■復職する選択肢もあったが…

勤めていた会社から不当解雇された当時、私の年収は約500万円だった。これは国税庁が「令和3年分 民間給与実態統計調査」で発表している男性の平均年収(545万円)とあまり変わらない。

写真=iStock.com/Fajar Kholikul Amri
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内訳は、月給が約35万円(基本給22万円。資格手当と家賃補助が7万円。月平均40時間前後の残業代が6万円)。賞与は夏冬合計で80万円。これらの年収を29歳で得ることができる雇用条件は、客観的に見ても恵まれているといえる。

その後、会社を相手取り裁判を起こした結果、約4000万円の支払いを条件に会社と和解したことは前回記事で述べた(〈解雇通知書はカネになる…2社から裁判で計4700万円を勝ち取ったモンスター社員の「円満退社」の手口〉参照)。その際、不当解雇も取り消されたので復職するという選択肢もあった。

だが、それでも私は元の会社には戻らなかった。なぜならこのような組織は、何かの出来事をきっかけにブラックな側面をたちまち露わにし、働く人の人生を台無しにする暴走を始めかねないからだ。

実際は違法労働が横行しているにもかかわらず、給与や諸待遇は悪くないため求人サイト上では一見ホワイト企業に見えることから、私は「隠れブラック企業」、または「グレー企業」と呼んでいる。

■1.固定残業代=労務管理がちゃんとできていない

このような企業にはどのような特徴があるのか。私は主に以下の3点だと考える。

・固定残業代を採用している
・事実と感情をごちゃ混ぜにして議論するなど、上司や役員が物事を切り分けて思考することができない
・ホウレンソウ(報告・連絡・相談)が私利私欲のため正常に機能していない

固定残業代とは、実際の残業時間にかかわらず、給与にあらかじめ一定の残業代を組み込んでおく制度のことだ。

企業からすると固定残業代導入のメリットは多い。募集要項の給与の見栄えが良くなり、基本給の引き下げが狙えるためボーナスや残業代を低く抑えられる。逆に労働者側のメリットとしては「設定された残業時間内よりも早く業務を終わらせれば、大して働いていない日でも残業代がもらえること」が教科書的な回答として挙げられる。

けれどもご存じの通り、社会は甘くない。社会経験のない就活生ならいざ知らず、業務の効率化に成功すれば新たな仕事が振られることは目に見えている。そもそも冷静に考えると、1分単位で残業代を支払えば固定残業代を導入する必要はないはずだ。

つまり私が思うに、固定残業代を導入している時点でその会社は従業員を大切にしておらず、労務管理が杜撰である可能性が高い。

■「これが当たり前」という空気がブラック職場を作る

私が最も懸念しているのは「固定残業代を払ってるんだから、その分の残業をするのは当たり前」といった空気感が職場に蔓延することだ。法的にもモラルにも正当な業務方針に抗うことは難しい。

だが、この空気感の厄介なところは、「ウチの会社はこうだから」「業界の常識だから」「固定残業代を払ってるんだから残業代は出ない」といった偏った価値観や歪んだ同調圧力に豹変(ひょうへん)しやすいことだ。

ずっと押し付けられれば、諦めて会社の色に染まったほうが楽に感じる人も出てくるだろう。こうして長時間労働と違法労働は常態化。筋金入りの社畜精神を持つ人材で溢(あふ)れるブラック企業が完成する。

とはいえ、固定残業代を採用しているからといって「定額働かせ放題」が実現できるわけではない。この点は労使共に勘違いしている傾向が強いように感じるので注意が必要だ。

あくまで固定残業代は、一定時間までの残業代の月額固定払い。設定された残業時間分を超過した場合は別途、残業代を支払わなければならない。ところがどっこい。働く人と働かせる人の知識不足や言葉のイメージ、職場の空気感などの要因で、固定残業代は搾取の常套手段として使用されているのが実情ではないか。このような背景があるため、固定残業代を導入している企業へは基本的に入社しないのが賢明だろう。

