Netflixで独占配信中の復讐劇「御手洗家、炎上する」が世界2位をマーク。オープンセットを実際に燃やした迫力のある場面から始まる(画像:Netflix

Netflix、Amazon プライム・ビデオ、Huluなど、気づけば世の中にあふれているネット動画配信サービス。時流に乗って利用してみたいけれど、「何を見たらいいかわからない」「配信のオリジナル番組は本当に面白いの?」という読者も多いのではないでしょうか。本記事ではそんな迷える読者のために、テレビ業界に詳しい長谷川朋子氏が「今見るべきネット動画」とその魅力を解説します。

原作は人気漫画「御手洗家、炎上する」

徹底的にやり返す復讐劇を求めている人にはオススメできません。Netflixの日本発オリジナルシリーズ「御手洗家、炎上する」は、脇の甘さもある復讐サスペンスです。失敗作にもなりかねませんが、これまで国内外で好成績を収めています。全世界配信が開始された7月13日直後から非英語作品の世界ランキング入りを果たし、2週目で世界2位をマークするほど。なぜ人気を集めているのでしょうか。


御手洗家を炎上させた犯人は誰なのか?その真相を突き止めていく主人公・杏子を永野芽郁が演じる(画像:Netflix

ある意味、ぬるま湯のようなドラマであることが人気の理由の1つにあると思います。冒頭こそ、物語の舞台となる豪邸の「御手洗家」が激しく真赤な炎に包まれ、わざわざこの場面のために建設した原寸のオープンセットを燃やしてしまうほど気合が入っていますが、これ以外は刺激や緊張感はほどほど。時に呑気さに面食らいながら全8話を完走すると、意外にもスッキリします。ぬるま湯的な良さがあるのです。

原作は藤沢もやしのコミック「御手洗家、炎上する」です。復讐劇に加えて、「御手洗家を炎上させた犯人は誰なのか?」というミステリー要素もある人気作とあって、ベースのストーリーそのものは、それほど生ぬるいわけではありません。「恋はつづくよどこまでも」などを代表作に持つ金子ありさが脚本を担当し、続きが見たくなるような仕掛けもあって離脱を防いでいます。毎話ラストのシーンで急展開を見せるNetflix作品ではお馴染みのアレです。復讐計画が始まる1話から、御手洗家にせっかくうまいこと潜入した主人公の杏子をいきなり突き落とします。


永野芽郁(右)と鈴木京香(左)が、火花散る女2人のバトルを繰り広げる(画像:Netflix

抜かりなく計画を立てていそうで、結構スキだらけの杏子でもありますが、演じる永野芽郁がつねに健気な表情を見せてくれるものだから、応援モード全開で見る人も多いはず。恨みを募らせて仕返しするのではなく、母親と妹、そして自分のためであることがひしひしと伝わってきます。復讐劇として見ると、ぬるま湯的でも、杏子のかつて実家だった御手洗家で13年前に起こった火事の真相をただただ突き止めていく情け深い話なのです。

永野芽郁と鈴木京香が演じる復讐劇

程よくイラつかせる登場人物たちが揃いに揃っていることも人気の理由にあるでしょう。


セレブ妻に成り上がった憎たらしい真希子を鈴木京香が好演(画像:Netflix

その筆頭にいるのが、憎たらしい真希子です。鈴木京香のハマリ役ぶりが楽しめるわけですが、貧困シングルマザーから脱して、SNSでチヤホヤされるセレブ妻に成り上がり、しかも杏子の父親の再婚相手で、杏子の母親の元ママ友という近すぎる関係はあまりにも滑稽です。勘が鋭く、ずる賢いように見えるのに、復讐を企てる杏子を目の前にして実はとんでもなく鈍感なのが気になってしまいます。

