日清食品「どん兵衛」が半世紀経っても売れ続ける理由…カップ麺研究家の結論は「安さで勝負する時代に”終止符”を」

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成熟市場で成長を続けるにはどうすればいいか? 答えは『捨てること』にある。

インフレによる原材料高騰、人口減少、成熟市場――。食品業界を取り巻く環境は厳しさを増している。こうした時代に企業が成長を続けるためには、価格競争に巻き込まれないブランド力と、顧客に「多少高くても選びたい」と思わせる付加価値が欠かせない。

その好例が日清食品だ。

提供しているのは日本人の「味覚の原風景」

1958年(昭和33年)8月25日、創業者の安藤百福氏は世界初とされているインスタントラーメン「チキンラーメン」を発売し、お湯を注ぐだけで食べられる革新的な手軽さから“魔法のラーメン”と呼ばれ、日本中で爆発的な大ヒットを記録した。

また、1971年(昭和46年)9月18日に世界初のカップラーメン「カップヌードル」を世に送り出している。今では世界100ヵ国以上で商品を展開し、日本のインスタント麺市場におけるグローバルリーダーとしての地位を確立した。

しかし、同社の真価は「新しい市場を創造する力」だけではない。一度築き上げたブランドを、半世紀近くにわたって育て続けるブランドマネジメント能力にある。

その代表格のひとつとして、1976年(昭和51年)8月9日の発売以来、多くのユーザーに愛され続けている「どん兵衛」の魅力を語らないわけにはいかないだろう。

今年で発売50周年を迎える記念すべき現在、このブランドが和風カップ麺市場を代表する存在であり続ける理由は、日本の食文化を支えている「うどん」や「そば」を題材にしているからではない。

どん兵衛が提供しているのは、日本人が大切にしてきた「味覚の原風景」だ。

価格競争から脱却し、付加価値の勝負へ

今でこそ顧客ごとのニーズに合わせる「パーソナライゼーション」や「ローカライズ戦略」が当たり前になっているが、このブランドは半世紀も前からそれを実践している。

関東向けには濃口醤油と鰹をメインに効かせたつゆ。関西向けには昆布だしを重視した淡口醤油仕立てのつゆ。全国で一律の味を提供するのではなく、それぞれの地域の人々が慣れ親しんだ味覚に配慮し、原材料の配合を変える戦略は当時としては画期的だった。

もちろん、これは単なる味の違いを解説しているわけではない。地域文化そのものを商品設計に落とし込んだ事例であり、現代のマーケティング用語でいえば顧客体験価値(CX)の先駆けといえる。

さらに、近年の日清食品は「最強どん兵衛」シリーズをはじめ、高価格帯商品の開発にも積極的だ。

すっかり成熟した現在の市場では、安さだけで利益率を維持することが難しい。だからこそ、世間一般の声として挙げられることが多い“しょせんカップ麺”という安物イメージを逆手に取るような「プレミアム戦略」が重要視されているのだ。

安さで勝負する価格競争から脱却し、ブランドエクイティ(ブランド資産)を武器に付加価値で勝負する。日清食品はその代表例だ。

その思想をさらに突き詰め、研ぎ澄ました商品が登場した。「日清のどん兵衛 鰹だしの極みうどん」と「日清のどん兵衛 鰹だしの極みそば」である。

「カップ麺の象徴」すら容赦なく省き…

パッケージには“だしにこだわりすぎて、具材なくなっちゃいました”などと、極めて大胆なコピーが踊る。カップ麺研究家である筆者の視点から見ると、これは日清食品だからこそ許される戦略的な“軽さ”の演出だが、通常の製品開発の現場ではまず通らない判断だ。

カップ麺において、大きなお揚げやサクサクの天ぷらは、満足感を飛躍的に高め、袋麺との差別化を図る上でも最大の武器となる。しかし、日清食品はあえてその逆を選んだ。カップ麺の象徴ともいえる具材を容赦なく省き、そのリソースを“だし”に全振りしたのだ。

通常の「どん兵衛」と比較して“だしに3倍以上のコスト”を投じ、液体つゆの臨場感を極限まで高めつつ、別添の「特製鰹粉」と「追い鰹節」を重ねることで香りのレイヤーを構築した本商品。

業界のディファクトスタンダードが豪華な具材やボリューム感による「足し算」の開発であるのに対し、同社が下した決断は真逆の「引き算」。これこそが現代のビジネス戦略における「選択と集中」の体現だ。

不要なものを削ぎ落とし、顧客が本当に求める本質的な価値だけに経営資源を全振りする。これは単なる製品開発の域を超え、成熟市場で成長を続けるための「ミニマリズム経営」の極致といえる。

そして、実際に食べてみると、その狙いがよく分かった。【後編記事】『なぜ日清食品はどん兵衛の“具材を捨てる”道を選んだのか…カップ麺のタブーすら恐れないチャレンジの「勝算」』へつづく。

【つづきを読む】なぜ日清食品はどん兵衛の”具材を捨てる”道を選んだのか…カップ麺のタブーすら恐れないチャレンジの「勝算」