一緒に笑って一緒に泣いて前を向く…被災地・珠洲での「ちょっこし大きな上映会」が生かした映画のチカラ
能登半島の先端、石川県珠洲市のホールで先月、「ちょっこし大きな上映会」という催しが開かれた。
2024年の能登半島地震で被災した高齢者のために地元ボランティアが仮設住宅の集会場などで続けてきた「小さな上映会」の特別版で、上映作品は、国内外で愛されるハートフルコメディー「Shall we ダンス?」(1996年)。監督の周防正行さんと、周防さんの妻で同作ヒロインの草刈民代さんも現地に足を運び、約500人の観客とともに映画を見た。その記録映像には、映画とそれを作る人、届ける人、そして観客が響き合う、感動的な時間が映っていた。人をつなぎ、心を動かす映画のチカラをしっかり生かして活動している人たちが珠洲にはいる。どのように今回の上映は実現されたのか。かかわった人たちの思いを聞いた。(編集委員 恩田泰子)
草刈民代さん「私にとっては大きな体験」
<珠洲市の皆さんとの映画体験は特別なものとなりました。>
これは「ちょっこし大きな上映会」参加後の草刈さんの言葉。東京に戻った草刈さん、周防さんに上映会の感想を聞きたいと伝えたところ、それぞれから文章が寄せられた。草刈さんの感想は、こう続く。
<「Shall we ダンス?」は、外国も含め、さまざまな形で観(み)てきましたが、あの時ほど素直に観られたことはありませんでした。みんなで映画を楽しみたいというお客様方のお気持ち、その気持ちが生み出す場の雰囲気、それによって何度も観ている映画の見え方が変わってしまったことが、私にとっては大きな体験でした。自分の仕事の目的について一段深く考えるきっかけになりました。>
一人でも孤独な人を出さないために
「ちょっこし大きな上映会」は5月23日、珠洲市の多目的ホール、ラポルトすずで行われた。「ちょっこし」は「ちょっと」を意味する方言だ。入場は無料。普段は市内の各地区でばらばらに暮らしている人たちが、一堂に会した。中には、2次避難先の金沢から来た人たちも。
「『小さな上映会』は各地区を回ってやってきたけれど、今回はみんなが地区を超えて集まれる会にしたかったんです」。そう話すのは、今井真美子さん。仮設住宅の集会場や公民館などで少人数を対象にした無料の「小さな上映会」を24年8月末から続けてきた地元ボランティア5人の代表だ。5人の中には仮設住まいをしてきた人々も2人いるという。
今井さんらが「小さな上映会」を始めたきっかけは、有志の映画関係者たちのグループ「珠洲により添う会」からの提案だった。震災前から、「すず里山里海映画祭」(地元の劇作家・映画監督の水上猛之さんが中心となって開催)などを通じて、今井さんら珠洲の人々と交流があった人々だ。映画タイトルデザインの第一人者、赤松陽構造(ひこぞう)さんも、その一人。「Shall we ダンス?」など周防さんの監督作の題字も手がけてきた人だ。
東京在住の赤松さんら「珠洲により添う会」の仲間たちは、震災発生後からしばらくの間はモノを送る形での支援を続けていた。だが、ある時、「珠洲で映画をやったらどうだろうか」というアイデアが生まれ、今井さんに相談した。震災以前とまったく違う環境での生活を余儀なくされた人々、とりわけ高齢者が孤立しないようにと考えてのことだった。「一人でも孤独な方を出さないために」映画のチカラ、作品のチカラを生かしたいと、赤松さんたちは願った。
「今は、映画が『作品』ではなく『商品』としてのみ評価されているように思えてなりません。でも、映画は人の心に触れた時、本当に完成する」。そう赤松さんは話す。
珠洲と東京の思いをつないで
今井さんに上映活動の経験はなかったが、「本当に小さい規模でのボランティアなら」と、やってみることにした。「私は防災士なので、避難所の時にはいろんな人のお手伝いをしていたのですが、自分より大変な人を目の当たりにして、何かできることはないかなと常に考えていたんです。ましてや県外からボランティアに来てくださる方々がたくさんいて、私たちも助けられた。自分たちは東北にも熊本にも手伝いに行かなかったけれど、せめて身の回りの方たちに、という気持ちもありました」(今井さん)
東京側は、カンパを集めて、持ち運びしやすい組み立て式の100インチスクリーンやプロジェクター、スピーカーを用意。今井さんは、それを車に積んで、各地区へ出かける。珠洲と東京の思いをつないでの「小さな上映会」が動き出した。
「実際にやってみたら、とっても皆さん喜んでくださった。集まって『どうしとった』とか『何しとる』とか、それぞれいっぱいお話しして、それから映画を見て、笑ったり、泣いたりして、『よかったね』『また来ようね』って言いながら帰られる。そういうシーンを毎回見るたびに、できてよかったなあと思うんです。私自身、そうやって皆さんに会うことで、一緒に笑顔になれる。そうじゃなかったら、『珠洲はこれからどうなるんやろう』って不安ばかりで過ごしていたかもしれないです」(今井さん)
