「ねえ、B子さん、いったいどうなっちゃってるの?」

 Aさん(会社員)の携帯に、珍しく母親から電話がかかってきた。なにやら怒っている様子だ。

「この間、近くまで来たからちょっとお宅に寄ったの。そうしたら雰囲気がまるで違っているので驚いたわ。すごく肥ったみたいだし、化粧気もないし。それはいいんだけど、家がずいぶん汚れているじゃないの。ゴミ箱に弁当の空き容器がたくさん捨ててあったけど、きっと料理もしていないんでしょう。あんな様子じゃ、子育てだってちゃんとやってるのかどうか」

 いきなりまくしたてられ、どきまぎしてしまったAさん。「B子は今、ちょっと疲れているだけだよ」と弁解し、携帯を切った。――言われなくても、妻の様子がおかしいことはよくわかっている。ふさぎこんでいるかと思うと、突然泣き出したり、怒り出したり。恨みがましい口ぶりは、まるで自分と結婚したからこうなったといわんばかりだ。

 妻と一緒にいると、こちらまで気分がめいってくる。この頃では、週末がくるのが憂鬱でならない……。

 Aさんはまだ気づいていないが、B子さんはどうやらうつを発症しているようだ。

 妻のうつが夫たちを脅かしている――。中村心理療法研究室の中村伸一氏は、こう語る。

「女性のうつは、以前はほとんど問題にされることがありませんでした。うつの症状があっても、不定愁訴や神経衰弱、ヒステリー、抑うつ神経症などと診断されることが多かった。

 これは、昔のドイツ精神医学の考え方によるものです。かつては家計を支える男性の労働力低下が、女性のそれよりも重視されていた。だから、従来のドイツやわが国の精神医学者たちが、男性のうつに注目せざるを得なかったという背景があるのですね。

 しかし、アメリカ精神医学会が定めた、DSM(精神障害の診断と統計の手引き)という新しいし診断基準により、女性にもうつの症状があてはめられるようになりました。その結果、女性が一生の間にうつにかかる率は、男性の倍にまで跳ね上がったのです」

 女性は、じつは男性よりうつにかかりやすいのだ。

 夫のうつの原因が、おもに職場の問題であるのに対し、妻のうつの原因は、家庭問題やプライベートなことが多い、と中村氏。


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