「食を通じた人間関係で日本全国をかき混ぜる!」 雨風太陽社長・高橋博之の地方活性化戦略
都市と地方の分断を食でつなぐ
「お母さん、今日の波の高さは3メートルだから漁師の○○さんはきっと海に出られないね」
雨風太陽が運営する生産者と消費者をつなぐプラットフォーム『ポケットマルシェ』(以下ポケマル)から食材を購入している東京都在住の家庭では、こういった会話が日常的に交わされる。日本海の蟹を漁師から直接購入するようになってから、毎日子どもが波の高さを気にするようになったという。
ポケマルは生産者と消費者をつなぐ日本最大級のプラットフォームで、現在生産者の数は8100人を超え全国市町村の9割弱をカバーし、登録ユーザーは73万人超。ここでは毎日全国津々浦々、生産者と消費者の活発なコミュニケーションが行われている。
同社の売上高は9.5億円(2023年12月期)で、昨年東京証券取引所グロース市場に上場。コロナ禍の巣ごもり需要で食材宅配サービス業界は伸長したのは言うまでもない。緊急事態宣言が出てからは注文が殺到して新規会員の制限をする企業もあった中、同社は倉庫を持たないため青天井で会員数を延ばし、売上は2カ月で15倍に急伸した。
ビジネスモデルとしてはメルカリの食材版のようなもので、一次生産者が同社のプラットフォームに出店し、消費者は生産者と直接取引を行う。最大の特徴は生産者とユーザー両者が直接コミュニケーションすることにある。それにより人間関係が生まれ、そのリアルな交流が都市と地方の分断をつないでいる。
農協や漁協に加入している一次生産者は、市場価格に沿った価格決定を行わなくてはならないため、自ら自由に価格を決められないという構造がある。ここでは生産者が価格を自由に決められる。
「弊社のシステムはわれわれが間に極力入らずクレーム等も本人同士で解決をしてもらうことになるので、生産者から冷たいと言われることもあります。でもこの問題は、例えば発展途上国に魚を渡すか、魚の捕り方を教えるかと似ていて、後者でなければ生産者はいつまでも自立ができません。マーケティングはお客様の声を聴くことが基本。耳を防ぎたい厳しい声にも向き合うことで必ず成長し豊かさにもつながる」と高橋氏。
生産者にとって生産物を直接消費者に届けるというのは、言ってみれば手塩にかけて育てた娘を嫁に出すということ。これまで食品卸やスーパーなどを通じて消費者に届けたとしても、生産者に消費者の反応は見えなかった。しかし、消費者との直接のやりとりを通じて感謝の声や喜びを受け取れるようになり、仕事のやりがいに大きくつながっているという。
自然と日々対峙する生産者の苦労が伝わって、消費者に優しさが芽生えます。不思議と生産者を育てよう、支えようという気持ちが湧き上がる。ですから人間関係を築くことが鍵です」と高橋氏。
ある時、水産物が捕れた場合に購入成立するという顧客が、なかなか商品が届かないと生産者に連絡したところ、荒波の海の動画を添えて1カ月のうち4日しか漁に出られていないという返事がきた。仕事をしたくてもできない漁師の状況を理解し、都市に住む者が本当の意味で生産物に〝価値〟を感じ、生産者へのリスペクトが生まれた瞬間。と同時に、都市に住む者が命がけで漁をする漁師とその食材を通じて〝命〟というものに向き合うきっかけとなった。「見えないものに人は価値を感じませんし、価値を感じなければお金も払わない。価値を見える化するためには、当人同士の直接のコミュニケーションが一番だと考えます」(高橋氏)
