《元幹部が告発》ウイグル人やチベット支援者のサイトを“テロ関連”として削除…アメリカ政府に隠し通した、Facebook経営陣による「中国へのヤバすぎる特別対応」とは
アメリカ政府のデータ収集要求には「一線を越えた」と激怒し、プライバシー保護を声高に叫んできたFacebook(現Meta)のマーク・ザッカーバーグCEO。しかし、世界最大の市場である「中国進出」の前に、その理念はあっさりと捨て去られていた。
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Facebookは中国の投資会社と結託。中国政府の検閲を支援するため、特定のコンテンツを削除する「緊急スイッチ」や「顔認識ツール」を開発し、なんと中国国外からの私的メッセージすら当局が閲覧できるシステムを構築しようとしていたのだという。
その事実を告発したのは同社の元幹部であるサラ・ウィン・ウィリアムズ氏。ここでは彼女の著書『ケアレス・ピープル 権力と欲望、失われた理想の物語』(すばる舎)の一部を抜粋。

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中国におけるパートナー
進出プロジェクトは、〈オルドリン〉のコードネームで呼ばれた。人類史上初めて有人宇宙船を月面に着陸させた宇宙飛行士バズ・オルドリンにちなんだ名称だ。その後、Facebookが中国で事業を行うには中国企業との提携が不可欠と中国政府が判断した結果、中国のプライベートエクイティ企業、弘毅投資(編集部注:ホニー・キャピタル)が参画することになり、こちらには〈ジュピター〉というコードネームが与えられた。
ホニーは、中国人ユーザーの全データを中国国内で保管し、中国政府と連携するコンテンツモデレーション・チームを設置する。このチームは、禁止コンテンツのブラックリストに基づいて検閲を行い、中国政府が要求するユーザーデータを引き渡す役割を担う。ホニーは中国国内のあらゆるコンテンツを監視し、たとえ発信元が中国国外であっても削除する権限を持つ。Facebookは、中国による検閲を支援するため、顔認識技術、写真タグ付け機能、そのほかのモデレーション用ツールを開発する。これらのツールにより、ホニーと中国政府は、中国人ユーザーの公開投稿だけでなく、国外のユーザーから届くものを含めた私的メッセージも閲覧できるようになる。
検閲を前提とした運営体制
いくらなんでも乱暴なやり口と思えた。その後、顔認識や写真タグ付けなどのモデレーション・ツールの細部を詰めるため、Facebookと中国側代表者とのあいだで何年にもわたって協議と訪問が繰り返された。Facebookの専門家による、人工知能、仮想現実、拡張現実に関するブリーフィングも行われた。さらにFacebookは、中国政府による監視のツールだとして広く非難されている企業Huaweiを、Facebookのオープン・コンピュート・プロジェクトに招待した。加えてFacebookは中国企業に対し、インターネットインフラに関する技術指導を申し出た。これにより中国企業はIBMやCiscoといった米国企業との競争力を増すことになる(Ciscoは中国のインターネット・ファイアウォールを構築した米国企業)。
Facebookはマークの指示のもと、中国共産党の要求に応えるため、社内でも評価の高いベテランのエンジニアを含む大規模なチームを編成し、ホニーがユーザーのメッセージや投稿を精査し、すべてを簡体字中国語に変換するための新しい検閲ツールの開発に着手した。
顔認識や緊急スイッチも
私が見た資料には、コンテンツ・モデレーションおよび検閲ツールの詳細も記されていた。中国国内の特定の地域――たとえばウイグル人が居住する新疆ウイグル自治区――と中国国内・国外ユーザーとの通信を遮断するための緊急スイッチが用意されると書かれていた。また〈非常事態用コンテンツ・スイッチ〉を使い、「重要な記念日を含む、騒乱が予想されうる時期」(たとえば、天安門事件とそれに続く弾圧が起きた6月4日前後など)に、中国国内外を発信源とする拡散性の高いコンテンツを削除できるとある。
この検閲ツールは、中国人ユーザーによる閲覧数が1万回を超えたコンテンツを自動で精査する仕組みになっている。資料によれば、この〈拡散度カウンター〉は香港と台湾に実際に導入され、すべての投稿について運用されている。
さらに、マークから国家インターネット情報弁公室に宛てて送られる予定の書簡の草稿もあった。そのなかでマークは、へりくだった調子で次のように述べている。
