追い込まれた日銀に残されたのは「0.25%利上げ」だが…それでもぬぐい切れない植田総裁の「高市首相への配慮姿勢」

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日銀が利上げへ

日銀が6月16日の政策決定会合での利上げがほぼ確実になっている。市場は3日の植田総裁の講演で利上げを示唆したと受け取り、織り込んだ。万一、日銀が利上げを見送るようなら、長期金利が跳ね上がってしまいかねず、もはや後戻りはできない。

なにより、円安がジワジワ進行している。総裁発言は利上げへの地ならしではあるが、冷静にみれば、日銀は利上げをせざるえない状況に追い込まれたと言えるだろう。

日銀の利上げ見通しを最も反映するのはOIS(オーバーナイト・インデックス・スワップ)金利。政策委員の利上げ積極発言などで、すでに利上げを7割程度織り込んでいたが、3日の植田日銀総裁の講演が決定的で、講演後には9割織り込んだ。植田総裁はこの講演でイラン情勢が不透明なままでも、利上げに踏み切る可能性に言及し、「利上げの是非についてしっかりと議論する必要がある」と発言した。

前回4月28日の日銀政策決定会合後の総裁会見で、植田氏が利上げ見送りの理由に挙げたのはもっぱら「イラン情勢の不透明」だった。米イラン情勢が不透明さは、この1ヵ月でなにも変わっていない。それでも利上げへ転換した最大の理由は、もちろん円相場が1ドル=160円台寸前まで下がっているからだ。

日銀は決して、表向きは円相場を金融政策変更の理由にはしない。今回も、3日の総裁講演ではインフレ懸念が利上げの大義名分だ。日銀法でも物価の安定が日銀の役割と規定している。

だが、円安が輸入品の価格上昇を通じて日本経済に大きな影響を与える。最近は、円安のインフレ効果には言及することが増え、市場への牽制は怠らなくなっている。

円相場の動き

円相場の動きを振り返ってみよう。前回の利上げを見送った日銀政策決定会合があった4月末の時点も、円は160円前後といまと同じ水準だった。財務省は5月初めに、11兆円規模とされる円買い・ドル売り介入で、1ドル=155円台まで円をいったん押し上げた。

しかし、円高は長くは続かなかった。連休明けにじりじり下がり、財務省が露骨に防衛ラインとみなしている160円近くまで、いまは下がっている。財務省の介入による円高効果が一時的にしかすぎなかったことが露(あらわ)になってしまった。

円安は輸出企業の業績を表面的には改善させるため、株式市場は歓迎する。だが、円安は輸入品の価格の値上げとなって物価を押し上げる。海外から輸入しているエネルギー、農産物などが上がれば、国民の生活を圧迫する。ひいては国内の個人消費を冷やしてしまうので、結局、経済成長率も鈍化する。

イランによるホルムズ海峡の閉鎖の影響ばかりが、いまはインフレや景気悪化の原因として注目される。植田総裁が利上げを見送ってきた理由にも、イラン情勢の不透明を挙げてきた。

確かに、スナック菓子の包装がモノクロになり、弁当などのプラスチック容器が急速に値上げされ、弁当や宅配に響いている。原油の中東からの輸入が細って、石油製品の品薄への危機感が強いのは侮れない。米国イラン戦争前の原油価格は1バレル68ドル程度。いまは95ドル前後で40%も値上がりしており、その影響は大きい。

一方、円安の日本経済に与えるマイナスの影響も非常に大きい。一年前の円ドル相場の水準を覚えておられるだろうか。1ドル=143円だった。いまは160円だから10%以上も円安が進行している。これが輸入品の値上げの大きな要因となっている。

6月から、1000品目以上も食品価格が値上げとなったが、平均値上げ率は14%。食品は62%が輸入依存であり、円安の直撃を受けている。仮に円安が進行していなければ、14%もの値上げは避けられたに違いない。

円安を止められるのか

それでは、0.25%の利上げで円安を止められるのだろうか。進行を遅らせる効果はあるだろうが、財務省が日銀利上げと歩調を合わせて介入した場合でも、160円より円安になるのを防げるかどうかは微妙だ。

植田日銀総裁の就任後、日銀は金融政策の正常化として、2024年3月にマイナス金利政策を解除し、2025年7月、2025年1月、12月に計3回の利上げをしている。3回の利上げのうち、最初の2回は利上げ後にいったん、15円程度円高に動いた。長くは続かずもとの円安に戻ってしまうが、それでも円高効果はあった。

しかし、昨年12月の最後の利上げの際には、まったく円高に動かなかった。利上げ効果は円安に対して効果薄となっている。

利上げが効かない背景にあるのは、1月に利上げしてからほぼ1年間も利上げできなかったことで、日銀が高市政権に遠慮しているとの判断が、市場関係者の間で広がっていることがある。つまり「弱腰」ととられていることがある。

利上げを示唆した3日の植田総裁講演の後も、円相場はピクリとも動かなかった。外国為替の専門家ほど、円安の流れは止められないと見ているのが実情だ。

円安を止め、さらに円高に誘導するには、どうしたらいいのか。ひとつの解は、日銀が利上げ幅をこれまで実施してきた0.25%から0.5%に引き上げることだろう。

次善の策としては、利上げの間隔を今回のような6か月から、4か月か3か月に短縮する、利上げのペースアップを表明する方法もある。2025年に1年間も利上げできず「後手」に回っているのを取り返す必要がある。

だが、植田総裁は、利上げ幅を広げたり、利上げペースの加速にはきわめて慎重なことが漏れ伝わってきている。高市首相の利上げを嫌う姿勢に配慮しているからだ。

本来であれば、財務省とともに「利上げが成長を阻害する」との首相の誤解を解き、むしろ利上げを急がなければ円安進行、インフレという形で、息の長い成長にはマイナスであることを説得するのが、日銀に課された任務なのだが、明らかに及び腰だ。取り返しのつかない遅れにならないだろうか。

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