真希子の連れ子の希一を工藤阿須加が、真二を中川大志が演じ、この2人もしっかりやきもきさせてくれます。単なるサブキャラに終わりません。


「全裸監督2」のヒロインだった恒松祐里は今回、天真爛漫な妹役(画像:Netflix

杏子の妹に至っても、余計なことを繰り返しがち。「全裸監督2」のヒロインだった恒松祐里が演じているとはわかりにくいほど、ドジキャラです。クセが強い登場人物ばかりなので、杏子の母親役である吉瀬美智子の存在感が薄い感じもします。

これまで挙げたすべての登場人物たちと直接的につながりを持つのが、及川光博が演じる父親なのですが、この父親が実は最も程よくイラつかせます。「13年間、私たちに連絡ひとつ寄こさない人だよ。信用できないし、今は敵だよ」と、杏子が父親のダメさ加減を説明するのですが、その通りです。ともすれば、嫌悪感を生み出すようなキャラクターですが、ただただ病院経営が忙しいというリアリティのない理由と、及川のコメディ調の演技によって、「しっかりしてよ、ミッチー」などと茶化しながら楽しめます。


炎上する御手洗家の前で土下座して謝る母親役の吉瀬美智子(画像:Netflix

決してシリアスに走り過ぎず、コメディのように笑いを狙っているわけでもなく、単純に滑稽なキャラクターたちによるほっこり人間ドラマとして成り立っていることも人気の理由にありそうです。

終盤にかけてこの要素が高まっていきます。御手洗家の炎上の真相が核心に迫るなかで、SNS創成期の「mixi」が答えを探るカギとなりながら、ドラマの中で13年前の杏子の母親と真希子の人間関係が解き明かされていく過程もあります。世代によっては懐かしくもあり、ここだけは妙にリアルなmixi文化が描かれています。mixiを心の拠り所としていた両者の素顔が見える場面です。

世界44カ国でTOP10入り

復讐劇なのにぬるま湯的で、程よくイラつかせるキャラクターが続々と登場し、人間ドラマの情緒もあるドラマなわけですが、日本国内のNetflixウィークリーランキングでは1週目は2位、2週目1位、3週目も2位と上位をキープしています。

国内ばかりか、世界各国の非英語作品を集計したNetflixウィークリーランキングでも好成績です。1週目から4位に位置づけ、2週目は2位、3週目に入っても8位にランクインしています。これまで最高の世界2位の時点では44カ国でTOP10入りし、アジアはもちろんのこと、中南米やスペインで人気があることが注目すべきポイントです。

1990年代に流行った「ジェットコースタードラマ」のような二転三転する展開や、わざとらしくもある伏線がわかりやすく回収してくれる作りは古臭くも感じますが、ラテン系のドラマファンにとって超定番の人気の作風です。約15年にわたって、世界のドラマトレンドをリサーチしていますから、断言できます。たとえば、犯罪ものであっても、中南米やスペインで作られた人気ドラマは、いわゆるラテンノリの成分が入っています。復讐劇そのものも人気なうえに、今回の「御手洗家、炎上する」は全体のテイストもマッチングした結果だと思います。

以前であれば、地域に合わせてローカライズするリメイクでヒットする類の作品ともいえ、日本で制作されたままでこれだけの成績を作ることができたことから、新たな可能性も感じます。SFなど高額予算が求められるジャンルでなくても、ある程度の予算をかければ、成功しやすいことを証明しています。


主な舞台となる「御手洗家」のリビング。写真は左から恒松祐里、中川大志、鈴木京香、濱田マリ、及川光博(画像:Netflix

ちなみに御手洗家の室内は、角川大映スタジオ内に大規模なセットを作り込んで撮影されています。玄関からセレブ感を漂わせ、1階から中2階に上がる階段を作って高低差から広がりを表現し、一面ガラス張りの窓から差し込む光の反射量も計算し、撮影に臨んでいるそうです。チープに見えがちな現代ドラマでも、コストをかけるべきところにかけることの大事さを物語っています。

最後に1つだけ人気の理由を付け加えるならば、後味の良さも挙げられます。杏子役になりきった永野芽郁のラストの笑顔を見るために、完走する価値あり。幸せ探しの物語も詰め込んでいることに気づきます。


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(長谷川 朋子 : コラムニスト)