■「月5000円の手当」で違法労働がバレた

実際、私が訴えた2つの会社は営業手当や諸手当を固定残業代として悪用していた。

もう少し詳しく説明すると、2社目は勤務時間内(会社内のオフィスで働いている時間)の残業代は1分単位で発生していた。しかし、勤務時間外(タイムカードの退勤を打刻した後、あるいは出勤を打刻する前)に突発的に起こるトラブル対応は、手当等のないサービス残業が基本だった。

私は、この休日を含む勤務時間外に無給でトラブル対応することに納得がいかず、仕事のオンとオフを切り分けたいと長らく上司に訴え続けてきた。すると、解雇2カ月前から「業務量の増加に伴う手当」として月5000円の手当が支給されるようになる。

今思えば、万が一の時のためにリスクヘッジをしたかったのだろう。解雇通知書を渡すタイミングで「休日対応手当(固定残業代のつもり)を支払っているのに対応していませんね? よって勤務態度不良で解雇します」と言ってきたからだ。

裁判では、この謎の手当5000円が一つの争点になった。会社側は「この手当は固定残業代であり、時給1100円を基に計算した」と主張したが、私が働いていた県は最低時給が900円以上あり、これに割増賃金の計算方法である1.25倍を掛けると時給1100円では足りない計算になる。

つまり、手当の性質はどうあれ、会社は違法労働を強いていた事実を裁判で堂々と認めてしまった。私の場合は会社側に労務の知識が乏しかったこともあり、これといった大きな問題は起きなかったが、あの手この手で正確な残業代を出し渋る企業には注意したい。

■2.「わかる」「わからない」を多用する上司は注意

「会社携帯は退勤後や休日も対応しろ! お前が対応しないとお客さまもドライバーも困るだろ! もう学生じゃないんだぞ! なんで何度も言ってるのにわからないんだ!」

上記のセリフを、私は不当解雇された企業から言われたことがある。このセリフの大きな問題点はなんだろうか? それは、「わかる」「わからない」という曖昧な表現を使い、問題の切り分けを怠っている思考回路だ。

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そもそも「わかる」という表現は、場合によって「理解する」という意味と「共感・納得する」という意味の2つがある。この点は切り分けて考えるべきであり、混同してはいけない。しかし、私が訴えた会社は「アイツはわかっていない」と一括りに問題をまとめたがる印象を受けた。

社会人である以上は結果や責任が求められる。自分が業務を怠ったら誰かにシワ寄せがいく。そんなことは私のようなモンスター社員だろうがZ世代の若手社員だろうが誰だって「わかって」いる。けれどサービス残業など、タダ働きで自分が犠牲になるのは面白くない。お客さまや会社に対して申し訳ない気持ちもあるが、できないものはできない。だから従わない……。

■3.社内ホウレンソウがまるで機能していない

このように、上司から見て厄介な社員は、問題行動を自覚している上にそれを意識的に選択している(選択せざるを得ない)可能性がある。そして、ここが労働問題の肝だ。問題行動の根の根にある原因は労働者側に非があるのか。それとも会社側に非があるのか。感情を押し殺した冷静な見極めが必要になる。

だがモーレツ社員(昭和の企業戦士)の方々は、この切り分け思考が苦手らしい。だから、法的にそうそう簡単に認められない解雇も、社内会議ではあっさり通ったのだろう。このように、問題の切り分けができない上司がいると、まともな議論ができず労使間でコミュニケーション不全に陥り、若手の離職につながりやすい。

最後は、仕事の基本ともいえる「ホウレンソウ」についてだ。本来なら報告・連絡・相談を徹底すれば何事も起きないはずだが、これに上司の私利私欲が絡むとたいへん困ったことになる。

