文春と共同通信も「首謀者」にハメられてしまったのか…高市事務所問題の本質が「誹謗中傷動画」ではなく「サナエトークン」である理由
高市早苗総理の名を冠した暗号資産「SANAE TOKEN(サナエトークン)」の設計者・松井健氏(合同会社NoBorderDAO幹部)の経歴について、『週刊文春』や『共同通信』が報じた内容に、虚偽の事項が含まれていることがわかった。松井氏が経歴詐称をしていた疑いがある。
週刊文春・共同通信に駆け込んだ男の素性
「週刊文春や共同通信からの取材、在籍確認はありませんでした」
株式会社麻生から届いた回答書を読み、私は衝撃を受けた。基本的な裏取りすらせず、「いわくつきの男」の発言をそのまま垂れ流していたのか、と――。
サナエトークンが今年3月に騒動化して以降、筆者は『週刊現代』で、キーマンである松井氏と、高市早苗総理の第一秘書・木下剛志氏の関係を追及してきた。
高市事務所は、松井氏と木下氏がグループラインやオンライン会議などでやりとりを重ね、松井氏が昨年の自民党総裁選において「勝手連」として高市陣営を支援していたと認めた。
それにもかかわらず、高市総理は国会で木下氏と松井氏の「接点」を否定し、その後、『週刊現代』が高市事務所からの回答書を公開したことにより、答弁訂正に追い込まれた。野党からは「虚偽答弁」との批判の声があがっている。
一方、『週刊現代』では、松井氏が過去に複数の投資トラブルを引き起こし、サナエトークンを巡っても資金決済法に抵触する可能性のある暗号資産の事前販売(プレセールス)をしていたことも報道した。
高市事務所はサナエトークンの宣伝に加担したことを認めている。違法性が疑われる金融商品をPRしてしまったとすれば、その責任は極めて重い。筆者は一貫して、このサナエトークン問題こそが一連の騒動の本丸だとして、首謀者である松井氏の正体に迫ってきた。
こうした『週刊現代』の報道を憂慮したのか、松井氏は勝負に出る。筆者の取材には一貫して応じなかった松井氏だが、今年4月以降、『週刊文春』や『共同通信』のインタビューに弁護士同伴で応じ始めたのだ。そこで、本格的に告発したのが「誹謗中傷動画問題」だった。
そもそも経歴からしてデタラメだった
松井氏は、昨年の自民党総裁選や、今年の衆院選において、木下氏と連携するかたちで、AIで生成した他候補を誹謗中傷する動画を、1日あたり100本から200本生成し、SNS上に投稿していたと主張。
松井氏が主導した「動画作戦」が選挙結果に影響を与えた可能性があるとして、国会でも「民主主義を歪める大問題」として取り上げられる事態となった。
しかし、これまでさまざまなトラブルを起こしてきた松井氏だけに、その証言を鵜呑みにすることはできない。そこで、筆者は『週刊文春』と『共同通信』の報道を独自に調査した。すると、案の定、虚偽情報が含まれていることが判明したのだ。
そもそも松井氏の経歴からしてデタラメだった。週刊文春電子版は4月1日に、松井氏の経歴について〈自民党・麻生太郎氏の実弟が塾長を務める専門学校「麻生塾」を出た後、株式会社麻生に入社〉と報道していた。
共同通信も6月12日配信の記事で、〈高校卒業後、自民党の麻生太郎副総裁が関係する麻生グループ運営の専門学校でソフトウエア開発を専攻した。卒業後はグループ中核の株式会社「麻生」に入社し、政治への関心を深めていった〉と報じていた。
しかし、株式会社麻生に確認すると、同社の管理本部長から書面で次のような回答が届いた。
「上記記事は事実ではありません。松井氏はグループ中核である株式会社麻生ではなく、2013年に私どもの地元である新飯塚ステーションホテルというビジネスホテルに1ヵ月半ながら在籍をしており、同年の5月22日を最後に出勤はしていないということが確認出来ました。週刊文春や共同通信からの取材、在籍確認はありませんでした」
つまり、松井氏が株式会社麻生に在籍していた事実はなく、グループのビジネスホテルにごくわずかな期間、勤務歴があるというだけなのだ。『週刊文春』と『共同通信』は裏取りもせずに、松井氏の虚言を垂れ流していたことになる。
「誹謗中傷動画問題」は本当に存在するのか?
さらに深刻なのは、肝心の「誹謗中傷動画問題」についてだ。松井氏が「昨年9月の総裁選時に作成した動画」として、『週刊文春』や『共同通信』に提供した動画に、今年の衆院選時に撮影された高市総理の写真が使用されているなど、時系列状の問題が多数指摘されたのだ。
松井氏が取材にあわせて捏造した可能性もあり、『共同通信』は6月15日までに動画から切り出した写真の削除と、記事の訂正をした。
「松井氏の目的は動画作戦なるものの“貢献”で木下氏に取り入り、サナエトークンの実現にこぎつけること。本丸はあくまでサナエトークンなのです。
松井氏が木下氏に他候補のネガキャンについて、メッセージでやりとりしていたこと自体は事実だと見られます。しかし、木下氏も松井氏が『動画作戦』に使っていた具体的なアカウントは、知らされていなかった。木下氏への“自己申告”とは別に、松井氏が実際にどれだけ動画作戦をやっていたのか、その実態は極めて怪しくなってきています」(松井氏周辺)
『週刊文春』も、6月16日に、電子版で公開していた松井氏から提供を受けた動画の公開を一時停止し、本文の修正に追い込まれ、最新号で検証記事を掲載している。
同誌は、木下氏が松井氏の「動画作戦」とは別に、「真実の政治」というTikTokアカウントで、他候補のネガティブキャンペーンにあたるような動画の投稿に関与していたなどとも報じていた。「真実の政治」への木下氏の関与や、木下氏と松井氏の間でやりとりをされたメッセージなどを根拠として、「疑惑の根幹を揺るがすものではない」と主張している。
しかし、『週刊文春』に掲載されているスクリーンショットによると、「真実の政治」はフォロワー18人で、投稿された動画は3本にすぎない。最も再生されたショート動画でも、9000回程度で、選挙への影響は限定的とみられる。
松井氏が虚偽情報を流した「真の狙い」
無論、この疑惑について、木下氏は説明を尽くすべきだ。ただし、松井氏が主導した「動画作戦」を根幹とした高市陣営の取り組みが、選挙結果を歪めた可能性があるというこれまでの話とは、ずいぶん異なってきてしまっているのも事実だ。
要は、松井氏が自身の急所となる「サナエトークン」問題から「誹謗中傷動画」へ世間の注目を逸らすために、あえて『週刊文春』や『共同通信』を利用した可能性もあるのだ。
誤った情報をもとに国会が空転すれば、「サナエトークン」の真相解明や、責任を問われるべき松井氏と高市事務所双方の「逃げ切り」も許しかねない。
投資トラブルを連続して起こし、総理事務所を手玉にとり、メディアをも翻弄した松井氏とは一体、どんな人物なのか。彼の「真の目的」とは何だったのか。そして、高市事務所がやりとりを重ねた理由とは――。
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かわの・よしのぶ/'91年、東京都生まれ。早稲田大学政治経済学部を卒業後、「サンデー毎日」「週刊文春」の記者を経てフリーに。主に政治を取材している
