2024年8月12日、パリ五輪、閉会式の最後に「マイ・ウェイ」を歌うイズーさん 写真=USA TODAY Sports/ロイター/アフロ


(小林偉:放送作家・大学教授)

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パリからロサンゼルスへ

 先日のパリオリンピック閉会式の、本当に最後の最後に、イズーというフランス人の歌手が「マイ・ウェイ」を歌っていました。このイズーという方は1994年生まれの今年30歳、ご両親はカメルーン出身だそうです。テレビのオーティション番組で準優勝したのをキッカケにプロデビューしたものの鳴かず飛ばずで、ベルギーに活動の拠点を移したことから、少しずつ評価を上げていった苦労人とのこと。そして、オリンピックのフィナーレで歌う機会を得たワケですから、金メダル獲得級の大出世ですよね。

 さて、なぜ最後に「マイ・ウェイ」だったのか? 中継でもNHKのアナウンサーが少し触れていましたが、この曲はもともと、クロード・フランソワというフランスのシンガー・ソングライターが1967年にリリースしたもの。オリジナルのタイトルは「Comme d‘habitude」といいます。これはフランス語で「いつものように」という意味ですね。

 歌詞を訳してみると・・・「一日が終わり、僕は帰宅する。いつものように、君は外出している。まだ帰ってきていないだろう。そう、いつものように」というような感じです。

 当時、クロード・フランソワは「夢見るシャンソン人形」などのヒット曲で知られる人気歌手のフランス・ギャルと付き合っていたのですが、奔放な彼女に振り回される毎日に疲れ、別れを決意したときの心境を歌ったという、いわば失恋ソングなんですよね。

 そして、この曲を休暇でフランスにいた、アメリカの人気歌手=ポール・アンカが、たまたまラジオで聴き、ドラマティックな曲調に感動して、英語の歌詞を書きました。その際に曲調のイメージから、人生の節目を迎えた初老の男が過去を振り返るという、お馴染みの歌詞に変わったというワケです。それが後に、大歌手=フランク・シナトラの下へ渡り、「マイ・ウェイ」として生まれたと。1969年のことです。 

 こうした経緯から、フランス・パリからアメリカ・ロサンジェルスへと開催地が受け継がれるオリンピックの締め括りとして相応しいということで、取り上げられたようですね。

パリ五輪、閉会式でトム・クルーズが登場 写真=REX/アフロ


フランスで生まれた名カバー曲

 この「マイ・ウェイ」の前にも、シナトラはフランス発の曲を英語詞にしたものをカバーしています。それがこちら。

 1967年に発表した「I Will Wait For You」という曲。お気づきになった方も多いかもしれませんが、こちらのオリジナルは1964年公開のフランスのミュージカル映画『シェルブールの雨傘』の主題歌です。

 元のフランス語の歌詞を、ノーマン・ギンベルという作詞家が英語詞にしたもの。その後、アメリカやイギリスでも数多くのカバーを生んでいます。ちなみに、このノーマン・ギンベルという方はボサノヴァの名曲「イパネマの娘」の英語詞や、ロバータ・フラックの名曲「やさしく歌って」などの作詞も手掛けた大作詞家ですね。

 このように、フランスで生まれた曲がカバーされて、世界的に広がったという例は、まだまだ幾つもあります。比較的記憶に新しいところでは、こちら。

 エルヴィス・コステロが1999年に映画『ノッティングヒルの恋人』の主題歌としてカバーした「シー」。オリジナルは、フランスを代表するシンガーだったシャルル・アズナブールが 1974年にリリースした「忘れじの面影」という曲ですね。

 もともと、アズナブールはフランス語以外にも英語やドイツ語、イタリア語などでも歌詞を書いていたそうですから、後の世界的ヒットを確信していたのかもしれませんね。

 さらには、こんな曲も。 

 思わず「懐かしい・・・」と呟かれた方は、ある年代以上の方ですかね。1978年にコーラスグループ=サーカスが放った大ヒット曲「ミスター・サマータイム」。実はこちらのオリジナルは・・

 ミシェル・フュガンというフランスのシンガーが1972年にリリースした「愛の歴史」という曲。作曲はフュガンで、作詞はピエール・ドラノエ、それに日本語詞をつけたのは竜真知子。狩人の「あずさ2号」やキャンディーズの「ハートのエースが出てこない」などなどでお馴染みの方ですね。

 最後は渋く、こちら

 ギターの神様こと、あのエリック・クラプトンが渋くキメるシャンソンの名曲「枯葉」。オリジナルはお馴染み、フランスを代表するシャンソン歌手&俳優だったイブ・モンタンのヴァージョンで、元は1946年公開の映画『夜の門』の挿入歌として劇中、イブ・モンタン自身が歌ったものでした。

 日本ではすぐにスタンダード・ナンバーとなるほどの人気曲でしたが、英米では映画自体があまりヒットしなかったため、それほど有名な曲ではなかったものの、2010年にクラプトンが英語ヴァージョンでカバーし、話題になりました。

 ・・・と、ほんの一例をご紹介しましたが、こうしてみるとフランス発の曲は意外なほどたくさんあるものです。8月28日からのパリパラリンピックをご覧になりながら、フランスの文化に想いを馳せてみるのも悪くないかもしれませんね。

筆者:小林 偉