「取り残された感じ」にならない会に
「ちょっこし大きな上映会」を提案したのも、赤松さんたちだった。「普段は別々の場所に集まっている皆さんが、一緒に集い合えるようにしたい。そして、大きいスクリーンで映画を見てもらいたいと思いました」と赤松さん。
それを受けて今井さんは、メンバーと相談。「なかなかできんことやけど、そう言っていただけるんなら、私たちも頑張ろうか」ということになった。
赤松さんが周防さんに参加を打診したところ、すぐに快諾。草刈さんとともに珠洲に来ることが決まった。
<(参加したのは)信頼している赤松陽構造さんに声をかけていただいたのがきっかけですが、能登半島地震については、ニュースでしか知りませんでしたから、実際に現地を見るよい機会だと思いました。加えて、自分が制作した映画を多くの人に見てもらえるわけですから、絶対に行きたいと思いました。>(周防さんの取材への回答文より)
「ちょっこし大きな上映会」の当日の記録映像を見ると、「一人でも孤独な人を出さない」という思いがそこかしこに表れている。例えば、耳が聞こえにくい高齢者の存在に配慮して、上映は字幕付きで。上映後トークには手話通訳に加え、要約筆記も用意。壇上の画面に映し出される文字でトークの内容がフォローできるようにした。さらには補聴器を使用する人たちの「聞こえ」をサポートする設備を備えた席も用意した。
「準備し始めたら、どんどんメンバーからアイデアが出ました」と今井さんは振り返る。「みんなが楽しんでいただける、取り残されていない感じにしたかったんです。ただでさえ、大変な災害に遭って、取り残された感じが皆さんにはすごくある。そういう思いにならない会にしたかったんです」
映画館で映画を見ようと思ったら「車で2時間行かないと」というエリア。大きなスクリーンでの上映を、誰もが楽しんでいる様子だったという。「1人でテレビとかビデオとかで映画を見るのと違って、一緒に見ると面白いんですよ。『小さな上映会』では、周りの人が『こんなところで笑うんや』というところで笑っていたり、その笑っている人につられて一緒に笑ったり……。『ちょっこし大きな上映会』でも、大きく笑ったり、リラックスして、本当に楽しんでいらした。やっぱり映画って、もともとそうだったじゃないですか」(今井さん)
周防さん「こちらのほうが勇気づけられる」
周防さんは当日のことをこう振り返っている。
<上映会が始まる1時間前くらいから、少しおめかしした人たちが続々と集まってきて、ガラガラだった駐車場もいつの間にか一杯となりました。みなさんが楽しみにしてくださっていたのだなと実感しましたが、観客の皆さんと一緒に映画を見て、大きな笑い声に包まれていると、こちらのほうが勇気づけられるような気がしました。終わったあとの皆さんの笑顔を見ると、本当に来てよかったと思いました。お客様や上映会のボランティアの皆さんのお話も聞くことができ、復興に向けてそれぞれの立場で頑張っていらっしゃる姿には、凄(すご)いなぁと感嘆するしかありませんでした。>
「必ず元気に」
周防さんと草刈さんは上映後のトークで、作品について、そして珠洲での上映に参加しての思いについて語った。珠洲の観客と一緒に映画を見て、じかにその反応を体感した上で。
終盤、草刈さんが不意に声を詰まらせ、「本当に誠心誠意こめて(演技を)やるべきなんだと改めて思いました」と語ると、客席からは大きな拍手が起きた。応援する側と応援される側が一体となって、ふっと境目が溶ける。映画を通して生まれた、そんな幸福な瞬間がそこには映っていた。イベント終了後、会場出口に立って観客を見送る周防さんと草刈さんの前には、握手を求める人々の長い列ができた。
「どんな名作でも観客の心に触れた時が、その映画の完成だということを改めて実感しました」と赤松さんは力をこめる。そして、そういう時間を体験できた人は、もう一度前を向いて日常に戻っていく。小さな上映会はこれからも続く予定だ。
今井さんは言う。「能登は自然が豊かなところ。必ず元気になって、たくさんの方に訪れていただきたいと思って、みんな頑張っていますので、よろしくお願いします」
上映翌日も周防さんは、草刈さんと一緒に珠洲で過ごしたという。<いろいろな場所を案内していただき、珠洲市の現在の姿を知ることができました。>そして、こう書いている。<少しでもお役に立てることがあるなら、これからも訪れたいですし、東京に戻ってからも珠洲市のことを多くの人に知っていただくために、見てきたことを積極的に発言しようと思っています。>

