次回6月10日(水)よる10時 第10話(最終回)を放送 日本テレビ系水曜ドラマ「月夜行路 ―答えは名作の中に―」(毎週水曜よる10時放送)。

数々の名作ドラマレビュー記事を手掛ける「テレビ視聴しつ」室長・大石庸平氏は、6月3日(水)放送の第9話をどう見たか?場面写真とともに紹介する。

(※以下、第9話のネタバレを含みます)

本作は、家族から蔑ろにされ寂しさを抱える専業主婦の涼子(麻生久美子)が、文学オタクで洞察力に優れたバーのママ・ルナ(波瑠)と出会ったことから始まるロードミステリーだ。

<最終回前らしからぬ静かな佇まい>

最終回前の第9話。通常であれば、ラストへ向けて大きな事件が起こったり、前後編の構成にして物語を大きく動かしたりするものだ。けれど今作は、その高まりすら慌てて作ろうとはしない。そんな肩の力の抜けた佇まいこそ、このドラマの大きな魅力のひとつである。

もちろん、東京編の縦軸である「父が残したパソコンのパスワード」という謎は存在している。だからこそ視聴者としては、その真相へ向けて物語が大きく動くことを期待してしまう。ところが今回描かれたのは、サスペンスドラマではある意味定番とも言える“遺産相続問題”だった。

大事件でもなければ、最終回前らしいスペクタクルもない。しかし、その肩肘張らない物語こそが、この作品の持ち味だったのである。むしろ印象的だったのは、その“いつも通り”の中に、本作ならではの仕掛けが隠されていたことだ。それが、今回のキーパーソンである啓介(板尾創路)の存在である。これまで本作では、殺人や強盗といった重大事件が発生しても、いかにも怪しい人物や、最初から嫌悪感を抱かせるような人物をほとんど登場させてこなかった。なぜなら今作は、ミステリーでありながら“人情”を描く作品だからだ。

<啓介という異質な存在と巧妙なミスリード>

誰にでも事情があり、悲しみがあり、おかしみもある――。
そうした視線を貫いてきた。だからこそ今回、啓介が登場した瞬間、多くの視聴者は逆に違和感を覚えたのではないだろうか。「あまりにも嫌な人物だ」と。そして、その違和感こそが今回の仕掛けだったのである。通常のミステリーであれば、露骨に怪しい人物は犯人ではないという“ミスリード”として機能する。しかし今作の場合は少し違う。本作を見続けてきた視聴者ほど、ここまで露骨に嫌な人物として描かれる以上、その裏には何か事情があるのでは?と考えてしまう。

つまり今回は、“犯人当て”ではなく、“人物像そのもの”を利用したミスリードだったのである。そして、その先に待っていたのは、今回の文学テーマである夏目漱石の世界にも通じる、深い愛の物語だった。この着地もまた、本作らしい余韻を残していた。

思えば、この種の驚きは今作だからこそ成立すると言っていい。これまで積み重ねてきた「どんな人物にも背景がある」という作品への信頼があったからこそ、啓介という存在はギミックとして機能したのだ。

<最終回へ向けた静かな加速と余白の妙>

一方で、最終回へ向けた物語もしっかり進んだ。今回のキーワードとなったのは、「自分が今どうしたいのか?」という問いである。それは遺産を巡る物語の中だけではなく、ルナ自身が父への思いと向き合うためのテーマでもあった。そして、その感情がようやく行動となって溢れ出したことで、物語はいよいよ最終回へと向かう。

さらに面白いのは、パスワード探しのリミットがまだ“あと2回”残されていることだ。
普通なら最終回直前で残り“1回”にするところを、あえて“2回”残してみせる。その余白が実に粋である。だからこそ最終回では、単なる謎解きだけではない、もう一段大きなドラマが待っているのではないか?そんな期待まで抱かせてくれた。

最終回前でありながら、必要以上に盛り上げようとはしない。けれどその代わりに今作は、ここまで積み重ねてきた「どんな人物にも背景がある」という作品そのものの文法を、一つの仕掛けとして使ってみせた。派手な事件ではなく、作品への信頼そのものを武器にする。そんな粋な遊び心が詰まった、実に『月夜行路 ―答えは名作の中に―』らしい最終回前話であった。

<番組情報>

原作:秋吉理香子『月夜行路』(講談社文庫)『月夜行路 Returns』(講談社)
脚本:清水友佳子
音楽:Face 2 fAKE
チーフプロデューサー:道坂忠久
プロデューサー:水嶋陽、小田玲奈、松山雅則
トランスジェンダー表現監修:西原さつき、若林佑真、白川大介
演出:丸谷俊平、明石広人
制作協力:トータルメディアコミュニケーション
製作著作:日本テレビ

番組公式SNS、ホームページ
・X:@getsuyakouro
・Instagram:@getsuyakouro
・TikTok:@getsuyakouro
・ホームページ:https://www.ntv.co.jp/getsuyakouro/
★推奨ハッシュタグ #月夜行路

<原作情報>

『月夜行路』 
四十五歳の誕生日、孤独な主婦の沢辻涼子は家を出た。偶然出会った美しいバーのママ・野宮ルナは、深い文学知識と洞察力を活かした推理で、かつての恋人への涼子の思いを言い当てる。最愛の彼はなぜ涼子のもとを去ったのか?二人が始めた元彼探しの旅先で、明らかになる秘密とは。涙のサプライズエンディング!
発売中 講談社文庫

『月夜行路 Returns』
元彼探しの旅から戻った涼子が再びルナを訪ねたとき、店に届いた古いノートパソコン。誰が、何のために送ってきたのか。涼子は、パソコンを開くパスワード探しを手伝うことに。行く先々で事件に巻き込まれながら、パスワードを試していく二人。願いを込めた仕掛けに挑めるチャンスは、5回。鍵を握るのは、1冊の本。
発売中 講談社

【秋吉理香子 プロフィール】
兵庫県出身。早稲田大学第一文学部卒業。ロヨラ・メリーマウント大学大学院にて映画・TV番組制作修士号取得。2008年、第3回Yahoo! JAPAN文学賞を受賞し、2009年に『雪の花』でデビュー。主な著作に『月夜行路』『悪女たちのレシピ』『終活中毒』『無人島ロワイヤル』『暗黒女子』などがある。