機械メーカー・鈴茂器工は、回転ずしの“シャリ玉”を作る「寿司ロボット」で国内シェアは8割、世界では7割を占める。東京・新宿区で生まれた「寿司ロボット」が今では販売先が世界90カ国以上に広がり、売上高は10年で77億円から158億円へと倍増した。なぜこのニッチな機械が海外でヒットしているのか。鈴茂器工の谷口徹社長(57)にフリージャーナリストの前屋毅さんが聞いた――。(後編)

■売り上げは10年で2倍に

鈴茂器工の決算が好調で、2025年3月期では155億6800万円と過去最高となる売上高を記録し、さらに2026年3月期でも158億6400万円と過去最高を更新していることは、すでに〈前編〉で触れている。2015年3月期の売り上げは77億円だったので、10年で2倍以上にも伸びたことになる。

この急増の理由を同社の谷口徹(57)社長に訊くと、「国内で導入してもらっているところの入れ替え需要があったのと、大きいのは海外事業の伸びですね」との返事だった。26年3月期決算でいえば、全売上高での海外の割合は36.8%となっており、かなり大きな部分を占めている。2015年3月期決算では1割未満でしかなかったので、まさに急増といっていい伸びだ。

鈴茂器工と取引のある国は、すでに述べてあるように90カ国を超えている。寿司ロボットの国内市場(金額ベース)でも80.9%でシェアトップだが、世界市場(金額ベース)でも74.1%とシェアトップだ。(*1)そうした国々のなかで、どの国での事業がいちばん伸びているのかを重ねて質問すると、「圧倒的にアメリカです」という答えが戻ってきた。

撮影=プレジデントオンライン編集部
鈴茂器工の本社で取材を受ける谷口社長。2022年にJR中野駅近くに本社を移転している - 撮影=プレジデントオンライン編集部

「アメリカには日本人も多く暮らしていて、その影響もあって日本食文化が根付いています。だから、寿司の需要もあります。しかも、もともと物価が高いので、日本から輸入される寿司ロボットも高いとは感じないので、利用が広まっています」

(*1)富士経済「2025年版 ワールドワイドロボット関連市場の現状と将来展望 サービスロボット編」寿司ロボット・米飯盛り付けロボット 販売数量・金額2024年実績

■主戦場は回転寿司ではなくスーパー

寿司ロボットの価格が仮に100万円だとすれば、1個100円のシャリ玉を売って元手を回収しようとすれば1万個を売らなければならない。しかし物価の高いアメリカなら、シャリ玉1個が300円から400円で売れるので、2500個から3300個を売れば元が取れることになる。

寿司を売るために寿司職人を雇うとなると、人件費も高いので、かなりのコスト高になってしまう。だいいち、寿司職人の数自体がアメリカには少ない。寿司の需要があるにもかかわらず、寿司を簡単には売れないことになっていたのだ。

しかし寿司ロボットがあれば、簡単に店は開ける。元手も簡単に回収できるとあれば、ためらわず寿司ロボットを購入する。それが合理性を優先するアメリカ的な発想でもあるという。だから、鈴茂器工のアメリカでの事業が伸びてきている。

ただし、日本のように回転寿司店が増えている、というわけでもない。そういう店舗もあるにはあるけれども、圧倒的に寿司が売れるのはスーパーマーケットなのだという。

提供=鈴茂器工
アメリカの高級スーパーで「寿司ロボット」が握ったシャリ玉を用いた寿司が販売されている様子。厨房には寿司ロボットが左手に3台、右手奥側に1台設置されている - 提供=鈴茂器工

「それも、日本のようにスーパー自体が機械を導入して寿司をつくって惣菜コーナーで売るというスタイルではありません。スーパーの一画にテナントとして寿司販売業者がはいっていて、寿司を売っています。日本でいえば、大手寿司店が寿司をパックで売っているイメージです」

■ウォルマート4600店舗が抱える寿司売場

このスタイルがアメリカでは人気を集めつつあるという。回転寿司店に行くのは、「行くぞ」と気合いをいれなければならないし、だいいち、身近に店舗があるとも限らない。

スーパーなら買い物するために日常的に足を運ぶ場所でもあるし、寿司を買いに行くつもりはなくても、そこに並んでいれば、「食べようかな」という気になって手に取る。寿司を買っている人を見かければ、「自分も買おうか」ともなる。しかも、店で食べるより安い。ついつい手が伸びることになる。そういう環境で、アメリカでの寿司の販売は伸びている。

