「結婚してくれると言った27歳の彼が冷たくて」夫も子もいる43歳女性が陥ったもの
2024年9月14日、兵庫県警は、兵庫県在住の地方公務員の男性(58歳)が、1億2000万円相当をだまし取られたと発表。被害者の男性は、マッチングアプリで知り合った相手に好意を抱き、10回程度位に分けて暗号資産を送っていたという。
奇しくもその前日の13日、河野デジタル庁大臣は、マッチングアプリも運営する結婚相手紹介サービスの業界団体などに対し、利用者が会員登録する際、マイナンバーカードを活用した本人確認を行うように要請したと発表した。本人確認を厳格化し、相手に恋愛感情を抱かせ、金をだまし取るロマンス詐欺や、投資詐欺を防ぐ狙いがある。
これにより、利用者が同意すれば、事業者は、政府の専用サイト「マイナポータル」経由で婚姻関係や所得といった利用者の情報を確認できるようになるという。
キャリア10年以上、3000件以上の調査実績がある私立探偵・山村佳子さんは「マッチングアプリで出会った相手に、恋愛感情を利用され、損害を被る人は増えています。恋愛に夢中になると、理性も常識も吹っ飛んで、人生計画が乱れる人は多いです」と言う。
山村さんに依頼がくる相談の多くは「時代」を反映している。同じような悩みを抱える方々への問題解決のヒントも多くあるはずだ。個人が特定されないように配慮をしながら、家族の問題を浮き上がらせる連載が「探偵が見た家族の連載」だ。
今回山村さんのところに相談に来たのは、43歳の桃子さんだ。「結婚してくれると言った27歳の彼が冷たいんです。苦しくて不安で消えてしまいたい」と山村さんに連絡をしてきた。一体何があっただろうか……。
山村佳子(やまむら・よしこ)私立探偵、夫婦カウンセラー。JADP認定 メンタル心理アドバイザー JADP認定 夫婦カウンセラー。神奈川県横浜市で生まれ育つ。フェリス女学院大学在学中から、探偵の仕事を開始。卒業後は化粧品メーカーなどに勤務。2013年に5年間の修行を経て、リッツ横浜探偵社を設立。豊富な調査とカウンセリング経験を持つ探偵として注目を集める。テレビやWEB連載など様々なメディアで活躍している。
「すぐにお会いしたいんです」
今回の依頼者・桃子さんから「すぐにお会いしたいんです。もう消えたい」と切羽詰まった声で電話をかけてきたので、私も即座に対応しました。
電話から30分後にカウンセリングルームに入ってきた桃子さんは、全体的にあどけない雰囲気。コットン素材で紫色のワンピースを着ており、全体的におしゃれです。しかし、近くで見ると、食べこぼしのシミやご飯つぶなどがついており、「これは、混乱している」と思いました。人は追い詰められると、身なりに構いきれなくなるのです。
ため息をついたり、「ああ……」と声を出したりしていました。まずは背景を伺います。
「私と彼は、マッチングアプリで出会いました。これは私がいけないんですけれど、夫とレスだったし、女として扱われたいと思って、ちょっと恋愛気分を味わうために登録したのです」
桃子さんはデザイン事務所でパートとして働いています。結婚13年になる45歳の会社員の夫と、11歳の息子がいます。彼女のように、家庭があっても恋愛する女性は増えています。既婚者合コン、SNSでのナンパなどに端を発した男女トラブルによる調査は、コロナ禍以降、急増しています。
では桃子さんは詐欺に遭ったのでしょうか。まずは相手との出会いの前、マッチングアプリを利用したきっかけから聞きました。
息子は反抗的、夫には無視されて
「1年前に海外の会社が運営し、18歳以上なら誰でも使えるマッチングアプリに登録したんです。息子も私に対して反抗的な態度を取るようになったし、夫もここ2年ほど私のことを無視する。掃除、洗濯、食事はもちろん、夫と息子が快適でいられるように家族に尽くしているのに、みんなで私のことをバカにしている。すごく軽く扱うんですよ。だから、ちょっとした息抜きのつもりだったんです」
そして、桃子さんは多くの男性とマッチングし、デートを重ねたと言います。基本的にワンナイトで、シンデレラ気分を味わってドキドキしたそうです。
「私、早生まれだから、学年で言ったら44歳なんですよ。年齢的におばちゃんじゃないですか。お腹もお尻もぶよぶよだし。出産前にはいていたジーパンが出てきたのではこうとしたら、太ももで止まっちゃったくらいのババアなのに、いろんな男性がドライブに連れて行ってくれたり、素敵なレストランでご飯をおごってくれたりして最高だったんです」
