなく、プロポーションや面構成そのもので勝負しようという考え方です。

旧型と大きく異なる印象の新型BMW X5。ボリュームが強い上に影面が主張している前後フェンダーやリアの重さを感じるシルエットなど、プロポーションが洗練されているとは言い難いです。 BMW
トレンドを踏まえた王道のアプローチでありますが、同時にそれはとてもハードルの高いもの。これまでBMWが表現していたスポーティさや高級感を出しにくいんですよね。ちなみに現在この方向性で最も高い完成度を実現しているのは、ランドローバーだと思います。
コンセプトカーから市販車で変わった立体構成
ノイエクラッセには、元になったコンセプトカーが2台あります。『ビジョン・ノイエクラッセ・コンセプト』と『ビジョン・ノイエクラッセXコンセプト』です。この2台で印象的なのはフロントデザインだけではありません。私が特に注目していたのは、ボディサイドの立体構成です。
ドア断面を見ると、一般的なショルダーと呼べるような張り出しがないんですね。サイドガラスからドア面へ滑らかにつながる、台形のような断面構成となっています。まるでキャビンとドアが一塊のような構成なので、要素が少ないという点でミニマルなデザインです。

コンセプトカー『ビジョン・ノイエクラッセ・コンセプト』(上)とその市販車『i3』(下)。ボディサイドの構成も違いますが、シルエットも大きく異なります。特にキャビンからリア周りに関しては全く別の意図でデザインされたようです。 BMW
ショルダーがない分、前後シルエットのピーク位置を考えるとやや一体感に欠けるともいえますが、軽快で新鮮な印象を受けてました。
ところが市販車では、明確なショルダーが設けられてます。これは単なる面の修正ではなく、デザインモチーフそのものを変更したと言っても過言ではありません。その結果、コンセプトカーが持っていた軽快さは薄れ、代わりに重厚感や力強さが強調されています。
考えられるふたつの変更理由
この変更には、ふたつの理由が考えられます。
ひとつは、量産化に伴う設計上の制約。格納式ドアハンドルやドア内部の構造など、実現するための物理的な条件が影響した可能性があります。ただし、同様の立体表現はKIA EV3やEV9でも採用されているため、設計上の制約だけが理由とは考えにくいでしょう。

『ビジョン・ノイエクラッセ・コンセプト』。キャビンとドアが一塊のような構成で、要素が少ないという点でミニマルなデザインです。 BMW
もうひとつは、デザイン上の判断です。コンセプトカーで不足していた一体感を、市販車ではショルダーを通すことで前後との連続性を高め、BMWらしい安定感や力強さを与えることを優先したのではないかと推測。ただ、これによりデザインモチーフそのものがぼやけてしまったようにも思います。
ドア断面をはじめとするボディサイドの造形は、クルマ全体の立体構成を決定づける極めて重要な要素です。そこを変更するということは、デザイン全体を作り直すことに等しいんですよ。
だからこそ、この部分は本来、コンセプトカーの段階でもう少し煮詰められていてもよかったのではないか、というのが私の率直な印象です。
『BMWらしさ』はどこか
最後に最も気になることをひとつ。それは『BMWらしさ』の表現はどこかということです。
プレミアムブランドがデザインを刷新する際には、過去とのつながりがポイントになると考えます。私がここ20年くらいのBMWを見て感じてきたのは、長いノーズと後輪に荷重が乗っているような、伸びやかでFRらしいデザインでした。

コンセプトカー『ビジョン・ノイエクラッセXコンセプト』(上)とその市販車『iX3』(下)。i3よりはコンセプトカーに忠実なデザインですが、このデザインでBMWは何を訴求したいのかがいまいち伝わらないと感じてしまいます。 BMW
しかしノイエクラッセでは、その特徴は薄れています。サイドのプランカーブも勢いを出す構成ではないので、誤解を恐れずに言うと、これまでのBMWが『動的』というならばノイエクラッセは『静的』とも言えます。
EVの主流化に伴い、FRらしさではなく1960年代のシンプルでピュアなデザインを引き継いだというストーリーはわかるものの、いきなり過ぎて唐突に思えたんですね。
ただ、ノイエクラッセはBMWにとって大きな転換点であり、新しいデザイン言語を示した第一歩。今後このデザインがさらに磨き込まれ、シンプルさの中にBMWならではのプロポーションや力強さが表現されることで、本当の意味で新世代BMWデザインへと成熟していくことを期待しています。

