47歳男性「何を話しかけても、妻は返事をしてくれない…」帰宅後はスマホ、家事は「言ってくれればやる」――妻が会話を諦めた理由
夫婦のすれ違いは、大きな喧嘩からだけで生じるものではありません。話しかけても上の空だった、頼み事を後回しにされたなど、小さな失望が積み重なり、片方が会話そのものを諦めることもあります。気づいたときには、同じ家に暮らしながら心の距離が大きく開いているケースもあるようです。
「最近、妻が何を話しかけても無視するんです」
祐介さん(仮名・47歳)は、妻の美香さん(仮名・45歳)、高校生の長女、中学生の長男と暮らす会社員です。営業部の課長代理として働き、帰宅は平日の午後9時を過ぎることも珍しくありませんでした。
美香さんは週5日のパート勤務をしながら、食事づくりや洗濯、学校関係の手続きなどを担っていました。祐介さんは、自分なりに家族を支えてきたつもりでした。
「仕事で疲れているけど、休日には家にいる。頼まれればゴミ出しや買い物だってしていました」
しかし、ある時期から美香さんの態度が変わりました。祐介さんが帰宅して「ただいま」と言っても、短くうなずくだけ。休日に話しかけても、「今は忙しいから」と会話を切り上げられます。
「最近、俺が何を話しかけても無視するよね」
祐介さんが尋ねると、美香さんは淡々と答えました。
「私もずっと、同じ気持ちだったから」
祐介さんには、その意味がわかりませんでした。
美香さんによれば、以前から家事や子どものことを相談しても、祐介さんはスマートフォンを見ながら「あとで聞く」と返すことが多かったといいます。
「来月、長女の進路面談があるんだけど」
「今ちょっと疲れてる。あとでいい?」
「お義母さんの通院、次はあなたにも付き添ってほしい」
「日程が決まったら言って」
話を聞いていないつもりはありませんでした。しかし後日になっても祐介さんから尋ねることはなく、結局、美香さんが一人で対応していました。
家事についても、祐介さんは「言ってくれればやる」と考えていました。しかし美香さんにとっては、何を頼むか考え、手順を説明し、終わったか確認することまでが新たな負担でした。
「私が頼まなければ、何もしなくていいと思っていたでしょう」
「そんなつもりはないよ」
「でも、実際にそうだったよね」
内閣府『令和7年版男女共同参画白書』では、6歳未満の子どもがいる夫婦について、すべての都道府県で妻の家事関連時間が夫より210分以上長いことが示されています。祐介さん夫婦も、子どもが幼い頃から家事や育児の多くを美香さんが担う状態が続いていました。
「忙しいから仕方がない」と思っていた祐介さんの陰で、美香さんは何度も話し合おうとしていました。そして、何を言っても変わらないと感じ、少しずつ話すことをやめたのです。
妻の沈黙は、突然始まったものではなかった
祐介さんが深刻さに気づいたのは、長女の進路希望を学校からの書類で初めて知ったときでした。
「県外の大学を考えていたのか?」
長女に聞くと、美香さんが言いました。
「その話、前にもしたよ」
「聞いてない」
「あなたがスマホを見ながら『あとで』って言ったの」
祐介さんは反論できませんでした。自分が覚えていないだけで、美香さんは確かに伝えていたのでしょう。
さらに、美香さんが家計や子どもの予定をまとめたノートを作り、一人で決めたことを記録していると知りました。
「どうして相談してくれなかったんだ」
「相談しても結局、私が決めることになるから。最初から一人で考えたほうが楽なの」
祐介さんはここで初めて、妻の沈黙が自分を困らせるための行為ではなく、失望を繰り返さないための防御だったと気づきました。
美香さんは「このまま子どもが独立したあと、二人だけで暮らせる自信がない」と打ち明けました。
祐介さんは、すぐに「これから手伝う」と約束しかけました。しかし、美香さんから「手伝うという言い方がすでに違う」と指摘されました。家事や子育ては妻の仕事で、自分は補助する側だという意識が表れていたからです。
そこで夫婦は、まず生活上の役割をすべて書き出しました。食事や掃除だけでなく、学校からの連絡確認、日用品の在庫管理、家族の予定調整、親の通院など、目に見えにくい作業も含めて分担します。
祐介さんは、毎週の買い物と夕食づくりを一部担当し、長女の進学費用についても自分で資料を確認することにしました。会話の際にはスマートフォンを置き、その場で対応できない場合は、いつ話すかを具体的に決めました。
すぐに以前の関係に戻ったわけではありません。美香さんは、祐介さんが数週間行動を変えただけで「もう変わった」と判断することにも警戒していました。
それでもある夜、祐介さんが長女の進学先について調べた内容を話すと、美香さんは久しぶりに自分の考えを返してくれました。
夫婦の会話が途絶える背景には、「言っても聞いてもらえない」という長年の諦めが隠れていることがあります。沈黙を責める前に、相手が話すことをやめた経緯を振り返ることが必要です。
関係を立て直すには、謝罪や一時的な家事参加だけでなく、家庭を一緒に運営する姿勢を行動で示し続けることが欠かせないのかもしれません。

