【木俣 正剛】皇室典範改正が民意を無視して進むのはなぜか…「女性皇族の身分保持」「男系男子の養子」に残る「大きな疑問」と皇室が迎える危機
「皇室典範の改正」国会提案が近づく
皇室典範の改正は、衆参正副議長による「立法府の総意案」がほぼまとめられ、6月8日に国会に提案される予定です。与党側は天皇制度については国民の総意を得たいという理由で全会一致を目指しています。
しかし、この「立法府の総意案」に、愛子天皇案、つまり直系長子の相続というもっとも、常識的な提案は含まれていません。
あくまでも皇族数の増加によって、皇室が衰微し,途絶えることを防ぐという名目の下、➀女性皇族が結婚しても女性宮家として皇室に残る案と?旧宮家の男系男子を養子に迎える案、つまり、皇族の数を増やして、直系ではなくとも男系男子の天皇が確保できる案が議論されることになります。
あらゆる調査で国民の大半が愛子天皇を待望しているのに、この案にまったく触れないというのは、民意をまったく無視した国会運営としかいいようがありません。
共産、社民、れいわの三党は、女性・女系天皇論を最優先で求める主張で「立法府の総意案」には反対するでしょう。立憲民主も将来的な女性天皇議論には前向きですが、国会での議席数を考えると、「蟷螂の斧」感は拭えません。自民、公明、立憲、中道の主流派ラインは「まず皇族数の確保」で一致していて、女性・女系天皇は次のフェーズに先送りする見通しです。
「愛子天皇」議論が俎上にあがらないワケ
私は何度も、過去記事【「愛子天皇」実現の可能性は「ほぼゼロ」に…国民に知らされないまま進む「皇室典範改正」の全貌】などで、政治的理由で愛子天皇を排除したい、高市政権の民意無視を指摘してきました。
しかし、ネット投票や署名運動に加わる人は相当数いても、まったく政治家の視野には入っていないようです。
答えは単純です。愛子天皇を議論すれば、国民的賛成で一瞬にして勝負がきまるため、今回は議題にしない。しかし、愛子天皇を否定すれば、民意との乖離が目立つので、先送りの形で、実質は悠仁殿下に皇太子になっていただくまでの時間を稼ぐという、作戦なのです。
高市総理は、3日に宣言した消費税1%論も、野党も参加する国民会議には一度もはからず、与党だけで決めました。少数意見は基本的に無視するという数を頼んだ国会運営が中心ですから、今回も安倍派を中心とする与党の保守派と、男系男子を熱烈に支持する支持母体のことだけをみて、皇室典範の改正を図っているのです。
現行の改正案に残る「大きな疑問」
しかし、この皇室制度の改正は、素人目にも疑問だらけです。政治家たちが国民をバカにしているのか、あるいは政治家たちが実はバカなのか。私は、最近後者ではないかとさえ思い出しました。その理由は、女性天皇の容認とその他の案のメリットとデメリットを比較するとすぐわかることです。
➀女性皇族が結婚しても女性宮家として皇室に残る案
夫の身分は一般国民のままなのか、皇族の配偶者として公務にどこまで関与するのか、皇族費(税金)を受け取るのかと、主要な疑問だけでもこの三点が存在し、夫に身分を与えると「女系化につながる」と保守派は反対。身分を与えないと、皇族と一般国民の身分の非対称な夫婦が生まれ、明らかに不自然な事態になります。
さらに、その二人の子供の身分ですが、子供を皇族にしないと、母は皇族、子供は一般国民という非対称が生まれ、身分を与えると、女系天皇につながるため保守派が反対。しかし、与えないと、皇族数の維持という目的が達成できないので、保守派の論理は破綻します。
つまり、女性皇族が結婚後も皇室に残っても、男系男子を主張する限り、皇位継承の安定には寄与しない制度になるのです。
しかも、皇室典範は「皇族=天皇の男系の血を引く者」と規定していて、結婚後も皇族に残るには皇室典範の定義を変更するか、特例法で、例外的な身分保持を認めるという、ややこしい改正をするしかありません。さらに皇族費の支給については、公務の量にあわせて配分を変えるのか、一般国民の身分のままだと、税金の使途はきわめて曖昧になります。
大体、女性皇族は残すのに、女性天皇はなぜ認めないのかという根本的な国民の疑問に答えられないでしょう。しかも、女性皇族のまま結婚するとなると選択肢が制約され、子供の教育やプライバシー侵害の問題も深刻化します。
?旧宮家の男系男子を養子に迎える案
これにはもっと厳しい疑問がでてきます。まず、皇室典範の第9条「天皇及び皇族は、養子をすることができない」という文言を改正しなければなりません。この改正は微調整のレベルではない改正です。第二に、 憲法第14条との関係も考えねばなりません。憲法は「門地による差別」を禁じていて、一般国民である旧宮家子孫を「血統」を理由に皇族へ迎える制度設計は、法の下の平等との整合性をどう確保するか、問題を抱えています。
