自殺志願者2名を絞殺、バラバラにして頭蓋骨を部屋に…「殺害・解体欲求を満たすため」のさいたま「承諾殺人」 それでも求刑は「懲役13年」で懸念される「再犯の可能性」
自殺を望んでいた2名の女性とSNS上でつながり、同意を得たのちに殺害したとする承諾殺人などの罪に問われている無職・齋藤純被告(32)の論告求刑公判が6月17日にさいたま地裁(井下田英樹裁判長)で開かれた。検察官は「類を見ない悪質性の高い事案」として被告に懲役13年を求刑した。
これまでの公判では、事件の背景に齋藤被告の「殺人衝動」があったことが明らかになっている。小学校高学年の頃に芽生えたその衝動は、中学生の頃に一層「明確になった」と明かしている。
かつては通り魔殺人を計画し、実際に刃物を携帯して見知らぬ女性を襲ったこともあった。しかし、女性に抵抗され「やめてください」と言われたことで「明日に向かって生きてる人を殺すのはよくない」と断念。「通り魔は遺体がそのまま残り、捕まるリスクが高い」と計算した被告が目をつけたのが、インターネット上の自殺志願者たちが集まる掲示板やSNSだった。

【高橋ユキ/ノンフィクションライター】
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神奈川県警の誤認
第一の殺人は、2015年のことである。インターネットの自殺掲示板を通じて知り合った横浜市在住のBさん(22=当時)は、接触してきた被告に対し「苦しくなく、楽に殺してほしい」「首吊りに見せかけてほしい」と望みつつも、直前には躊躇する様子も見せていたという。
しかし被告は2015年10月、Bさんの自宅を訪問。遺書を書かせた上で、睡眠薬を服用させて意識を失わせた。その後、ベッドで眠るBさんの首をコートのベルトで締め付け、トイレのドアノブに括り付けて「首吊り」へ偽装し殺害。事件当時、神奈川県警は遺書が存在することなどからこれを自殺と誤認し、事件は見過ごされた。
頭蓋骨を飾り棚に
1人目の犯行で「本当に死んだか確信が持てなかった」という不満を抱えていた被告は、2017年に発生した「座間9人殺害事件」に触発される。「自宅で殺害し、遺体を解体すれば確実に死亡を確認できる」と考え、X(旧Twitter)で、自殺願望を持っていた茨城県在住のAさん(21=同)と接触。
2018年1月4日、Aさんをさいたま市大宮区の自宅マンションへと呼び寄せた。その際、位置情報から足取りが残らないよう事前にスマートフォンの初期化やSIMカードを抜き取ることを伝えていたという。待ち合わせ場所の大宮駅で合流してからは、防犯カメラを避けたルートで自宅に向かった。
被告はAさんにも遺書を書かせ、睡眠薬を飲ませて眠らせた後、部屋のハシゴにかけたロープで首を絞めて殺害した。その後、あらかじめ用意していたノコギリや工具を使い、自室の床にブルーシートを敷いて遺体を解体。Aさんの頭蓋骨を、自室のガラス製の飾り棚に置物として長期間にわたり飾り続けていた。
ふたつの事件が発覚したのは2025年のことだ。齋藤被告の起こした「スマホ窃盗」がきっかけである。24年8月に大宮区内で発生した窃盗事件の捜査過程で被告の存在が浮上し、25年5月に窃盗容疑での逮捕へと至った。この件で捜査員が被告の自宅を捜索した際に、ガラスケースの中に置かれていたAさんの頭蓋骨を発見したのである。さらに捜査の過程で、Bさんの事件も発覚。こちらの事件も併せて起訴された。
再犯の恐れは大きい
一連の事件の裁判は、3月18日に始まった。検察官は6月17日の論告において、介護に疲弊してやむなく殺害に至った事案のような一般的な承諾殺人事件とは一線を画する、「類を見ない悪質性の高い事案」であると主張している。
「被告人の動機は、単に自らの個人的な殺人欲、解体欲を満たすためだけにあり、自己中心的で極めて悪質である」(論告より)