以下は、私が新卒入社でクビになったA社、その後転職するもクビになったB社それぞれと裁判で争った際のやりとりである。

■歪曲された報告で裁判を争うことに

A社「原告は営業成績が悪く、注意指導しても改善されず、よって解雇は合法である」

筆者「被告の注意指導には殴る、蹴るなどの身体的暴力が含まれており、適切でなかった」

A社「(社内調査した結果)胸元をつかむなど、若干、不適切な言動があったことは認める」


B社「原告は退勤後や休日に会社支給携帯が鳴った際、対応することを了承していたにもかかわらず対応を怠っていた。よって解雇は合法である」

筆者「そのような事実はない。主張を裏付ける証拠として、勤務時間外の労働を強いられる電話対応について問題提起を行った、上司宛てのメールのコピーがある」

B社「……」

2社の例から学べる最大の教訓は、組織内における情報伝達の難しさだ。大きな組織になればなるほど、労働問題の対応は現場ではなく総務部が主体となって対応することになるだろう。

ここで問題なのは、総務部は問題社員の問題行動を直接見たわけではないということだ。よって現場から上がってくる報告を基に総務部は判断を下すわけだが、私が知る限り、労働問題が起きるような企業は、社内ホウレンソウが正常に機能していない。それどころか、歪曲(わいきょく)された情報が出荷されている可能性が高い。

■その訴えが正確に伝わっているか確認すべき

想像してほしい。今、あなたは会議室で問題社員を指導するため向かい合っている。だが、何を言っても相手の心に響かず、ぬかに釘。あなたは苛立ちを覚え、思わず机をバンッと叩いてしまった。

写真=iStock.com/Viorika
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話し合い後、あなたは上長へ報告を入れる。結果、ダメ社員の解雇が決まった。めでたしめでたし、と思っていたのも束の間、どうやら会社が訴えられたらしい。きちんと注意指導は行っていたのかと、あなたはヒヤリングを受ける。さて、どう答えるか?

「机を叩きました」「威圧的な態度でした」などと正直に報告するサラリーマンは何人いるのだろうか。そもそも机を叩いたことすら覚えていないケースも考えられるだろう。対して労働者側は、すべての出来事が自分事だ。何が言いたいかというと、個人vs.組織の戦いにおいて、情報戦に分があるのは圧倒的に個人の側だ。そしてこの情報格差が敗因につながる。

企業側に打てる対策があるとすれば、重要な話し合いはボイスレコーダーで録音する癖をつけることだろうか。前回記事でも触れたが、話し合いに複数人を同席させるなどの手抜き対策は打ってはいけない。複数人が同席しようとそれが証拠にならないことを私は身をもって知っている。

極論、サラリーマンが大切にしているのは会社ではない。自分だ。自分の人生だ。それは指導する側の上司とて変わらない。会社に何か訴えたい事情があるとき、それが上司を通じて正確に届いているか、情報がどこかで改竄されていないかを確認することも重要だ。

■番外編「なぜか親に言いつけたがる」

以上の通り、一見ブラックとはわかりづらい企業の特徴を3つ挙げたが、最後に私が目の当たりにした、隠れブラック企業が本性を出す瞬間についてお話ししたい。

それは、私を不当解雇した2社ともに、親への連絡を脅しのように使ってきたことだった。

私に訴訟の意思があると知った会社役員は、私に無断で父に連絡をとり、父の単身赴任先までわざわざ会いにきた。そこで役員は、「会社としては解雇の判断に自信がある」「穏便に解決するよう息子さんへアドバイスしたほうが良いのではないか」と、約2時間にもおよぶ力説を行ったのだ。

実は、1社目でも「(私の勤務態度の悪さについて)親に電話するから父親の電話番号を教えろ」と社長に詰められたことがあった。実際に電話はかかってこなかったそうだが、どちらの会社も「親に言いつける」ことが問題社員に効果的だと勘違いしているようだった。

こういった小さな「認識のズレ」にアンテナを研ぎ澄まし、隠れブラック企業の見極めに活用してほしい。

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佐藤 大輝(さとう・だいき)
ブラック企業元社員
23歳の時、不当解雇されたブラック企業を訴え、20カ月間争った後、和解金700万円を獲得。29歳の時、不当解雇されたグレー企業を訴え、24カ月間争った後、和解金4000万円を獲得。神戸市在住の現在32歳。趣味は読書、バドミントン、海外渡航。これまでにバッグ一つで世界25カ国を旅した。ビジネス書と小説、どちらもベストセラー書籍を出版するのが夢。
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ブラック企業元社員 佐藤 大輝)