繊細で可憐な佇まい フレイザー・ナッシュBMW 319(2) シャシー性能を最大限に引き出す動力源 快適さの中で叶えた敏捷性
1年弱をかけてリビルドされた直6エンジン
2023年に、ジェレミー・ギブソン氏は父のフレイザー・ナッシュBMW 319を再び捜索し始める。「偶然、インターネットでスコットランドのヒルクライム・レースを走る写真を目にしたんです」
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デニス・ジェンキンソン氏が記したAFN社の歴史書が、彼の思いを強めることに繋がった。その中には、前オーナーのヴォルフガング・シュルンダー氏の訃報と、親族の住所が載っていた。319はその1人、ヴォルフガング・クリンケ氏が受け継いでいた。

フレイザー・ナッシュBMW 319(1936年式/英国仕様) ジャック・ハリソン(Jack Harrison)
彼は直ぐに連絡を取り、購入したい旨を伝達。ASC 131のナンバーを下げた319は、2024年4月にグレートブリテン島へ再上陸を果たした。同年8月には、ビンテージカーのイベントで、BMWヒストリック・モータークラブのブースに展示されている。
ところが、その帰路でエンジンブロー。専門家のサイモン・ブレイクニー・エドワーズ氏を頼り、1年弱をかけてリビルドされた。
繊細で可憐な趣がある319の佇まい
今回の取材に当たり、筆者がギブソンと待ち合わせしたのは、グレートブリテン島南西部に位置するチェダー渓谷。この近くのガレージに、保管されているのだという。あいにく朝は氷点下へ冷え込んでいたが、微塵も嫌がらずに運転して来ていただいた。
谷間に佇む319は、実に美しい。BMW 328も美しいが、繊細で可憐な趣がある。

フレイザー・ナッシュBMW 319(1936年式/英国仕様) ジャック・ハリソン(Jack Harrison)
オリジナルと違う部分は2つあり、1つ目はボルボ・アマゾン用のMTへ換装されていること。戦前のモデルでは珍しくないアップグレードで、ダブルクラッチを踏まずに素早く変速できる。オリジナルのMTは保管され、簡単に戻せるという。
2つ目は、ソレックス・キャブレターがトリプルではなくツインなこと。3基並んでいた方が最高出力は僅かに高まるが、調整は難しくなる。1.9L直列6気筒エンジンは好調に回り、2基でもオリジナルの55ps以上の馬力が出ているそうだ。
特別な慣れも必要なく普通に運転できる
運転席へ身体を収めると、身長190cmでも望ましい運転姿勢を取れることに感心する。「好きなだけ乗って構いませんよ。耳で聞いて必要な時に変速して、思い切り楽しんでください」と、ギブソンが寛大に話す。
ダッシュボードのレイアウトは、戦前と思えないほど現代的。ヴェイゲル社製のタコメーターは5000rpm、スピードメーターは時速100マイル(約161km/h)まで振られている。燃料と油圧、水温も確認しやすい。

フレイザー・ナッシュBMW 319(1936年式/英国仕様) ジャック・ハリソン(Jack Harrison)
キーを回し、スターターのボタンを押せば、直6エンジンは即座に始動。予想より低いサウンドが、鼓膜を震わせる。90年前のモデルでありながら、特別な慣れも必要なく、普通に運転できる。これは、実はかなり稀有なことだ。
シャシーの性能を最大限に引き出す動力源
1kmも走れば、ストロークの長いシフトレバーの感触が馴染む。ギア比も丁度良い。前後ドラムのブレーキは、頼もしくスピードを落としてくれる。
渓谷を縫うように伸びる道を、しばらく気張らず走らせる。小さな排気量にも関わらず、低域からトルクが太い。乗り心地も見事でしかない。ステアリングは言葉を失うほど正確で、フィーリング豊か。1936年当時、20年は先取りした仕上がりだったはず。

フレイザー・ナッシュBMW 319(1936年式/英国仕様) ジャック・ハリソン(Jack Harrison)
1930年代末の、ダービー時代のベントレーも流暢だが、319ほど正確ではなかったと記憶している。そんな感触を堪能しつつ、折り返し地点でペースアップ。回転数を引っ張ると、抑えられていた咆哮が放たれる。馬力は限られても、予想より遥かに速い。
それでいて、エンジンは脇役。シャシーの性能を、最大限に引き出す動力源に徹している。カーブへ飛び込めば、頂点を目掛けてフロントノーズは鋭く反応し、アクセルペダルの加減でラインを調整できる。
極めて快適な運転体験で叶えた敏捷性
同時期の英国製スポーツカー、MGやアストン マーティン、オリジナルのフレイザー・ナッシュも、同等に敏捷だったかもしれない。しかし319は、極めて快適な運転体験の中でそれを叶えている。このクルマの評価が不当に低いと実感する、事実だろう。
クラシックカーへ詳しい人へ、戦前のBMWの傑作を聞いたなら、328を挙げるはず。恐らく、唯一の存在であるように。しかし、それが誕生するまでには相応の理由があった。319の運転は、忘れてはならない影の存在へ気付かせる、貴重な時間だった。

フレイザー・ナッシュBMW 319(1936年式/英国仕様) ジャック・ハリソン(Jack Harrison)

