新たなスケープゴート 業績不振の理由を ティームー とシーインのせいにする小売企業
この記事は、小売業界の最前線を伝えるメディア「モダンリテール[日本版]」の記事です。ティームー(Temu)やシーイン(Shein)について、いくつかのファッション小売企業やeコマースプラットフォームが非難合戦を繰り広げ、責任を押し付けている。
ジェイン・ドット・コム(Jane.com)のCEOは11月、マーケットプレイスを廃止することと発表し、オンラインショッピングを独占してきたティームーやシーインなどのウェブサイトと「価格で張り合うことは不可能」だったと主張した。またEtsyのCEOは最近の決算説明会で、ティームーとシーインが、特にGoogleやメタ(Meta)について、「両社だけで広告コストを左右する影響力があった」と、宣言した。ギャップ(Gap)のエグゼクティブバイスプレジデントは、シーインがいくつかの「シェアを拡大し」、「我々の顧客と競争している」競合のひとつだと8月に言及した。「この分野で勝ち続けるために、我々にはやるべきことがたくさんある」と同氏は付け加えた。
同時に、小売企業の問題がすべてシーインやティームーに起因するわけではないとも消息筋は述べている。他社に責任を負わせるよりも、むしろ、ビジネスでは特定の決定について責任をとり、転換のための最善の方法を模索する必要がある。マーケットプレイスパルス(Marketplace Pulse)の創設者兼CEOのジョーザス・カジウケナス氏が言うように、「ブランドや小売企業が価格でシーインやティームーと張り合っても望みは薄い。しかし、価格は変動要素のひとつにすぎない。ほかの要素を最適化するのが勝利の方法だ」。
ファストファッション効果
シーインと比較してティームーはまだ新しい。シーインの設立が2008年であるのに対し、ティームーが設立されたのは2022年だ。両社は昨年、ファストファッション分野における強力な競争相手となった。シーインは11月、秘密裏に900億ドル(約13兆1000億円)の評価額で(2022年4月における1000億ドル(約14兆6000億円)よりは減少している)IPO(新規公開株)を申請したと報じられており、ティームーは今年の収益が160億ドル(約2兆3400億円)を超えるとアナリストに予測されている。
それでも、両社への批判がないわけではない。最近の報道では、シーインが中国の労働法に違反しているといわれ、ティームーの姉妹会社であるECアプリのピンドゥオドゥオ(Pinduoduo)は偽造商品を販売していると非難されてきた。
シーインとティームーは、互いに法的闘争も繰り広げているが、両社でH&M、ザラ(Zara)、フォーエバー21(Forever 21)などの競合他社から市場シェアを奪い取ってきた。インサイダーインテリジェンス(Insider Intelligence)でシニアアナリストを務めるスカイ・キャナバス氏は、「これらの業者は基本的にすべて、シーインの影響の結果としてビジネスのある種の再調整を余儀なくされた」と米モダンリテールに語った。「これらの企業は価格だけで競争することはできていない。さらに、シーインの商品のほうがはるかに迅速に市場に投入される」。一部の企業は価格や迅速性での競争をあきらめて小売店舗を設立し、良質な顧客サービスや商品の厳選に専念した。
商品のコスト以外にシーインとティームーが勢いを得たのは、ソーシャルメディアのトレンドを活用したことだ。両社は毎日数百もの商品をサイトに追加するので、TikTokやインスタグラムの新しいスタイルや商品トレンドにすぐ乗ることができる。WWDによると、現在シーインは、TikTokのハッシュタグ「#hauls」とともに掲載されている商品の42%を占めている。
それだけでなく、両社はこれらのソーシャルメディアプラットフォームで広告のあり方を変えようとしている。両社は低価格であることを活かして、ほかの小売企業より高値の入札を行っていると、カジウケナス氏は指摘する。「ブランドが顧客を獲得するための中核チャネルである広告の入札価格への影響は見えにくいものだが、ブランドがもっとも実感しているものだ。CAC(顧客獲得コスト)は主要な変数であり、シーインやティームーの存在によってはるかに高価なものになった」と同氏は述べる。ビジネスオブアプス(Business of Apps)によると、Facebook広告の平均CPM(広告表示1000回のコスト)は2022年に14ドル90セント(約2180円)、2020年には12ドル20セント(約1780円)だった。そして、ある分析によると、TikTokのCPMは前年比で12.28%上昇した。
シーインとティームーの広告支出は、ほかの小売企業にとっての課題となっているが、ソーシャルメディアプラットフォームにとってはメリットがある。メタは最近、ティームーとシーインの名前を出さなかったものの、「オンラインコマースやゲームは、ほかの市場の顧客にリーチしようとする中国の広告主からの多くの支出によって利益を受けた」と述べた。中国で創設され、現在はシンガポールを拠点としているシーインは、このグループに含まれていると思われる。
中傷
