【マクロ経済・投資環境2026年7月】待機資金8兆ドルと設備投資需要、このリスクオン環境は続くか?

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米国企業の業績は堅調

足元の米国株式市場では、高値圏にありながらも底堅い推移が続いています。その背景にあるのは、米国企業の業績見通しの強さです。Bloomberg集計によるS&P500のEPS見通しでは、2026年は年初時点で15%程度の増益が見込まれていましたが、足元では25%前後まで上方修正されています。2027年見通しも現在前年比15%程度と良好です。

この業績拡大を支えているのが、AI、半導体、データセンターを中心とした設備投資需要です。投資需要はITセクターに偏っていますが、その恩恵は半導体やクラウド関連にとどまらず、電力インフラ、建設機械、産業機械、空調設備などにも広がっています。

リスク資産はまだリスク視されていない

資金調達環境も良好です。株式市場では大型IPOや増資が相次いでいますが、それらを吸収して株価は高値圏で推移にしています。社債市場でも発行はテクノロジー企業中心に旺盛です。2026年はすでにここ半年で、これまでの年平均に匹敵する2兆ドル規模の発行が示されています。

一方で、信用スプレッドは低水準を維持しています。OECD(経済協力開発機構)も、企業の借入が過去最高水準に達する中、投資適格・非投資適格を問わず信用スプレッドは歴史的な低水準近辺にあると指摘しています。つまり、株式市場でも債券市場でも、投資家は企業部門のリスクを大きく警戒している状況ではありません。

【図表1】クレジットスプレッドの推移 出所:Bloomberg

加えて、待機資金も潤沢です。米国のMMF残高は現在8兆ドル近傍の高水準にあります。MMF残高はGDP比で約25%程度と、経済規模に対しても現金性資金はなお厚いと言えるでしょう。旺盛な資金需要に応えられる環境があります。

【図表2】MMF残高(対名目GDP、%) 出所:Bloomberg

ウォーシュFRBのレジームチェンジ

金融政策では、ウォーシュ新FRB(米連邦準備制度理事会)議長の下で新体制が始動しました。6月FOMC(米連邦公開市場委員会)では政策金利が据え置かれた一方、年内1回の利上げが想定されました。また、FRBの業務運営を見直すため、バランスシート、対外コミュニケーション、データソース、生産性と雇用、インフレ目標の枠組みを対象とする5つの作業部会が設置されました。

今後どのような政策変更がなされるかは注目ですが、まず明確になったのは、インフレ抑制を重視する姿勢です。これは短期金利には上昇圧力となりやすい一方、インフレ期待の抑制を通じて長期金利には低下圧力となる可能性があります。

市場にとっては、金融政策の先行きが読みづらくなる面はあるものの、物価安定への信認が維持されれば、長期金利の過度な上昇を抑える要因にもなります。FOMC直後の反応としても短期金利上昇の一方で、長期金利は低下で反応しました。

BISが指摘するリスク要因は?

もっとも、リスクオン環境が続く中でも、注意すべき点はあります。BIS(国際決済銀行)は2026年の年次経済報告で、AIブームの持続性、金融面の脆弱性、財政悪化、インフレ再燃を主要なリスクとして挙げています。特にAIについては、生産性向上への期待が大きい一方、供給制約や過当競争が設備投資の過熱を招く可能性、資金調達がレバレッジを伴って複雑化している点などを指摘しています。

たとえば、2026年は韓国株の上昇が顕著です。超大型半導体銘柄をけん引役に、韓国総合株価指数、KOSPIは大幅な上昇基調にあります。一方で、KOSPI200ボラティリティ指数は2008年の金融危機時を超える90超の水準まで上昇しており、年率90%程度と、日次では1標準偏差で5%台の値動きが意識されるほど、変動率も高まっています。

【図表3】韓国株指数とボラティリティの推移 出所:Bloomberg

背景には、AI関連株への期待だけでなく、レバレッジ型ETFや証拠金取引など需給面の影響もあります。その点では流動性の逆流が起きたときのリスク、他市場への波及は要注意でしょう。

好環境が続く中、金融環境の引き締まりに注目

総じてみれば、米国経済と企業業績はなお堅調です。AI・データセンター投資は一部セクターに偏りつつも、電力、資本財、建設機械など周辺分野へ波及しています。資金調達環境も良好で、株式市場、社債市場ともにリスクを大きく織り込んでいる状況ではありません。潤沢な待機資金も、相場の下支え要因となり得ます。短期的なリスク要因は指摘できるものの、リスクオンの投資環境が続く可能性があります。

もっとも、歴史的には、相場は金融引き締めの局面で調整を強いられてきました。短期的には資金フローの逆流に注意しつつ、企業業績と投資需要の強さを評価、中期的にはクレジット環境の継続性や金融引き締めの影響、AI投資の持続性、財政リスクを頭の片隅に置いておきたい局面です。

【図表4】米国株と政策金利、長短金利差の長期推移 ※断続的な利上げとなれば、株式市場では金融環境の引き締まりが警戒され、過去においては利上げ後にピークを打ってきた。なお、債券市場では、長期債には買い需要がみられることで長短金利差はフラット化してきた出所:Bloomberg

塚本 憲弘 マネックス証券 インベストメント・ストラテジーズ兼マネックス・ユニバーシティ シニアフェロー