高橋仁一氏(高橋デンタルオフィスHPより)

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「アイツの歯を全部抜いてやりたい」

 高額なインプラント治療費を前金で支払わせ、健康な歯まで抜くも治療を完了させず、怒れる患者たちから逃げ回る。さらには当の歯科医が破産手続きを開始。負債総額は約19億円にも上る。「被害者」たちが詐欺だと追及の声を上げる中、ついに警察が動き出した【前後編の前編】。

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「アイツの歯を全部抜いてやりたい」

 憤まんやるかたない様子でこう語るのは、千葉県で建設会社を営む男性(50代)だ。“アイツ”とは、千葉市内に歯科医院を構える「高橋デンタルオフィス(以下、TDO)」の院長、高橋仁一氏(57)のことを指す。

高橋仁一氏(高橋デンタルオフィスHPより)

 1996年に東京歯科大学を卒業した高橋氏は、2002年にTDOを開業。HPでは「日本顎咬合学会」の認定医を謳い、〈不安な将来、快適な未来、決して後悔のないご選択を〉と宣伝文句を掲げている。

高額なジルコニア製を勧められ…

 冒頭の男性はもともと歯周病が進行して上の歯が3本抜け落ち、インプラント治療を検討していた。知人の紹介を受け、TDOの門をくぐったのは22年6月のこと。

「(歯が抜け落ちた)3カ所を治せばいいかな」

 そう思っていた男性に対して、初診時に高橋氏はこう言い放った。

「どうせやるなら、全部治さなきゃしょうがない。上を治したら、すぐ下の歯もダメになるから」

 この時男性は、人工歯根の素材に関して一般的なチタン製ではなく、“人工ダイヤモンド”と呼ばれる高額なジルコニア製を勧められたという。

「“チタンは発がん性があるけど、ジルコニアだったら安全だから”と言われました。一生使うものですので、安全で良い物があるなら、高くても思い切ってそちらにしてもらった方がいいかな、と」

700万円支払ったのに1回しか手術が行われず

 男性が次に赴くと、「インプラント治療計画書兼見積書」なる書類が準備されており、全ての歯を抜いて合計16本の人工歯根を埋め込み、オールセラミックスのかぶせ物10個を付ける内容の見積もりが書かれていた。合計5回の手術を要する、総額700万円の壮大な治療計画だった。

「予想以上に高額なので私が悩んでいると、“来月になったら800万円になりますよ”と言われました。聞くと、材料費が上がっているのだとか。100万円も上がる前にと、その場で契約書にサインし、自分の会社から借りる形でお金を工面して、6月中に700万円を支払いました」(同)

 しかしながら、実際に手術が行われたのは一度きり。しかも、その手術の少し前に男性は不可解な話を持ちかけられている。

「学会で発表する資料用に、症例を使わせてもらいたい。もう700万円を追加で出してくれたら、治療完了時に1400万円全額返すキャンペーンなんです」

 若干心が揺らぐも、すでに男性の手元に資金は残っていなかった。話を詳しく聞く前に断ったのだが、高橋氏は「500万円ならどうですか?」と、しつこく食い下がったという。

「チタン製の人工歯根を使っていたことが発覚」

 その後の手術で、4本の人工歯根を埋め込み、仮歯をかぶせるところまで終了。治療を順次進める予定だったが、男性のカルテを見ると、まともな治療は施されていないことが読み取れる。

「通院しても15分ほど、口の中を見るだけ。さらに驚いたことに、何かの拍子で高橋がチタンの調子がどうこうと口にした。さんざん発がん性の不安をあおっていたのに、チタン製の人工歯根が埋め込まれていたのです。問い詰めると、チタンが安定してからジルコニアに入れ替えるとか言いだす始末で……」(男性)

 昨年夏以降は連絡もまともに取れなくなったそうで、心配になった男性がTDOを訪ねるも、高橋氏は、

「私の口からは何とも言えません」

 そう繰り返すばかりで、年が明けると閉院状態になってしまったというのだ。

「食べ物がロクにかめず、食事の量もめっきり減った」

「お金も戻ってきませんし、治療も中途半端。入れられた仮歯は全然サイズがあっておらず、かみ合わせが悪いのか喋りにくい。食べ物がロクにかめず、ほとんど飲みこむしかない状態でしたので、食事の量もめっきり減りました」(男性)

 男性は見切りをつけて、警察に被害を相談。現在は大学病院で治療を継続しているというが、

「2本の人工歯根は全然ダメだと言われました。うち1本は副鼻腔に達するギリギリまで深く入り込み周囲が膿んでいた。現在、その2本を除去するための準備を進めています」(同)

 なお、そもそもチタン自体に発がん性は認められないというのが学界の定説である。

 後編「『4000万円以上だまし取られ、返済を迫ると“年金で暮らせるでしょ”』 被害者続出の『詐欺インプラント歯科』の悪質すぎる手口」では、この男性以外の被害者の証言を交え、悪質すぎる「詐欺インプラント」の手口などについて詳しく報じている。

週刊新潮」2024年8月1日号 掲載