提供=鈴茂器工
アメリカで伸びているのり巻きロボット - 提供=鈴茂器工
提供=鈴茂器工
アメリカでよく売れているロール寿司のサンプル - 提供=鈴茂器工

売れているということは、アメリカで寿司が受け入れられている証でもある。売れる土壌ができつつあるのだから、寿司ロボットが売れるのもうなずける。

「アメリカ発祥で世界最大の売上高を誇るウォルマートは、全米に約4600店舗あります。ここにも寿司売場ができていますが、まだまだ全店舗ではありません。スーパーの様子を見ていると、これからも寿司市場は拡大していくと考えています」と、谷口社長も今後の拡大に期待しているようだ。そうなれば、ますますアメリカでの鈴茂器工の売り上げは伸びていくはずである。

■おにぎりにも注目が集まっている

日本とアメリカの違いといえば、身体の大きさによる食べる量の差もある。たとえばシャリ玉にしても、日本人にはちょうどいいサイズだとしても、アメリカ人にはもの足りないかもしれない。

「それは、あります。しかし、当社の寿司ロボットはシャリの量を調整できるようになっています。大きいシャリ玉が好まれるようなら、それに合わせればいいのです」

寿司ロボットやのり巻きロボットでアメリカの市場を開拓し、さらに最近ではおにぎりロボットの需要も増えそうな気配もあるという。2025年3月期には、アメリカのローカルスーパーを中心に約3300店舗がおにぎり用の手押し成型器を導入した。

ただし、中身は日本のおにぎりとはだいぶ様子が違う。牛肉やチキン、シュリンプといったアメリカ仕様の具材を混ぜ込んだ「混ぜ飯おにぎり」が主流だという。「おにぎりの需要はこれから絶対あります」と、谷口社長は断言する。

提供=鈴茂器工
食品工業向けの展示会に出展した際の様子。製造ラインで試作した「スパムむすび」などが並んでいる - 提供=鈴茂器工

谷口社長は、こうも語った。「必ずしも日本のオリジナルのものじゃなくていいと思っています。日本だって、パスタはナポリタンから始まっているんです」。ローカライズされた米飯食が定着すれば、やがて本格的な日本式のおにぎりや寿司への需要も広がっていく――鈴茂器工はその流れを、機械で下支えしようとしている。

■「日本の寿司企業」が海外進出するほど収益があがる

アメリカの寿司市場において現在、鈴茂器工にとっても有利になりそうな動きがある。そこに日本資本も積極的に参入していることだ。そうした日本資本は、日本国内でも寿司に関係したビジネスを展開している。

「国内で当社の寿司ロボットを使ってもらっているところは、アメリカでも間違いなく当社製品を使ってくれています」

寿司ロボットのシェア8割の強みで、最初に自社の機械を選んでもらえる「ファースト・コール・マシナリー」が実現されているのだ。ただし、声がかかるのを待っているだけでは、鈴茂器工の売り上げの伸びは大きくならない。ファースト・コール・マシナリーだけでは、業績を伸ばす要素としては足りない。

さらに伸ばしていくためには、ファースト・コール・マシナリーだけに頼らず、積極的に働きかけていくことで寿司市場を拡大していく努力が必要になる。日本だけでなく、米飯食を広めていくという創業者理念の進化と深化が必要なのだ。もちろん、鈴茂器工の動きははじまっている。

「日本産米を使っているところもありますが、そういうところは少なくて、多くは現地のカリフォルニア米などを使っています。日本とは違う炊き方などのノウハウが必要なわけです。そして欧米の特徴として、冷凍食品の売場では5度以下で保存する規則があるので、その条件のもとでコメの表面が乾かない工夫が必要です」

自前で工夫するところもあるが、鈴茂器工としても相談を受ければ応じる。わからないところがあれば、炊飯器メーカーに問い合わせて聞いてでも伝えるし、場合によっては協力企業を紹介したりもするという。それができるのは、これまでのビジネスでつながってきた圧倒的なネットワークがあるからだし、そうした情報の重要性が社内で徹底されているからでもある。

もしも情報の重要性に気づかず、せっかく聞いても右から左に流していれば、役立てることができない。情報を収集し、積み重ねて努力を重ね、それをビジネスで役立てている。それが、アメリカでの鈴茂器工の事業急伸を支えている。