〈 当社ではすでに中華人民共和国サンフランシスコ総領事館と協力し、中国にとって危険となりうるテロ関連サイトの削除を行ってきました。今後も世界各地にある貴国の大使館や領事館と緊密に連携しながら、テロ対策に取り組んでいく所存です。〉
あらゆるサイトを“テロ関連サイト”と見なす中国
私が愕然としたのは、中国がテロ関連サイトと見なしているもののなかに、人権活動家やウイグル人、法輪功学習者、チベット支援者のサイトが含まれている点だった。中国共産党はウイグル人に対する人権侵害そのものを疑わしいものに見せかけるプロパガンダを拡散するため、有料広告を配信したりまでしている。Facebookは、中国が「テロリズム」と呼ぶものとの闘いにおいて、中国の同盟者となるべきではない。この書簡が実際には送られなかったことを願うばかりだ。
一方で、これとは対極の話として、チームのあるメンバーが送ったメールには、検閲の大半は取るに足らないレベルのものになりそうだと書かれていた。
〈 私たちは、中国のユーザーが生み出したどれほどの量の、どのような種類のコンテンツを、世界の目から遮断しているのだろう。実際のところ、問題とされているコンテンツの多くは、Facebookのコミュニティ規定に違反しているわけでもなければ、中国の法律にも違反していない。ただ当局にとって不都合だというだけだ(たとえば、党幹部やその家族の名前を出して否定的なことを書くなど)。〉
Facebookのコンテンツに関する基本原則に違反することとデータに関する問題は、次元が違う。(編集部注:同社幹部の)ヴォーンからエリオットへのメールにあるように、「コンテンツのフィルタリングも重要ですが、中国国内にサーバー/データを置くことのほうがもっと重要です。そうすれば中国政府がそれを管理・閲覧できるわけですから」。
他国には拒否、中国には譲歩
Facebookのチームは当初から、中国のユーザーのデータを中国側の条件のもとで中国国内に保管することに合意していた。過去にロシアやインドネシア、ブラジルから同じ要求があったときは、いずれも拒否したというのに。私自身、大統領や政府高官に対し、Facebookは決してそのような対応はしないと明言したうえで、政府がデータにアクセスしたり差し押さえたりするようなことは絶対に起きないと確信できる国にのみ、サーバーやデータセンターを設置していると強調してきた。
Facebookのデータウェアハウスに保管されているすべてのデータに中国政府がアクセスする可能性について、ある報告書には「かならず起きると考えてよい」と乾いた調子で記されていた。
これはまさに、Facebookがアメリカ政府に対しても――国家安全保障書簡が送られてきたときでさえ――断固として拒んできた種類の、政府によるユーザー情報の収集そのものだ。
「一線を越えた」と批判したはずが
2013年、エドワード・スノーデンの暴露により、国家安全保障局がFacebookに侵入してユーザーのデータを収集していた事実が明らかになったとき、マークはオバマ大統領に電話をかけ、政府による監視と「それが私たちの未来に与える損害」についての不満を伝えた。
マークとジョエル(編集部注:当時の公共政策担当幹部)はホワイトハウスを訪れてこの件に関して大統領と会談し、マークは「政府は判断を完全に誤った。明らかに一線を越えた」と述べた。ところがそれからまもなく、マークは中国に対してはるかに有利な条件を提示していたことになる。
インターネットを下支えしているインフラは、海底ケーブルやデータセンターに象徴されるように、巨大な規模のものであり、莫大な投資と綿密な計画、確実な実行が必要とされる。Facebookは、中国進出をめざして大規模プロジェクトを始動すると同時に、Googleや中国企業パシフィック・ライト・データ・コミュニケーションと協力し、中国本土に接続する海底ケーブルの敷設に着手した。中国事業を支えるためのインフラだ。そして、中国とアメリカを直接つなぐ初の海底ケーブルだった。
リスクを承知で進めた海底ケーブル計画
中国がこのデータを傍受するきわめて大きなリスクがあることは明白だ。しかも、危険にさらされるのはFacebookのデータだけではない。この海底ケーブルは、インターネット全体の通信量のかなりの部分を引き受ける設計になっていた。これまで誰もこの二国をケーブルで結ぼうとしなかった理由はそこにある。
Facebookはそのリスクを承知していたが、まるで気にとめなかった。いや、それどころか、マークにとっての最優先事項――中国進出――のためには、ケーブルがどうしても必要だった。Facebookは中国に通じるデータパイプライン建設に多額の資金を投じたが、のちに中国共産党によるデータ収集を懸念したアメリカ政府によって阻止されることになった。