さらに検察官は、被告が「掲示板で死にたいと書いている人なら欲求を果たせ、遺書を書かせれば逮捕を免れる」と考え、被害者らに接触し、言葉巧みにその気持ちを死へと誘導した末に、時を逃さずに犯行に及んだ計画性も指摘した。殺害後は「(殺人)衝動がおさまった」と語っていた被告だが、その一方でBさんの毛髪やAさんの頭蓋骨を手元に保管し続けていたことにも触れ「再犯の恐れは極めて大きい」として、スマホ6台などの窃盗罪と合わせて懲役13年を求刑した。
母親の衝撃
論告に先立ち、衝立の奥から陳述を行ったのは、被害者Aさんの母親。約7年間、生きていると信じて娘の帰りを待ち続けた思いや、遺体が見つかったと連絡を受けた日の衝撃を語った。
「平成8年12月16日、娘は誕生しました。生まれる日まで性別がはっきりせず、第一子は女の子がいいと思っていたので歓喜したことが忘れられません。実りある人生を歩んでほしいと命名しました。娘は我慢強くわがままを言わないしっかり者でした」
ところが職場から“精神的に不安定になり仕事を休んでいる”と連絡を受ける。一旦仕事を休み、少し落ち着いたように見えた頃、Aさんは住み込みのバイトに行くと家族に告げ、2018年1月4日の朝『行ってくるね』と笑顔で家を出て行った。
「それが、娘の最後の精一杯の笑顔でした。『行ってらっしゃい』、その声が娘の背中を押してしまったと思うと悔やんでも悔やみきれません。電車に乗っている時間帯にLINEを送り、グッドボタンが帰ってきたのが最後の返信でした」
変わり果てた姿で
帰宅しないAさんを案じ、家族は警察に駆け込んだものの、当時の警察官からは「成人女性ですから、一般的な家出でしょう。自殺ならすぐに見つけてもらえる場所を選ぶから、遠くに行きませんよ。一週間もしたら帰って来ますよ」と取り合ってもらえず、家出人として処理されたという。
「絶望に打ちひしがれ、家族みんなで泣きました。何も解決しないまま、涙が止まらず、やっとの思いで作った晩御飯はカレーでした。あの日の記憶は今もモノクロのままなんです(中略)ときどき空を眺め、この下できっと娘も生活してるだろう、生きててほしい、そしてある日突然帰ってくる、と思っていました」
しかし、2025年6月2日、夫からの電話でこう告げられる。
“落ち着いて聞いてほしい。大宮署から電話があった。娘の写真を探しといて。なるべく歯が見えるもの。それと臍の緒”
DNA鑑定の結果、齋藤被告の自宅の棚から発見された骨と一致した。7年ぶりに家族のもとへ帰ってきたAさんは、頭蓋骨に金具が装着され、背骨にはワイヤーが通された、変わり果てた姿だった。
「信じられない、これは現実なのかと目を疑いました。でも、一箇所だけ、幼い頃に転んでアスファルトに顔をぶつけたときの、あの見覚えのある歯並びの跡が、悲しいけれど残っていました。なぜこんな酷い姿に……娘の思いにつけ込んだ卑劣な行為です。赤の他人に看取ってほしくなかった。亡骸に指一本、触れてほしくなかった。かわいい目、鼻、口、癖のある髪の毛も残ってはいませんでした。もう娘を抱きしめることはできません」
「被害者の強い要望」
母親は、被告人質問で「後悔していない」「罪悪感がわからない」と語っていた齋藤被告に対し、「自分が人助けをしたとでも、善人だとでも思っているのでしょうか。それは間違いです!」とひときわきっぱりとした口調で述べ「一生をかけて償ってほしい」と陳述を締め括った。
対する弁護側は最終弁論において、被告が幼少期から深刻な殺人衝動に苛まれ、自らも苦しんでいた背景を説明。そのうえで、被害者たちにはいずれも強い希死念慮があり、被告が強引に殺害したわけではなく、あくまで「被害者側の自発的な強い要望」に沿う形で翻意も確認しながら実行した「承諾殺人」であるとして、減軽を求めていた。
自身の欲求を満たすために「同意があった」という既成事実を作り上げ、殺害を実行した被告に対する判決は7月17日に言い渡される。
高橋ユキ(たかはし・ゆき)
ノンフィクションライター。福岡県出身。2006年『霞っ子クラブ 娘たちの裁判傍聴記』でデビュー。裁判傍聴を中心に事件記事を執筆。著書に『木嶋佳苗劇場』(共著)、『つけびの村 噂が5人を殺したのか?』、『逃げるが勝ち 脱走犯たちの告白』など。
デイリー新潮編集部