最初のうちは、自分に自信がないために、50〜60代の男性に狙いを定めていたそうです。
「どの人も、私のことを可愛いと言ってくれて、きちんと反応してくれて、すごく自信を取り戻したんです。女として輝けると確信し、本当に付き合いたかった30歳以下の男性とマッチしようとしたんです」
「ババアかよ」と舌打ちされた後に出会う
すると、ほぼ惨敗。待ち合わせ場所に行き「ババアかよ」と舌打ちされたり、あからさまにがっかりした顔をされるだけでなく、すっぽかされることもあったそう。
「辛いじゃないですか。それで、メンタルがやられていたときに、彼に出会ったんです。彼は、総合商社に勤務していて独身でめっちゃカッコいい。白シャツに黒縁メガネがすごく似合って、私の好みのドンズバなんです」
27歳の彼は、「年上の女性が好き」と言い、桃子さんをお姫様のように扱ったと言います。写真を見せていただくと、顔立ちが整っており、背も高くカッコいい。しかし、探偵の目から見ると、20代で総合商社に勤務する会社員には見えませんでしたが、黙っていました。
「彼はちょっとコンプレックスがあって、目立たないようにしていますが、頭髪が薄いんです。だから私のようなオバサンがいいんだろうな、と」
彼は桃子さんに「桃子のこと、めっちゃ好み」「桃子に一目惚れした」「桃子、愛している」などを繰り返したと言います。桃子さんが謙遜すると、「ほっぺが可愛い」とキスをしてきたとか。
「大手でも20代の会社員の給料なんて高が知れているから、私がおごってあげたんです。そしたら感激してくれて、“桃子ちゃんは優しいんだね。一生一緒にいたいな”と言ってくれたんですよ」
男性の求めるままにお金を出すように
その言葉を間に受けた桃子さんは、彼にのめり込んでしまいました。彼のことを思うと、胸が苦しくなって手が震えたといいます。
「夫は私が話しかけると、あからさまにイヤホンをするんです。“私には、私を愛してくれる男がいるのよ!”と叫びたいくらいでした」
そして、桃子さんは男性の求めるまま、お金を出すようになります。
「この半年間で、100万円くらい渡しました。投資の勉強会に参加する、起業したい、妹がDV夫から逃げてきて部屋を借りてあげたいなど、理由は様々でしたが、彼を助けたい一心でした。あと、夫と別れて彼と一緒になりたいとも思っていました」
そのたびに男性は「将来、結婚しようね。ずっと一緒にいたい」などと言ったといいます。これは典型的な詐欺の会話のパターン。いわゆるロマンス詐欺も「あなたを愛している」とか「一目惚れした」などというところから、会話のとば口を切り、ネット上のやり取りと電話だけで、大金を奪い取るのです。
桃子さんは、自分の貯金の100万円を渡してしまい、その後、息子の進学費用まで手をつけそうになってしまい、そんな自分に混乱して私に電話をかけてきたのです。
「100万円は私にとって大金。彼は私がお金を渡さないと、泣き出したり怒ったりするんです。私を愛してくれてる人のそんな顔は見たくないと思って、こっちも出してしまう。お金を出すと、すごく優しくしてくれくれるんです」
現金で10万円、20万円と手渡し…
お金の受け渡し状況を聞くと、10万円、20万円と桃子さんが口座から引き出して、現金で渡している。振り込みではないので、「相手に渡した」という履歴はありません。
「自由になるお金がなくなったと言ってから、LINEの返信も遅い。そのままフェードアウトされそうなんです。山村さん、私、夫と別れて彼と結婚したいんです。もう一度、人生をやり直したい。私を無視しバカにする夫と、“クソババア”と言って、食事をゴミ箱に捨てる息子と一緒にいても、幸せになれないと思うんです。彼だけが私を愛してくれるんです。そんな彼が最近、私に対して冷たいのは、他に女がいるからだと思うんです」
桃子さんはこの1ヵ月、夫と離婚して彼と結婚することを夢見て生きてきたといいます。おそらく、探偵の直感的に、彼は詐欺師のようなもの。桃子さんの心が傷つく結果になるとわかりつつ、調査に入ることにしました。
◇マッチングアプリで出会って本当に素晴らしい結婚をする人たちもいる。しかし残念ながら「政府が対策を取るほど」マッチングアプリを利用した詐欺は横行しているのも事実だ。桃子さんの相手も、限りなく疑わしい。事実を知ることがなにより大切だ。では事実は一体何か。そして桃子さんはどうなるのだろうか。
詳しくは後編「「結婚しようね」マッチングアプリで出会った27歳男性に100万貢いだ43歳1児の母の末路」にてお伝えする。