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疑似変速を使った方が速く走れる?

疑似変速のセッティングは、常にガソリン車の感覚に根ざしたものになるのだろうか? 筆者の問いに対し、アイヒラー氏は次のように答えた。

【画像】S+シフトを携えて復活したスポーティなハイブリッドクーペ【ホンダ・プレリュードを詳しく見る】 全21枚

「お客様はそれを期待していると思います。もし電気モーターの真の限界である2万rpm以上まで回したとしても、意味があるでしょうか? 誰も受けきれないでしょうから、わたし達は内燃機関で馴染みのある8000回転に制限しています」


ホンダ・プレリュード

電気モーターの回転数はシミュレートされたギアによって大幅に抑えられているため、サーキットでのパフォーマンスには顕著な遅れが生じることは十分に考えられる。

「それは個人のドライビングスタイルによるでしょう」とアイヒラー氏は言う。

「理論上は数秒遅くなるでしょうが、(元世界ツーリングカー選手権チャンピオンの)ガブリエル・タルキーニがイタリアのサーキットで開催された当社のメディアイベントに参加した際、彼はN eシフトを使った方が、使わない時よりも速いとわたしに話してくれました。理由は単純です。コーナーから加速する際、過度にオーバーステアにならないよう調整する必要がありますが、適切なギアを選択するだけでクルマがそれに対応できると分かっているため、コーナー出口でフルスロットルにできるのです」

懐疑的なメーカー、積極的なメーカー

しかし、ヒョンデ以外のメーカーの疑似変速に対する反応はまちまちだ。ポルシェは支持を示しているが、ランボルギーニは反対のようだ。ポールスターの製品特性責任者であるクリスチャン・サムソン氏も、現時点ではこのアイデアに反対している。

サムソン氏は筆者の取材に対し、「ヒョンデのやり方は面白いですが、ポールスターが同じことをやるとは想像できません。思わず笑みがこぼれますし、わたし達も時折検討はしていますが、それは伝統やレガシーを呼び起こす装飾品のように感じられます。ポールスターはミニマリストで、より現代的な立場から物事を捉えていますから」と答えた。


ホンダ・プレリュード

とはいえ、BMWがまもなく発表予定の4モーター搭載のEV版『M3』で疑似変速の採用を決めるなど、アイヒラー氏のチームには追い風も吹いている。

アイヒラー氏は、「こうしたニュースを聞くと、わたし達は嬉しくなりますし、もっと仕事を頑張ろうという励みになります。健全な競争も、この業界には欠かせませんよね?」と述べた。

ホンダが追求するギアチェンジの楽しさ

ホンダもまた、このコンセプトに大きな関心を寄せている。新型の高性能EV『スーパーワン』は、350万円以下の価格で7速の仮想ギアとそれに合わせたサウンドトラックを装備している。プロトタイプを初めて試乗した際は大いに期待が持てた。

一方、新型『プレリュード』に搭載された「S+シフト」システムは、実際のエンジンから得たギア操作感を擬似的に再現し、クーペの魅力を削ぎかねない実用重視のハイブリッドパワートレインを華やかに演出している。その結果、非常に好感の持てるクルマに仕上がっている。


ホンダ・プレリュード

「S+で非常に魅力的な感覚を実現することが目標でした」と、エンジニアの立石努氏は語る。

プレリュードの最高速度は控えめな188km/hだが、その範囲内で8速のギアを用意しているため、パドル操作で手を忙しく動かすことができる。ただし、純粋なマニュアルモードがないため、気まずい思いをすることはない。

「プレリュードのギアチェンジには、摩擦や時間のロス、機械的な摩耗がありません。スペースの制約もありません。わたし達は単に、ギアチェンジをする楽しさと喜びだけを追求することができました」

次の展開が気になるトヨタ/レクサス

一方、トヨタは物理的なシフトレバーと3ペダルを備えた疑似マニュアル・トランスミッションをレクサスで試みており、AUTOCAR UK編集部のマーク・ティショー記者は『UX 300e』でこれを体験した。

現在、レクサスの『RZ 550e』はジェントルな電動クロスオーバーであり、ステアバイワイヤ式のヨーク型ステアリングと、8速の「インタラクティブ・マニュアル・ドライブ」システムの短いシフトレバーによって、その運転体験は劇的にゲーム化されている。


レクサスRZ 550e Fスポーツ

レクサスの先進パワートレイン担当者は、「このアイデアは、クルマとキャッチボールをするような感覚を求めたいという思いから生まれました。(シフトの感覚がなければ)運転のやりがいが薄れることに気づいたのです。あえてギクシャクした動きにし、本来なら静かなはずの場面に音を加えました。操作には一定のスキルが求められますが、成功もミスも、すべてフィードバックとして返ってきます」と語っている。

重要な「何か」の第一歩

レクサスのシステムには完全なオートモードがない。つまり、5速のまま街中を重々しく走ることがないよう、常に現在のギア比に意識を向けなければならない。しかし、適切な道路で、気分が乗っていれば、ヒョンデのNシリーズ車のようなリアルなサウンドや物理的な感覚には及ばないとしても、十分に楽しいもの。

重要なのは、これがはるかに重要な「何か」の第一歩であるように見える点だ。

レクサスの『LFAコンセプト』には疑似変速が搭載されており、量産モデルには、V10エンジンを搭載した伝説的な先代モデル(LFA)の影から抜け出すために、こうした驚きと喜びをもたらす機能が必要になるだろう。

クルマ好きが起こした小さな革命

実際、過去の素晴らしさを認めることこそが、こうした技術が愛されるための鍵であるように思える。

ヒョンデのアイヒラー氏の話に戻ろう。


ヒョンデ・アイオニック5 N

「わたしは昔から内燃機関が大好きで、今でもガレージにアルピナB3 Sを置いています。ヒョンデに入社する前は、これを日常の足として使っていました。雪が降ると、山へ出かけてドライブを楽しんでいますよ」

N eシフトの開発に携わった1人がそのような趣味を持っているのだから、この技術が高性能EVにもたらした小さな革命にわたし達がこれほど魅了されるのも当然だろう。彼の仲間たちが、この分野をさらに発展させてくれることを期待したい。