すべての企業が決算発表の場でティームーやシーインの名を口にしたわけではない。一方で、アナリストが質疑応答セッションでこれらの企業に関する質問をすることが増えてきているとキャナバス氏は言う。たとえば、ファイブビロウ(Five Below)の最新の決算発表で、ゴールドマンサックス(Goldman Sachs)のアナリストは、「競争環境における自社の位置づけ」について、特に低価格帯に重点を置くブランドに対してどう考えているかを質問した。バークレイズ(Barclays)のアナリストは、「ティームーやシーインのような新しい競争相手が」低価格帯のビジネスに影響を及ぼしているのかどうか、eBayに質問した。
経営陣は、このような質問に対して即座に回答することもある。たとえば、ルルズ・ファッション・ラウンジ・ホールディングス(Lulu’s Fashion Lounge Holdings)のCEOは最近の決算説明会で、シーインやティームーが「おそらく顧客ベースをわずかに削り取っただろう」としているが、「シーイン、ティームー、そのほか市場に存在する大手ファストファッション業者が、この四半期に当社の既存店売上高の減少を引き起こしたとは考えていない」と話した。またeBayのCEOは、「ティームーやシーインによるビジネスへの大きな影響は見られない」と述べた。
その一方で、いくつかの企業の経営幹部は、アナリストからの質問をかわそうとした。「これまで聞いた限りでは、具体的にティームーが自社の売上にどのような種類の影響を及ぼしているのか、そして、予見しうる将来において売上にどのような影響を及ぼすと予測しているのかについて、小売企業はオープンに話し合うことをやや控えているようだ」とキャナバス氏は述べる。「自社を差別化したり、何らかの形で特別な位置づけにしようとする小売企業が増えており、売上への影響に関する直接的な質問には回答しない傾向があると聞いている」。
たとえば、ファイブビロウのCEOは「価格によって価値を伝えようと試み、そして大きな成功を収めている小売企業がいくつかある」「それはたしかに顧客の共感を集めているようだ」と言い、「それは、我々がこのビジネスをはじめたときから行ってきたことだ」と付け加えた。
小売業者がシーインやティームーの名を挙げないとしても、今日の全体的な状況は、別のeコマース大手企業、すなわちAmazonが標的になった非難合戦をなぞっている。何年にもわたり、小売企業はAmazonが普及させた低価格、迅速な配送、メンバーシップ特典を、自社の低迷の理由だと指摘してきた。しかし、すべてがAmazonに帰結するわけではなかった。たとえばベッド・バス&ビヨンド(Bed Bath & Beyond)は、新しいeコマースサイトを立ち上げるのに3年間を要した。シアーズ(Sears)とJCペニー(JCPenney)は当初、eコマースを物理的なコマースと統合可能なものではなく、自社独自のサイロ化されたビジネスとしてしか扱わなかった。
数年前、小売企業は、今ではシーインやティームーにより困難に直面しているファストファッションビジネスに対して非難を行っていた。たとえばバナナリパブリック(Banana Republic)は2015年、買い物客がザラ、フォーエバー21、H&Mを選んだことで売上が低迷した。同じ年にギャップは、人々がより安価なジーンズとシャツを求めたために売上が急落した。「誰も現在の業績に満足していない」と、当時のギャップのCEOは、店舗の閉店を発表した直後の投資家向け会議で発言した。
一部の小売企業は、新しい商品やスタイル、色を作り出すことで、シーインやティームーに対抗しようとした。シーインやティームーと提携した業者もいる。たとえばフォーエバー21は現在シーインと提携し、共同ブランドの商品を店舗とオンラインで販売している。この協業によって、フォーエバー21はシーインの顧客層の目に留まるだけでなく、フォーエバー21がシーインの生産能力も活用することもできるとキャナバス氏は述べる。
これは、Amazonを利用したほかの小売企業の戦略でもある。コールズ(Kohl’s)などの小売企業は2021年にAmazonとの提携を開始し、Amazonは間もなくアパレル小売にも、ジャストウォークアウト(Just Walk Out)テクノロジーを提供する予定だ。さらに、Amazonで商品の販売をはじめたブランド(特に美容品ブランド)も増えている。
結局のところ、小売企業はティームーやシーインについて甘い態度で居続けることはできず、自社を最強の競争相手となるべく戦略を転換しなければならないと、消息筋は言う。予算を気にする顧客が、どこにお金を注ぎ込むかを決めるとき、これは決定的な条件になる。
結局のところ、小売業者はテムやシェインに満足している余裕はなく、可能な限り最強の競争相手となるべく戦略を転換する必要がある、と情報筋は言う。予算を気にする顧客がどこに資金を流すかを決めるとき、これは極めて重要になる。
「市場は静的なものではない。毎年の変化によって閉ざされる機会もあれば、新たに開ける可能性もある。適応が競争の鍵となる」と、マーケットプレイスパルスのカジウケナス氏は語った。
[原文:The new scapegoats: Brands are blaming Temu & Shein for poor business performance]
Julia Waldow(翻訳:ジェスコーポレーション、編集:戸田美子)
Illustration by Ivy Liu
