韓ドラ名物「半地下住宅」もまだマシ…ソウルのヤバすぎる住宅事情

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韓国の不動産価格の高騰が止まらず、持つ者と持たざる者の格差が広がっている。

庶民は単にマイホームが持てないだけでない。その影響は映画『パラサイト 半地下の家族』や韓国ドラマでおなじみの「半地下住宅」にまで及んでいるのだ。

全人口の約半分が集中する巨大都市ソウル。

韓国ではソウルで教育を受けることが不可欠と考えられている。また、地方からの出稼ぎ労働者も多い。そんな事情もあって何十年も前から首都圏では慢性的な住宅不足を抱えてきた。

問題なのは不動産投資が頻繁に行われる韓国で、住居用目的ではなく投機目的で不動産を購入する人が多いことだ。特にマンション価格の高騰は天井知らずで、日本円で6千万円だったマンションはこの数年で1億円を突破。高級住宅地の江南では一般的な84屬裡LDKが3億円にまで高騰した。

韓国政府は不動産価格を抑制しようと試みたが、政策はすべて失敗。不動産はもはや庶民には手の届かないものとなっている。

『パラサイト』の“半地下住宅”も決して安くはない

不動産価格の高騰は韓国の若い世代の生活にも直結している。

マイホームの購入どころか、収入は増えないのに住んでいる物件の家賃は上がる一方だ。大きな打撃にほかならない。

1970年代、韓国では住宅を建築する際には地下施設の設置が義務付けられていた。北朝鮮との戦争に備え、防空壕代わりとして利用できるからだ。建築法の改正により、その後は半地下の設置が義務ではなくなったが、80年代に入ってソウルに人口が急増すると、こうした半地下の部屋も居住用として使用されるようになった。環境は劣悪でも家賃が安く、需要は高かった。

地方からソウルに上京したとき、半地下の部屋に住んだという韓国人女性は当時のことを苦々しく思い出す。

「家賃は安いけれど日当たりは悪いし、湿気も多い。壁にカビも生えていました。大雨が降ると雨漏りもするし、プライバシーもない。思い出したくもないです」

やはり住み心地のいい空間ではなかったようだ。そんな半地下物件もソウル市内の再開発工事が進み、高層マンションが建設されるにつれて減少傾向にあるという。

「かつて家賃の安かった半地下物件も今は少しずつ値上がりしています。特にソウル市内やソウル近郊の半地下物件は以前ほど安くありません」(前出・韓国人女性)

『パラサイト』に出てくるような半地下住宅の家賃が安かったのも今は昔。不動産価格高騰のあおりを受けているようだ。

富裕層も貧困層も同じ「山」の上

映画『パラサイト』で金持ちのパク家の豪邸は高台にそびえ立っている。ここはソウルの高級住宅街・城北洞という街。富裕層が住む地域だとソウル郊外に住む韓国人女性は言う。

「ソウルには富裕層が住む『富村(プチョン)』が何箇所かあるのですが、城北洞もその一つ。富村の多くは山の上の高いところにあって車がないと生活できませんが、ここに豪邸を構える家は運転手付きの高級車で移動するので不便ではありません」

一方、こうした山の上に住むのは富裕層だけではない。車も通れないような細い道をひたすら登るしかない貧困層が住む地区もある。

「富村とは反対に、急斜面の山の上には細くて急な坂道を登るしかない貧困層の街もあります。ここは『タルトンネ(月の街)』といって、“月に届きそうなほど高くて不便なところ”を意味します」

「タルトンネ(月の街)」というとロマンチックな響きだが、なかには貧困層が無許可で作った街もあり、“スラム街”と呼ぶ人もいる。同じ高地帯の山でも富裕層と貧困層の階級が共存しているのはなんとも皮肉な話だが、もっとも顕著なのがソウルの高級住宅街である江南地区だ。外れにある九龍村という地区はソウル最大のタルトンネといわれており、無許可で建てたいわば違法建築にあたる家が建ち並んでいるのだ。

また、マンションの建設ラッシュが続くソウルでは、タルトンネ自体が再開発工事のため姿を消しつつある。かつてタルトンネはあまりに急斜面で高層マンションの建設に不向きといわれていたが、すでにそういったエリアにまで再開発工事が行われ、跡地には高層マンションが建ち並んでいる。

“屋根部屋”に住むぐらいなら郊外の物件がいい

韓国ドラマで「タルトンネ(月の街)」と同じぐらいよく登場するのが“屋根部屋”だ。過去には『屋根部屋のネコ』や『屋根部屋の皇太子』などドラマのタイトルにもなっていた。

そんな屋根部屋は建物の屋上に建てられており、20〜40屬曚匹良屋が多い。ドラマで貧困層が住む設定になっているように、場所によっては半地下住宅よりも家賃が安いといわれる。

リノベーションされたおしゃれな物件もあるが、過去には簡易的な造りの違法建築も多かったという。開放的な空間に見えて、意外と天井は低い。夏は暑く、冬は寒いというデメリットもある。大雨の被害も受けやすいので必ずしも住みやすい空間とはいえない。

だが家賃の安さは魅力的なようで、今も若い世代には人気がある。そのため家賃設定は今も安めだが、10年前と比べたらやはり値上がりしているようだ。

以前、ソウルの繁華街で働く独身女性の数人に住まいについて聞いてみたことがある。実家の援助を受けながら江南の高級マンションに住んでいる女性もいたが、大半がソウル市以外の物件で一人暮らししていた。

皆、一様に「ソウル市内はとにかく家賃が高い」と漏らし、「屋根部屋のような物件に住めるのは若いうちだけ」という声もあった。

近年、ソウルに隣接した地域にはニュータウンが建設され、20年前と比べて地下鉄やバスの路線が充実し、ソウル中心部へのアクセスは格段に便利になっている。そうした交通網の整備も影響してか、ソウル以外の市で部屋を探す人も少なくないようだ。

韓国格差社会を如実に物語る“世知辛い”不動産事情

一方、貧困層の若者は選択肢がない。彼らには安いコシテルが人気だという。

コシテルとは「考試院(コシウォン)+ホテル」のことで1坪(約2畳)程度の勉強部屋だ。元々は国家公務員試験を受験するための勉強部屋だったが、最近はそれ以外の若者や留学生も利用している。

部屋は通常のワンルームより圧倒的に狭く、ベッドと勉強机を置くスペースしかない。家賃は最安値でも、韓国では低所得者の象徴という見方をされていて、これもまた、映画やドラマでおなじみの物件だ。

一方で、韓国では芸能人の不動産購入がたびたび報じられるが、こうした不動産価格の高騰が背景にある。繁華街のビルは年々高騰し、価値は上がる一方。安定した不動産収入を得られる。

『愛の不時着』のヒョンビンとソン・イェジンも不動産オーナーになっており、『梨泰院クラス』のパク・ソジュンも1年前に日本円で10億円のビルを購入している。庶民にとっては夢のような話だろう。

持てる者はどんどん収入を増やし、持たざる者はさらに苦しい生活を強いられる。韓国ドラマや映画で見ている以上に韓国の不動産事情は世知辛い。

取材・文:児玉愛子
韓国コラムニスト 韓流エンタメ誌、ガイドブック等の企画、取材、執筆を行う韓国ウォッチャー。新聞や雑誌、Webサイトで韓国映画を紹介するほか、日韓関係についてのコラムを寄稿