■「中国のスシロー人気」が追い風に

急伸しているのがアメリカだが、海外市場といえば、中国を抜きには語れないだろう。なにしろ、14億を超える世界2位の人口を抱えている国であり、コメを食べる文化のある国でもある。鈴茂器工としても、その可能性を過小評価しているわけではない。中国ビジネスについて、谷口社長は次のように語った。

「2026年3月期決算では、当社の中国での売り上げも順調に伸びています。ただ、去年、中国に行って感じたのですが、寿司の普及はまだまだです。ショッピングモールのフードコートに行っても、北京料理や上海料理などのローカル中国料理が主流です。そのなかに日本食もみられますが、寿司の普及度はまだ限定的であるという印象を受けました。

ただし、希望がないわけでもない。そうした状況も、ごく最近になって大きく違ってきてもいるからだ。谷口社長が続ける。

「日本の大手回転寿司チェーンの『スシロー』さんの店が大人気で、多い店では10時間待ちだったという話も聞きました」

2021年に中国に初進出したスシローは、2026年4月で100店舗を達成したと発表している。人気は追い風なので、まだまだ店舗数は増えていくはずである。このスシローの躍進を見て、ほかの回転寿司チェーンも進出を開始しているともいう。

写真=時事通信フォト
中国・上海市内でオープンした回転ずし、スシロー上海環球港店=2025年12月6日 - 写真=時事通信フォト

■「世界規模の“寿司の大衆化”」を目指す

日本やアメリカがそうだったように、中国でも寿司が大衆的な食べものとして受け入れられ、需要が拡大していくことが見込まれている。そうなれば、鈴茂器工のビジネスも急拡大していくはずである。

創業者が寿司ロボットを開発することで寿司を大衆化して消費を拡大したのと同じことが、アメリカで、さらには中国でも実現しようとしている。世界的な寿司の大衆化であり、米飯食の拡大である。

世界で米飯食を広めていく努力を、鈴茂器工は他地域でも積極的に取り組んでいる。ひとつの例を、谷口社長が説明してくれた。

「少し前のことですが、全農(全国農業協同組合連合会)と組んで、シンガポールの当社事務所に、現地の飲食店関係者などを集めてイベントを開催したことがあります」

日本産コメの海外輸出を増やそうという試みの一環で、まずは食べてもらって、その美味しさを実感してもらうのが狙いだった。ただ食べてもらうのではなく、日本食の代表である寿司で食べてもらうほうが注目度は高くなると考えたらしい。

■「米飯食文化の広がり」が成長の礎になっている

寿司ロボットを売るイベントではなかったので、鈴茂器工がかかわる必要はなかったのかもしれない。しかし米飯食を広げていくという理念を実現するためには、意味のあるイベントだととらえた。

全農のコメについてのノウハウも活かしながら、現地の人が食べて美味しいと思える寿司を寿司ロボットで提供することに、鈴茂器工としても全力で取り組んだ。

「それで、けっこう日本米を買ってくれる契約がとれたようです」と、谷口社長は嬉しそうに言った。米飯食をシンガポールに広めることに貢献できたのだ。

シンガポールでも日本式の米飯食が広まっていけば、寿司ロボットが売れることにもつながっていくはずである。

提供=鈴茂器工
鈴茂器工が提案しているさまざまな米飯食販売のアプローチ - 提供=鈴茂器工

寿司職人がいなくても店を開けるというロボットの合理性、スーパーマーケットという日常的な消費の接点、シェア8割の圧倒的な信頼、そして全農との協業に象徴される米飯食文化を自ら広げていく能動的な姿勢。

この4つの要因が噛み合ったことで、鈴茂器工の売上高は10年で77億円から158億円へ倍増した。創業者が描いた「寿司の大衆化」は、いまや国境を越えて実現されつつあるのだ。

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前屋 毅(まえや・つよし)
フリージャーナリスト
1954年、鹿児島県生まれ。法政大学卒業。立花隆氏、田原総一朗氏の取材スタッフ、『週刊ポスト』記者を経てフリーに。著書に『学校が合わない子どもたち』(青春新書)、『学校の面白いを歩いてみた。』(エッセンシャル出版社)、『教育現場の7大問題』(KKベストセラーズ)、『ほんとうの教育をとりもどす』(共栄書房)、『日本の小さな大企業』(青春新書インテリジェンス)などがある。
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(フリージャーナリスト 前屋 毅)