スポニチ

写真拡大

 人生を変えるきっかけは、案外たった一言だったりする。Next☆Ricoの冬崎なずなにとって、それは友人から掛けられた「やっちゃえばいいんじゃない?」だった。幼い頃から抱いていた夢は、なぜ現実になったのか。3部作で届けるインタビュー最終回では、その原点と人生を支える言葉に迫る。(「推し面」取材班)

 アイドルになりたかった。女優にもなりたかった。どちらも幼い頃から抱いていた夢だったという。ただ、その夢を追いかける勇気はなかなか持てなかった。なれるか分からない。挑戦して傷つくのも怖い。憧れと現実の間で立ち止まる時間は思ったより長かった。

 「自分には無理だろうなって思っていました」

 振り返る声は穏やかだった。しかし、その一言の奥には、何度も飲み込んできた迷いがにじんでいた。夢はずっとそこにあった。それでも、自分がその場所に立つ姿だけは想像できなかった。

 転機になったのは、学生時代から親交のあったレーベルメイト、Baby’z Breathの陽葵はるねだった。将来について相談した時、返ってきたのは意外なほどシンプルな言葉だった。

 「やっちゃえばいいんじゃない?」

 背中を強く押す言葉ではない。説得されたわけでもない。それでも、その一言は長く動けずにいた心に残った。

 「じゃあ応募するだけしてみようかなって思いました」

 受からなくてもいい。ダメならそれまで。それでも、挑戦しないまま終わる後悔だけはしたくなかった。人生の中で、夢に近づける最後のタイミングかもしれない。そんな思いが、ようやく足を前へ動かした。

 オーディションに向けて特別な準備を重ねたわけではなかった。絶対に受かるという自信もなかった。ただ、「やってみよう」という気持ちだけを抱えて飛び込んだ。その結果は、一発合格だった。

 「やってみるもんですね」。照れたように笑う。

 長く遠くに見えていた夢は、思いがけない形で現実になった。そして迎えたお披露目ライブ。初めてファンの前に立った日のことを尋ねると、少し困ったように笑った。

 「あんまり覚えてないんです」

 それほど緊張していた。

 本当に受け入れてもらえるのだろうか。自分はここにいていいのだろうか。不安ばかりが頭の中を巡っていたという。

 しかし、ステージに立つと景色は変わった。客席から歓声が聞こえた。コールが聞こえた。応援する声が届いた。その瞬間、張り詰めていたものが少しだけほどけた。

 「受け入れてもらえるのかもって思えたんです」

 ライブは驚くほど一瞬だった。何を話したのか、どんな景色だったのかは曖昧でも、一つだけ残った感覚がある。

 「あ、アイドルだ」。幼い頃から憧れていた世界が、その日初めて現実になった。

 もっとも、夢をかなえた後の日々は華やかなことばかりではなかった。加入直後に立ちはだかったのは、約1カ月で13曲を覚えなければならないという壁だった。ダンス未経験の身にはあまりにも大きかった。周囲のメンバーはできるのに、自分だけができない。その現実が何より苦しかったという。

 「なんでできないんだろうって…」。レッスンが終われば家で練習。動画を見返し、身体を動かし、また確認する。その繰り返しだった。ライブの日程は待ってくれない。ステージは必ずやってくる。焦りもあった。それでも立ち止まる選択肢はなかった。

 「Next☆Ricoのメンバーになれたからには、そんなすぐ投げ出してる場合じゃないなって」

 少し前のめりになりながら続ける。

 「やっとつかんだ夢というか、夢がかなえられそうになってすぐ投げ出すのは良くないし、投げ出したくなかったんで」

 その言葉が冬崎という人間の芯なのだろう。

 ダンス未経験だった。アイドル経験もなかった。できないことの方が多かった。それでも逃げなかった。ようやく手が届いた夢だったからだ。苦しかった日々を振り返る時、その表情に暗さはない。むしろ今では、自分を支える経験になっているという。

 「あの1カ月を乗り越えたから、たぶん大丈夫だろうって思えるんです」

 活動の中で壁にぶつかった時も、あの時期を思い出す。不思議と前を向ける。苦しかった記憶は、いつしか自分を支えるお守りになっていた。

 そんな現在を支えている言葉がある。

 「百折不撓です」

 何度失敗しても志を曲げない。何度折れても立ち上がる。そんな意味を持つ四字熟語だ。

 「メンタルは全然強くないんです」。そう言って笑う。落ち込むこともある。弱気になることもある。それでも振り返れば、そのたびに立ち上がってきた。夢だったアイドルにもなれた。その歩みを振り返った時、この言葉が自然と人生のモットーになった。

 そしてもう一つ、大切にしているものがある。ファンから掛けられる言葉だという。

 「成長してるね」「頑張れてるよ」

 どれも特別な言葉ではないのかもしれない。それでも、一つ一つが胸に残る。できなかったことができるようになる。変化を見つけてもらえる。その積み重ねが、また前へ進む力になる。

 インタビューの終盤、この夏挑戦したいことを尋ねると、少し照れながら新しい目標を明かした。

 「グラビアとかも、できたらいいなって」

 きっかけは他グループとの衣装交換企画だった。普段とは違う衣装を着た時、「ちょっとまずいかもしれない」と思ったという。だからダイエットも頑張りたい。腹筋もしたい。走りたい。目標を語る口調はどこまでも前向きだった。

 「グラビアもできるように。無理しないで頑張ります」

 その表情は明るい。

 幼い頃、アイドルになりたいと思いながら、一歩を踏み出せずにいた時間があった。だが今は違う。夢をかなえたから終わりではない。その先にある新しい夢を、当たり前のように口にしている。

 「百折不撓です」

 改めてそう口にすると、少し照れたように笑った。

 人生を変えたのは、「やっちゃえばいいんじゃない?」という何気ない一言だった。けれど、夢を現実に変えたのはその後も投げ出さずに歩き続けた時間だ。

 何度折れても立ち上がる。そして、かなえた夢の先でまた新しい夢を見つける。その言葉を証明するように、“おかゆホワイト”は今日もステージへ向かっている。