Facebookが数少ない「越えてはならない一線」として堅持してきたものの一つに、「中国国外にいるユーザーのデータに、中国はいっさいアクセスできない」という原則がある。しかし社内資料はまったく別の物語を語っていた。
国外ユーザーのデータも危険にさらされて
Facebookは「中国のユーザーの体験を高速化することを目的として、PoPアクセスポイントを展開する」というのだ。Facebookは世界各地ですでに同様のPoPを運用していた。基本的には、ユーザーの近くにデータを配置することで、サービスの速度を向上させるのが目的だ。しかし私の理解では、中国国外にいる人が中国国内にいる誰かとやりとりした場合、そのデータがPoPに保存される可能性がある。中国法に従えば、中国政府はそれらにアクセスする権限を有している。
国外ユーザーのデータが中国共産党に渡る可能性に関しては、ほかにも懸念事項があった。〈オルドリン・セキュリティ・リスク〉と題された別の文書は、中国側のコンテンツモデレーターが国外ユーザーのデータを直接に、あるいは認証情報を共有することで中国政府に提供してしまうリスクが指摘されている。
これはFacebookのネットワーク内部へいっそう深く踏みこんでくる諜報活動とあいまって、きわめて重大な懸念材料だった。Facebookの経営陣は、WhatsAppをはじめとするメッセージングサービスの社内ネットワークへの侵入の試みなど、中国の諜報活動に起因するとされる動きについて説明を受けていた。
中国政府への異例の技術支援
ほかにもFacebookアカウントのパスワードを解読しようとする試み、非公開グループへの侵入、モバイル端末やデスクトップパソコンへのマルウェア感染などの活動についても報告を受け取っていた。Facebookのリスク評価の専門家は、こういった事象は「起こりうる」どころか「起こる可能性がきわめて高い」としている。
中国政府との共謀関係はきわめて広範に及んでおり、Facebookの調査チームは、アメリカ政府が中国国内のデータウェアハウスを自国の情報収集のターゲットと見て侵入を試みる可能性がきわめて高いと結論づけている。これは衝撃だった。
Facebookが中国とあまりに緊密に協力しているせいで、自国の政府から外国の敵対勢力と同等とみなされ、システムに侵入されかねないということだ。しかもFacebookはそれを、進む道を誤っていると知らせる警告のサインではなく、ビジネスにつきもののリスクととらえている。
文書を読み進めていくうちに、私がふだんやりとりしている政府機関が喜びそうな類のブリーフィングばかりが目に入った。私たちはこういった情報を絶対に共有しない。各国政府から何度も求められてきたが、それでも共有してこなかった。ところがここには、Facebookが持つテクノロジーがどのように機能しているかが詳細に説明されている。アルゴリズム、写真のタグ付け、顔認識。Facebookの外に漏らされることは決してないと思っていた機密事項がすべて含まれていた。Facebookはデモンストレーションのためにエンジニアを派遣し、中国政府のニーズに合わせて設定をどう調整すべきかについての提案まで行っている。中国共産党に対する至れり尽くせりの特別対応と言えるだろう。
実に醜い。アメリカ議会やアメリカ政府からコンテンツやデータ共有、プライバシー、検閲、暗号化について問われた際、Facebookが答えられないと言い張ってきた事項ばかりだ。なのに、経営陣はそのすべてを銀の盆に載せて中国に差し出そうとしているのだ。
Facebookにあった「表と裏」
しかも、決して好印象を持たれる話ではないと承知している。Facebookは情報の漏洩をひじょうに恐れており、〈リーク対応〉のための窓口を中国のサイバースペース管理局内に設けてほしいと要望していた。「もし情報が漏洩したら、現状の対応を続けられなくなる」からだ。あるリスク評価文書では、情報が外部に漏れるおそれについて次のように考察している。
〈 不満を抱いた現社員または元社員が、Facebookが公に表明していることと実際にやっていることの差異を強調するため、データの取り扱いに関する追加情報を漏洩するおそれがある。〉
だが、公式見解と実際にやっていることの差異を強調されるのを恐れている時点で、自分たちに表と裏があると認めているも同然ではないか。
〈「担当者は今、レストランで食事中です」…人命がかかった暴動が起きても“無視”を決め込んだ、Facebookの“呆れた言い訳”《儲からない市場は放置?》〉へ続く
(サラ・ウィン・ウィリアムズ/Webオリジナル(外部転載))
