【西脇 章太】イオンモール熊本は「地震保険」だけでは再建できない?100億円の補償に「年1.3億円」の保険料を払っても…
7月28日午後4時27分、熊本県で最大震度7を観測する地震が発生した。
嘉島町のイオンモール熊本では、天井や外壁の一部が落下。来館客らの屋外避難が確認された約50分後、2階後方で爆発が起きた。イオンの発表によると、これまでに7人の死亡が確認されている。施設は営業を休止した。
イオンモール熊本のような大型商業施設を、再び営業できる状態へ戻すには、どれほどの費用が必要なのか? 大手企業の施設なら、手厚い保険に入っており、再建費用の相当部分を賄えるはず。そう考える人もいるかもしれない。
企業が地震に備える保険は、私たちが自宅にかける地震保険とは仕組みが違う。加入できたとしても、建物を元通りにする費用が、そのまま支払われるわけではないのだ。
大企業でも断られる?「地震保険」の現実
住宅向けの地震保険は、政府と民間の損害保険会社が共同で運営している。火災保険とセットで加入し、保険金額は火災保険の30〜50%の範囲で設定する仕組みだ。対象は居住用の建物と家財に限られる。
商業施設や工場、倉庫、事務所は、この制度を利用できない。企業が地震に備えるには、火災保険に地震補償を加えるなど、保険会社と個別に契約する必要がある。法人向け損害保険に詳しい片山美典氏は、その入口から住宅用とは大きく異なると話す。
「企業向けの場合、地域や建物の構造、規模などを見たうえで、保険会社が引き受けるかどうかを個別に判断します。日本は地震が多く、海外の再保険会社にもリスクを引き受けてもらいにくい。国内の保険会社が自社で抱えることになるため、取り扱っている会社自体が少ないんです」(片山氏、以下「」も)
片山氏によれば、現在も引き受けに応じる会社としてAIG損保などが挙げられる。ただし、地震の危険が高い地域にある物件だけを選び、そこだけに補償を付けるのは難しい。
保険会社から見れば、被害が発生しやすい契約ばかりを抱えることになる。複数の施設を所有している企業には、「一部だけではなく、全体で契約してほしい」と求めるケースもあるそうだ。
100億円の地震補償に、年間1億3000万円の試算
引受先が見つかっても、次に保険料の問題が出てくる。片山氏は、企業向け地震補償の保険料は、建物の規模や構造、所在地、補償額などによって大きく変わると説明する。
「一般的な鉄骨造のスーパーマーケットで、建物価格を5億円とした場合、年間保険料は650万円ほどになるという試算もあります。ただし、イオンモールのような大型施設は条件が複雑で、単純に同じ料率を当てはめることはできません」
イオンモール熊本の延床面積は、約3万6300坪に及ぶ。仮に1坪当たりの建設費を70万円とすると、総工費はおよそ250億円となる。これに対し、100億円分の地震補償を付けた場合、年間保険料は約1億3000万円になるとの試算だ。
もちろん、実際の保険料は建物の耐震性能や立地、免責金額、支払い限度額などによって変わる。あくまで施設の規模を踏まえた概算であり、実際の契約内容を示すものではない。
それだけ高額な保険料を払っても、損害の全額が補償されるとは限らない。損害額の一定割合を支払う形や、受け取れる金額の上限を決める形が多いからだ。
仮に修理費が50億円に達し、損害額の40%を補償する契約なら、計算上の保険金は20億円となる。さらに「支払いは最大10億円まで」と定められていれば、受け取れるのは10億円が限度だ。
毎年、高額な保険料を払い続けても、事故後に必要となる資金の一部しか確保できない。経営者からすれば、費用対効果を考えざるを得ないだろう。どこまで保険に任せ、どこから自社で抱えるのか。地震への備えは、安心を買えば終わるほど単純ではない。
イオンモールは2026年7月時点で、国内163、海外40の計203施設を展開している。ただし、イオンモール熊本の試算を、ほかの施設へそのまま当てはめることはできない。施設によって延床面積や建物価格、構造、立地条件が大きく異なるためだ。
イオンモールは、運営する全モールを対象に、地震・津波による損害を補償する地震保険を手配していると公表している。ただし、イオンモール熊本に設定された補償額や支払い上限など、個別の契約内容までは明らかにされていない。
「今回、地震補償を付けていたとしても、被害額をすべて賄える内容だったとは考えにくいです。大きな施設は全体が一度に壊れる可能性が低いため、一定割合や限度額を決めて加入するケースが多い。地震のあとに爆発まで起きる事態を、どこまで想定していたかはわかりません」
今回は揺れによる損傷に加え、避難後に爆発が発生した。片山氏が「かなり運の悪いできごとが重なった」と語るのも、このためである。
イオンが再建を急がざるを得ない理由
補償が十分でなくても、イオンモール熊本は再建に向かう可能性が高いと片山氏はみる。イオンモールは小売施設である一方、専門店から得る賃料収入が事業の大きな柱だからだ。
「営業できない期間が長引けば、賃料収入が止まり、テナントが離れる恐れもあります。保険金でどこまで賄えるかにかかわらず、早期に再建することがイオンにとって重要だと思います」
復旧の際、イオン側が各店舗の内装まですべて直すとは限らない。まず躯体や外壁、共用部分を修復し、スケルトンの状態で引き渡した後、内装は各テナントが整える形も考えられる。
今回は地震の揺れに爆発が重なった。鉄骨までゆがんでいれば、損傷した箇所を交換するだけでは済まず、建物の状態を調べ、修理範囲を決める作業にも時間と費用がかかる。
工事の前には、崩れた外壁や設備、内装材の撤去も必要になる。片山氏が修理費以上に膨らむ恐れがあると指摘するのが、この「がれき撤去費用」だ。
イオンモール熊本の延床面積約3万6300坪に、鉄骨造建物の解体費用の相場とされる1坪当たり5万〜8万円を当てはめると、解体費だけで約18億〜29億円となる。さらに、館内のがれき処理や分別、清掃などを含めれば、総額は50億円程度まで膨らむ可能性がある。
後編『イオンモール熊本は建て直すより「片付け」のほうが高い?「がれき撤去・清掃」で50億円もあり得る理由』で詳しく見ていく。

