喫茶店は語らいの場ではあるが…

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 筆者は埼玉県に住んでいるが、この地域は高度経済成長期に大規模な団地が建設されたこともあってか、高齢者の姿を目にする機会が多い印象だ。そういった高齢者が早朝に足しげく通うのが、駅前にあるチェーンの喫茶店である。午前8時頃になると店内には高齢者が集まりだし、日常の話題を語り合う光景が見られる。いわば、一種のサロンのようになっているのだ。

 こうした喫茶店で目につくのが、店員にしつこく話しかけ、執拗に絡む高齢者である。どんな会話をしているのか、耳を傾けてみると、「どこに今住んでいるの」「彼氏はいるの?」と店員のプライバシーを聞き出そうとするものまであり、さすがに問題なのではないかと感じた。こういった喫茶店の“スナック化”に悩む店員は少なくないようだ。【取材・文=山内貴範】

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詩の朗読や武勇伝を話す高齢者

 筆者は仕事前に喫茶店でコーヒーを飲むのが好きなので、駅前にある喫茶店に通うことがあるが、レジが込み合っているというのに店員に長時間話しかけ、勝手に盛り上がっている高齢者をよく見かける。レジが長時間占拠されているため、明らかに後に並んでいる人の顔にはイライラが見て取れる。

喫茶店は語らいの場ではあるが…

 だが、高齢者はお構いなしにそういった話を続けている。実際、こういった光景を目にした人は、多いのではないだろうか。ある喫茶店チェーンは、店員が会計の際に気軽に話しかけてくれる。それで気を良くしたのか、店員を自分の話し相手であり理解者であると勘違いしている人もいるのかもしれない。

 筆者がこれまで遭遇した事例では、詩を書くのが趣味という高齢者が自作の詩をいきなり朗読し始め、店員に「どう? いい詩でしょう。感想を聞かせてほしいな!」と迫ったり、かつて自分はヤンキーで喧嘩して何人をやっつけた、今の若者は頼りない、などと“武勇伝”を語り、根性論を延々と話し出したりする人などがあった。

コスパが良すぎる夜のお店

 そうした高齢男性にしてみれば、喫茶店は、極めてコスパのいい“夜のお店”なのかもしれない。地方によって価格差はあれど、大抵、ガールズバーは1時間滞在すれば1万円ほどかかり、延長料金も取られる。ところが喫茶店は300円前後でコーヒーを1杯頼めば、1時間でも、2時間でも店内に滞在することができるのだ。

 しかも、チェーンの喫茶店では若い女性がアルバイトをしていることが多く、会計の際にはちょっとした会話もできる。店員はどうしても弱い立場にあるため、強い口調で断ることができず、嫌々ながら客の会話に付き合う羽目になってしまう。しかも、絡んでくる客が常連だとよけい無碍に扱うこともできないため、心労も大きいはずである。

 一方で高齢者はというと、店員が自分の話を面白がって聞いてくれて、優しくしてくれていると勘違いをしてしまう傾向がありそうだ。結果、毎日のように店に通っては、自身の近況から店員の日常まで聞き出そうとする。これは、店員はもちろんだが店側もたまったものではないのではないだろうか。

政治や文学の話をされても困る

 実際に店員はどのように感じているのか。筆者が行きつけにしている喫茶店の店員に話を聞いてみた。

――長時間にわたる会話で、レジを占拠する高齢者がいますね。

店員:正直、迷惑しています。列ができているときには話しかけられても困りますし、そうでないときでも困ります。「かわいいね」「化粧が変わった?」などと言われても反応に困りますし、セクハラではないかと思います。

――実際にセクハラだと思いますが。

店員:ちょっとした会話程度ならいいんですけれどね。ただ、なかには政治の話や、文学の話をしだす人もいます。政治の話は、自分が推す政党のことを延々と話され、別の政党の支持者を「バカだ」と言い出す。気持ち良いものではありません。私が「知りません」と話すと、「あなたはそんなことも知らないんだな」と上から目線で話す人もいました。

 店のベテランスタッフに聞くと、店員に上から目線で絡む人は、公務員や大企業に勤めていた人が多いようです。おそらく、こっちがバイトだから何も知らないと思って、調子に乗る人が多いんでしょうかね。

おにぎりをくれるおじさん

――他に迷惑だなと感じたことはありますか。

店員:私は長話と恫喝程度で済んでいるのですが、他の喫茶店でアルバイトをしている友人は、どうも半分ストーカーみたいなおじいさんに絡まれていて、店をやめようと思っているそうです。

 誕生日を聞かれたので話したら、誕生日に花束とチョコレートを贈られたそうです。そして、「僕の誕生日にもプレゼントをくれると嬉しいな」と言われたんですって。あと、その人は料理が趣味なんだそうですが、「お昼に食べて」と、おにぎりを握ってきたそうです。さすがに気持ち悪いと思ったそうです。

――いくらなんでも、それは食べたくないですよね。

店員:もし、私が同じ場面に遭遇したら「受け取れません」と言いますし、もし受け取ったとしても食べずにこっそり捨てます。お客さんはひょっとすると寂しいのかもしれませんが、その心のすき間を店員で埋めようとするのは、やめてほしいですよね。

店員の名札のイニシャル化は進むか

 ほかにも、ある喫茶店では、客に退勤の際に“出待ち”されるなどのストーカー行為をされた結果、アルバイトを辞めた店員もいたという。喫茶店側もこうした事態に苦慮している。ある喫茶店チェーンは、店員に対するパワハラやプライバシーの侵害が懸念されることから、それまで本名を書いていた名札の表記をイニシャルにするなどの対策を進めた。

 会計のセミセルフレジ化も進み、客と店員が会話をする機会を減らす取り組みも進んでいる。これはコロナ騒動の間、感染対策の一環として普及した手法だが、パワハラ、セクハラ対策としても一定の効果は見られるようだ。一方で、なんでも店員にやってもらうのが当たり前だった高齢者世代からは、不満が上がっている。

 チェーン系喫茶店も様々なスタイルがあるものの、一部の客の迷惑行為に悩んでいるケースは少なくないようだ。日本の接客業のクオリティは世界一だと思うが、そういった迷惑を顧みない行為によって様々な規制がかかり、社会が不便になっていることを自覚する必要があるだろう。

ライター・山内貴範

デイリー新潮編集部