食料品消費税1%案…経済界が反対する本当の理由 減税より先に見直すべき「1億円の壁」
OBSラジオ番組「加藤秀樹が語る、日本の未来構想」にて、構想日本の加藤秀樹代表が、自民党内でまとまったとされる「食料品の消費税を1%にする案」について、その背景や問題点をわかりやすく解説しました。
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経済界や学者が反対
個人にとっては一見、喜ばしいニュースに思える一方で、経済界や一部の政治家からは反対の声が上がっています。そこには、経済全体への影響や消費税導入の歴史、そして政治的な手続きの問題が複雑に絡み合っています。
食料品の消費税が1%に引き下げられれば、私たち消費者にとってはその分税金が安くなり、歓迎すべきと感じます。しかし、ほとんどの経済学者や経済界では反対の声が大きく、加藤氏によれば、その最大の理由は「経済全体への悪影響」だといいます。
「減税によって財政がさらに悪化する」と金融市場が受け止めれば、長期金利が上昇します。莫大な借金を抱える日本にとって、国債の金利払い(利払い費)が増加することは、財政負担がさらに増え、それが日本の財政に対する不信感につながると、致命傷になり得るのです。
また、為替市場への影響もすでに出始めており、この案が発表されてから為替は1ドル=160円から162円程度へと円安が進行しました。これも不信感の現れの一つです。また、このまま円安が進めば輸入物価がさらに上昇します。
経済学者は「減税は財政刺激策であり、インフレを加速するもの」と指摘しています。結果的に個人にとってもマイナスになる可能性が高いというのが反対論の根拠です。
野党の反発と「手続き」への疑問
この減税案は、自民党の税制調査会で議論され、決定したと報道されています。しかし、税制調査会の小野寺会長が高市総理の側近と言われる一方で、小渕優子副会長が案に反対して辞任する意向を示したとも報じられており、党内でも意見が大きく割れています。
さらに、野党もこの動きに強く反発しています。2月の選挙では野党も消費税減税を主張していたにもかかわらず、今回の案に反対しているのは、減税そのものよりも「手続き」に問題があるためです。
高市政権は選挙後、「国民会議」を開いて国民的な議論を行うとしていました。そして、主な野党も参加して実務レベルの会合が開かれたのですが、そこでの議論を反映せず、自民党の税制調査会が独自に案をまとめて提示したのです。
野党からすれば、次のような不満や不信感につながるのも無理はありません。
・「他人の意見に耳を貸さず、政府の政治日程都合で出してきたのはおかしい」
・「野党と真摯に協議するという首相の言葉は嘘だったのではないか」
自民党の「悲願」だった消費税の歴史
高市総理は消費税引き下げを自らの「悲願」と語っていますが、1月頃までは「レジのシステムを変えないといけないため、大変で時間もかかる」と否定的な姿勢を見せていました。
加藤氏は、歴史を振り返れば、むしろ消費税の「導入や引き上げ」は、自民党全体の「悲願」であったと指摘します。
消費税をめぐる大きな節目を振り返ると、いくつかの転換点が見えてきます。
1979年に大平正義内閣が初めて「一般消費税」の導入を打ち出しましたが、選挙中に撤回を余儀なくされました。それから10年の時を経て1989年、竹下登内閣で初めて3%の消費税が導入されました。竹下首相は「自分の名前が歴史に残るとすれば、消費税を導入した総理としてだろう」と語るほど、強い思い入れを持っていました。
かつての高度経済成長期は、新税率を導入しなくても所得税や法人税の税収が毎年増え、田中角栄内閣の「日本列島改造」のような大規模な政策が可能でした。しかし、経済成長率が徐々に下がり、1989年には合計特殊出生率が1.57となる「1.57ショック」が発生します。高齢化が進み、社会保障費が増大する一方で税収が減る中、安定的な財源を確保するために消費税が導入されたという背景があります。
その後、1997年に税率が5%に引き上げられ、民主党政権時代には自民党・公明党との「三党合意」により、福祉や年金、生活保護などの社会保障に使うことを目的に8%、さらに10%への引き上げが決まりました。
安倍政権下では4年間、2回の選挙での延期を経て、2019年にようやく現在の10%になったのです。40年もの苦労の末に築き上げてきた税制だからこそ、食料品の税率を下げることに対して、自民党内からも異論が出るのは自然な流れと言えます。
減税の恩恵は本当に庶民に届くのか
海外に目を向けると、ヨーロッパなどでは消費税(付加価値税)率が20%から25%程度と、日本より高く設定されています。それは、日本と違い国の借金を大きくすべきではないという強い意識が各国そしてEUにあり、財源をきちんと確保するためです。
一方で、例えばイギリスでは、肉や野菜などの食料品を「ゼロ税率(非課税)」にして生活費を抑える工夫をしていますが、食料品といっても「対象の線引き」が非常に難しいという課題を抱えています。これまでケーキはどうする、ビスケットはどうする、といった議論が行われた経緯があるのです。
今回、食料品の消費税を引き下げた場合、金額(実額)ベースで見ると富裕層の方がより多くの恩恵を受けやすいという点も指摘されています。
比率(エンゲル係数)で見れば、確かに低所得者の方が「収入に対する食費の割合」は大きいものの、実際の金額ベースで見たときに、この減税が本当に庶民を効果的に助けることになるのかは疑問が残ります。
次なる議論「1億円の壁」
加藤氏は、「庶民のことを本当に考えるのなら、国民すべてに対する“バラマキ的”な減税を議論する前に、例えば『1億円の壁』など富裕層に対する課税を見直す必要がある」と言及しました。
年間所得が1億円を超えるような富裕層は、莫大な金融資産を持っており、給与ではなく、株の売買益や配当からの収入が大きい。給与所得には累進課税が適用され、最高45%程度の所得税がかかりますが、株による収入にかかる税率は一律で約20%(源泉分離課税)となっています。
そのため、結果的に「1億円を超えるようなお金持ちほど税金の負担率が低くなっている」という不公平な逆転現象が起きているのです。
消費税の引き下げという個人の目先の恩恵だけに一喜一憂するのではなく、こうした税制全体の不公平さも含め、経済や財政全体がどう動き、それが自分にどうはね返ってくるかをしっかりと見据えて考えることが今、私たちに求められています。
