コスモキュランダがもたらせた加藤士津八厩舎の厩舎力 一頭の馬が調教師を育てる 大舞台で残した結果が大きな自信に
野球の世界で、ベテラン捕手が若手投手を引っ張って育てるという話はよく聞く。それは捕手というポジションがフィールド場の指揮官と言われるような立場であるからである。逆にエースが若手捕手を育てるという場合もある。有名な話で言えば、ダイエー時代の工藤公康投手と城島健司捕手の関係だろうか。競馬でも同じ。調教師はいわば厩舎のトップで指揮官。馬を管理して、育てることが仕事。だが時に、一頭の馬が調教師を育てることもある。加藤士津八調教師(41)=美浦=にとって、コスモキュランダはまさにそんな存在なのだろう。
24年の弥生賞ディープ記念で重賞初制覇を果たすと、その勢いのまま皐月賞では2着。昨年の有馬記念では12番人気の低評価を覆して2着。今年の宝塚記念では逃げの手を打ち4着だったが、ファンの記憶に残るレースを披露した。その歩みは、そのまま加藤士厩舎が一段ずつ階段を上がってきた軌跡と重なる。
師は「どの馬も同じように接している」と語る。ただ、この馬がもたらした経験値は計り知れない。「最初の頃はG1に出るだけで舞い上がっていましたね。でも今は、この馬が僕に余裕を持たせてくれた」。この一言には、数字だけは測りしれない、経験と成長が詰まっている。
もちろん、その成長は偶然ではない。開業当初から調教方法だけでなく、飼料も、仕上げ方も毎年見直してきた。獣医師やスタッフと話し合い「去年と同じ」を良しとしない姿勢を貫く。そして何より大きいのは、厩舎全体の成長だろう。以前は季節の変化に合わせた調整も、師が指示を出して初めて動いていた。しかし今では「もうやっていますよ」とスタッフが先回りして対応する。指示を待つ集団から、自ら考えて動くチームへ。そこに、コスモキュランダが大舞台で結果を残したことで「自分たちのやってきたことは間違っていなかった」という確信が生まれ、その自信が厩舎全体を押し上げている。
分かりやすい数字面で見ても、28日終了時点で19勝。調教師リーディングで15位。昨年の勝利数にはすでに並んでおり、24年にマークしたキャリアハイ21勝を超えるのは時間の問題だろう。要因については「単純に馬質が上がっていますね」と明かすが、馬質は勝手に上がっていくものではない。結果を残し、信頼されている証拠である。「レース選択はギリギリまでやっていますね。3場開催なら全てを比較し、その馬が最も勝てる舞台を探し続けています」。勝ちに対する執念とまで言える姿には、結果を残さないといけない世界に生きる勝負師としての覚悟が見える。
今週日曜の7月5日函館5R(芝1800メートル)には、世界からも注目されているショウナンガレオンがスタンバイ。父フライトラインは6戦6勝と無敗のまま現役生活を終えた名馬である。そんな素質馬をどのように育てていくのか。まだ完成形ではない。トップステーブルへの序章を歩む加藤士津八厩舎のさらなる活躍から、目が離せない。(デイリースポーツ・斎藤諒)

