日本の会計システムが生んだ英国史上最大の冤罪…「オービス」は大丈夫なのか心配

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いやはや、驚いた。日本経済新聞(紙版)1面のコラム、「春秋」に2024年1月18日、なんとオービスの逆転無罪が登場したのであるっ!

「しまった、と思ったがもう遅い。スピード違反で御用となり、ホゾをかんだ方は大勢おられよう。警察庁によれば、全国の検挙件数は2022年に約93万件にのぼり…」

コラムはそう始まる。「測定はもちろん機械が担う」と受けて、こう続く。

「ため息をつきつつ、みんなが摘発を受け入れるのはその正確さを信用しているからだ。もし機器がいいかげんなら、無実の罪を被る人が世にあふれる」

確かに。でもって「英国の郵便局を舞台にした冤罪事件」へと話は展開する。

「ことは1999年にさかのぼる。窓口の現金がシステム上の残高より少なくなるケースが頻発し、局長らが次々に起訴された。補填を求められて命を絶った人もいる。」

ところが、じつは富士通の会計システム「ホライゾン」に欠陥があったと、最近になって発覚した! 別の報道では、英政府の「独立公開調査」に対し富士通の欧州担当責任者は「導入当初から不具合を認識した」と証言したそうな。「英国史上最大の冤罪」とされ、大変なことになっている。コラムはこう続く。

「冤罪を生んだのは、しかし人間である。システムを盲信し、刑事訴追の権限を乱用した国有郵便局会社や、その言い分を疑わなかった司法もひどいものだ。」

そうして結びの部分にオービスが登場する。こうだ。

「ちなみに、かつて日本ではオービスの精度が争われる事件があった。大阪高裁は1992年、誤測定を認めてドライバーに逆転無罪を言い渡している。」

30年以上前のあの逆転無罪を、「春秋」の筆者氏はよくご存知でしたね。でも、なんだか、「日本の司法は優秀だ。英国は司法にこそ欠陥があった」と聞こえなくもない。うーん、それはどうなんだろ。

私の手元に、一審・加古川簡裁の有罪判決と、二審・大阪高裁の逆転無罪判決の、判決書きの写しがある。オービスに限らず速度取り締まり方面のレジェンドというべき和田兌(筆名:浜島望)氏の『警察の盗撮・監視術』(技術と人間)には詳しい裏話が載っている。どんな事件だったか、ざっとふり返ってみよう。

■道端で赤いストロボが光った

事件は1987年7月17日午前5時過ぎに起こった。当時37歳の会社員・O氏は大型トラックを運転し、兵庫県の加古川バイパスを走行していた。制限速度は60キロ。O氏の速度はせいぜい60キロちょいだった。

突然、道端で赤いストロボが光った。東京航空計器(TKK)の「オービスⅢLh」に撮影されたのだ。Lhはループコイル式で、撮影には36枚撮りの銀塩フィルムを使う。

O氏は後日呼び出されて警察へ出頭。測定値は111キロ(超過51キロ)だった。いくらなんでもそりゃないだろ。O氏は強く否認。検察は苦慮したか、2年近くを経た1989年6月になって起訴した。

裁判は加古川簡裁でおこなわれた。国選の弁護人はぜんぜんやる気がなかったという。O氏は知人の紹介で私選の弁護人をつけた(国選は解任)。しかし途中で資力が尽き、あとは独力で戦った。1991年6月、判決は求刑どおり罰金10万円だった。

O氏は大阪高裁へ控訴。控訴審での国選弁護人は、一審の大量の記録を読み、O氏の無罪を確信したという。1992年9月9日、大阪高裁の判決が言い渡された。

裁判長「主文。原判決を破棄する。被告人は無罪」

長い判決理由の終わりのほうに、こんな部分がある。

裁判長「本件タコグラフ記録紙には本件当時の速度が表示されていると考えることにも十分合理的根拠があるといわざるを得ず…」