斎藤氏は雨をテーマにしたイラストを多数手がけている

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 前回に続き、「ひろがるスカイ!プリキュア(以下、プリキュア)」と「ラブライブ!スーパースター!!(以下、ラブライブ!)」などの人気アニメでキャラクターデザインを務めた、斎藤敦史氏のインタビューをお送りする。

 京都アニメーション(以下、京アニ)の下積み時代に影響されたアニメーターの話や、今後手掛けたい仕事まで深掘りしつつ話を聞いた。【取材・文=山内貴範】(全2回のうち第2回)

【画像】「プリキュア」「ラブライブ!」の人気アニメーター「斎藤敦史氏」が制作した、アニメファン垂涎のイラストたち

「けいおん!」の第13話が転機に

――京アニ時代はとても刺激的だったと伺っていますが、その頃に関わった、アニメーター人生の転機になった仕事はありますか。

斎藤氏は雨をテーマにしたイラストを多数手がけている

斎藤:「けいおん!」の第13話ですね。山田尚子さんが絵コンテ、堀口悠紀子さんが作画監督を務めた回で、入社2年目の頃に関わりました。それまで、僕の仕事の上がりは、「数は上がるけれども、質が伴っていない」と評価されていたんですよ。

 ところが、「けいおん!」の第7話で、木上益治さんと荒谷朋恵さんがレイアウトとラフ原画を作り、他の作業者がそれを第二原画(注:原画を清書したもの)にする機会があったのです。

――木上さんといえば、京アニを語る上で伝説的なアニメーターですね。

斎藤:木上さんは本当に、化け物みたいに絵が上手いんですよ。淡々と描いているのに、いつの間にか絵ができあがるという。すでに原画の完成度が高いので、清書する必要はないくらいなのですが、そんな木上さんのラフ原画をトレースできたのは本当に幸運でした。

 この第7話を経験してから、僕のなかで、意識が変わった気がします。それまではリテイクが多発していたのですが、次に手掛けた13話ではそれがほとんどなかったのです。そんな意味でも、第13話はアニメーターとして“何かを掴めたかもしれない”回だと思っていて、未だに印象に残っています。

視線の流れを意識して描く

――このたび発売される画集(『斎藤敦史アニメーション&イラストワークス あめゆらげ』)のカバーもそうですし、「プリキュア」や「ラブライブ!」のキービジュアルでも、斎藤さんの絵って、一目見たときにキャラクターと目が合うんですよね。そして、視線の誘導がすごく考えられていると感じます。

斎藤:目が合うという話ですが、それは「ラブライブ!」の京極尚彦さんの教えが生きていますね。京極さんには、キャラクターとアニメの視聴者にコミュニケーションを取らせたいという考えがありました。

「ラブライブ!」の版権絵などでキャラが視聴者に向かって手を差し伸べたり、目線が向いているのはそのためです。後の仕事で、キャラクターとの距離感を近くしたかったりする場合は、京極さんの教えを意識しながら描くようになりました。

 おっしゃるように、画集の表紙は視線の流れを考えてデザインしています。基本の流れのラインを最初に引いて、その流れに自然に沿うようにキュアスカイのマントなどで動線を作り、円を描くようにキャラクターを配置しています。キャラクターの周りにある小物も動線に合わせて配置し、自然に見えるように、意図的に視線誘導を狙っています。あとは、黒、赤、青などの色のバランスを意識しながら描いている感じです。

――「ラブライブ!」のBlu-rayのジャケットなどに顕著に見られますが、斎藤さんの絵からは、キャラクターのこれまでの歩みや、背景にある物語を感じることができます。一枚絵に様々な情報を違和感なく盛り込めるのは、斎藤さんの凄みだと思います。

斎藤:ありがとうございます。一枚絵には、そこに描かれていない場面外の出来事や時間なども描くように心がけています。キャラクターの性格を理解して、この感情ならこんな体のポーズをするだろうなと思い浮かべながら描く感じですね。

――キャラクターのポーズからも、性格が汲み取れるのが素晴らしいです。

斎藤:キャラクターのポーズというと、矢口高雄さんの絵もすごいですよね。自然物の描き方は唯一無二だと思いますが、それ以上に、キャラクターの流線的な動きのある線が凄い。線の段階で素晴らしいのですが、それに色がつくと、生き生きと動き出して見えますからね。

しっとりした雨の日が好き

――斎藤さんはアニメーターのなかでも、積極的に同人活動を行っている方だと思います。

斎藤:同人誌って誰から何も言われない、怒られないのがメリットです(笑)。仕事の絵と違って自由に描けるのが魅力的なんですよ。仕事がアウトプットだけになってしまうと絵が固くなってしまうので、趣味でも絵を描ければと感じます。それに、同人誌即売会の会場で交流するのも好きですし、雑談のなかでパワーをもらうのも目的になっています。

――斎藤さんは仕事では明るい絵が多いですが、同人誌では情緒的な絵を描いていると思います。同人サークル名も「あめがすき」ですし、どちらかというとしっとりしているイメージがありますね。

斎藤:実は、好きな絵を描くと暗い感じになるんです。おっしゃる通り、情緒的なものが好きなんですよ。実際に雨という天気がめちゃくちゃ好きで、理由は落ち着くからです。室内にいても、外にいても、雨の日ってヒーリング感があるのです。雨の日に公園にいくのも好きで、「雨が嫌い」という人の気持ちがわからないくらい。

 まあ、確かに雨は傘が必要だし、濡れるので、めんどくさいですけれどね(笑)。

――ははは。私はそんな斎藤さんの雨の描写が好きです。

斎藤:個人的には雨の描き方みたいなのはまたチャレンジしたいですし、画力の上でも課題だと思います。以前から雨をテーマにしたイラストを載せた同人誌を考えていましたが、幸いにも1冊出せたので、仕事の合間を縫って2冊目も出したいですね。

――このたび発売される画集も「あめゆらげ」というタイトルです。

斎藤:タイトルはいろいろどうしようかと悩んだのですが、同人サークルが「あめがすき」ですし、ふらふら、ふわふわしている“くらげ”のように生きたいと思っています。雨とくらげの浮遊感を掛け合わせたタイトルですね。

――画集が出るのは、これまでの仕事を振り返る意味でも大きな機会だと思います。最後に、斎藤さんが今後描いていきたい絵、また、「好きに描いていい」と言われたら描きたいものなどあれば教えてください。

斎藤:空気感、感情などを落とし込んだ絵を追求していきたいと思っています。雨に限らず、繁華街の雑踏の感じとか、カレーが美味しいとか……絵のなかに描かれていることを、見た人が体感できるような絵を描きたいですね。

 あと、僕の仕事といえば、女の子のキャラのイメージが強いと思います。そこから離れたものにも積極的に挑戦して、仕事の幅を持たせていきたいですね。

 第1回【「プリキュア」「ラブライブ!」の人気アニメーター「斎藤敦史氏」のデザイン哲学 目指しているのは「少ない線でも印象に残るキャラクターデザイン」】では、人気アニメーター・斎藤敦史氏に、キャラクターをデザインする際に心がけていること、影響を受けたアニメーターなどについて伺っています。

ライター・山内貴範

デイリー新潮編集部