法律論だけでなく、具体論をいえば、養子に皇位継承資格を与えるのかどうか。養子本人に皇位継承資格を認めるのか、子の代以降に限るのかで議論が分かれますが、前者は「養子による皇位継承」という前例のない事態を生み、後者は即効性に欠けます。さらに、当事者の意思と人権の問題があります。養子となる候補者本人が皇族としての公務・制約を受け入れるか。これについては週刊文春6月4日号が旧宮家の養子候補から、厳しい拒否の声を引き出していて、これが、多くの宮家の人々の本音だとおもわれます。
さらに、配偶者・子どもの人生設計への影響や、報道・世論にさらされるプライバシー上の負担。戦後80年近く一般国民として生活してきた家系であり、本人の自由意思をどう担保するかは極めてデリケートな問題です。
皇族費の支給や皇位継承権の問題も女性皇族が結婚後、皇族に残る場合と同様の問題があります。
なぜこれほど複雑な議論になっているのか
なぜ、こんなにややこしい議論を考えたかといえば、保守派に、愛子天皇を女性であるという理由だけで否定しようという思惑があるからだとしかいいようがありません。しかし、明治憲法下の皇室典範で天皇は男子に限ると初めて決められただけで、愛子さまは直系という重要な要素をもっておられます。そして、明治までは女性天皇は少なからず存在しました。直系である愛子さまの皇位継承は、皇室典範の「男子に限る」という点だけを変えればいいのです。
ただし、配偶者の問題は残ります。夫、子供にも皇族身分を与え、直系優先で皇位継承権を付与すれば、皇族数の維持、皇位継承の安定、皇室の公務体系の維持という三点はすべてクリアされ、国会で議論される二つの案より、相当すっきりします。
配偶者の問題については、英国のような「プリンス・コンソート」という考えもありえます。これは、君主が女王の場合、その配偶者に与えられる称号で、「プリンス・コンソート」自身には王位継承権は与えられない、というのが原則です。王位継承権は「君主本人の正当な嫡出子孫」であることが前提で、「女王とその配偶者の間の嫡出の子」は性別に関係なく、王位継承権を持つことになります。
いずれにせよ、現在議論されている女性皇族が皇族として残っても、皇室の安定的継承には貢献せず、旧宮家の養子入りは現実問題として、実際に候補者がいるのか、相当無理をしなければならない可能性があります。
この両方を解決しようと、もし政治家が女性皇族と旧宮家の男系男子の政略結婚を画策したとしても、それこそ人権問題になりかねず、旧宮家の男子自身が希望し、そして女性皇族からも受け入れられる、という相当高いハードルがあることはたしかなのです。
これから皇室が迎える「本当の危機」
愛子(女性)天皇を否定する人々の議論は感情論にすぎません。江戸時代までは実際に女性天皇は存在していたし、宮中祭祀の問題もクリアされていました。要するに自民党保守派が明治時代へのノスタルジアでものを考えているにすぎないのです。そして、彼らが死に絶えるころ、皇室の本当の危機がはじまります。
シナリオで考えてみましょう。
シナリオA 現行制度維持
女性皇族は結婚で離脱。男系男子は悠仁さまのみ。皇族数は激減し、悠仁さまに男子が生まれなければ皇統は途絶えます。
シナリオB 女性皇族の身分保持、旧宮家男系男子の養子入り(現在議論されている改正案)
悠仁さまよりも先に、養子になった男性が皇位を継承するという可能性は極めて低いと思われます。養子となった男性の次世代から、皇位を継承するとしても、皇室の継承者として国民に快く迎えられる可能性は低く、実質、象徴天皇制は違ったかたちのものになってしまうと思われます。
シナリオC 女性皇族の身分保持のみ
皇族数は増えるが、皇位継承者は増えません。シナリオAと同様の皇統の危機が訪れます。
シナリオD 男女平等継承
愛子天皇の可能性。皇族数が維持され、皇統断絶リスクも減り、国民世論とも一致。そして、世界の王室と同じ男女平等直系優先の原則が成立します。
このまま、男系男子による継承を重視する保守系の非科学的妄想につきあったまま、問題を先送りしていると、愛子さまがご結婚などで皇籍離脱をされた場合、天皇直系はいなくなり、皇室最大の危機が訪れます。そして、そんな事態を招いた政治に対して、国民の静かな怒りが大きな声に変わりえるでしょう。天皇問題に対しては、国民が政治的に静かであるというのは、単なる思い込みであって、それは今国会では通用しても、次の選挙では厳しい高市政権批判としてしっぺ返しをくらうことになりかねません。
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