現代の“良い音”とは? ギズモード編集長とShingo Suzukiが語る「シン・オーディオ」
新たなオーディオの時代が始まっている。
2024年6月下旬、東京国際フォーラムで国内外のオーディオ・メーカーが一堂に会する展示会「OTOTEN2024」が開催されました。
この会場のシンタックス・ジャパンのブースで行なわれたスペシャルセミナーにギズモード編集長の尾田和実が登壇。そのタイトルが「ギズモード・ジャパン編集長 尾田和実とShingo Suzukiが語るテック+アナログ〜シン・オーディオの楽しみ方」。Shingo Suzukiさんは、mabanuaや関口シンゴと共にバンド「Ovall(オーバル)」で活躍し、BTS、矢野顕子など世界中のアーティストをサポートしているベーシスト、そしてプロデューサー/トラックメーカーです。
RME、Genelec、Vicousticで構築した再生システムで、音楽とテクノロジーの融合によって生まれる新しいリスニング体験「シン・オーディオ」に迫るこの催しの中から、とくに興味深かったポイントをレポートします。
Genelecは「時代が求めている音」
このトークセッションは、RME「ADI-2/4 Pro SE」とGenelecのスピーカーを使用したシステムでデジタルデータとアナログレコードから音楽を再生し、それについて話すという構成。
ギズ編集長の尾田が1曲目にかけたのが、カッサ・オーヴァーオール「Ready To Ball」。
シアトル在住のドラマー/プロデューサー/MCが、プレイヤーとプロデューサー双方のスキルを高次元で融合させて2023年にリリースした楽曲が、会場中に豊かに響きました。
そのサウンドをきっかけに、話題はレコーディングスタジオやラジオ局に設置されているスピーカーの話に。
Shingo Suzuki:外部のレコーディングスタジオを使うと、よくGenelecの8351が置かれているの目にするんですよね。
その理由をエンジニアに聞いたら「音楽的に楽しく聞こえるけど、しっかりとサウンドを表現しきれる」と言っていました。都内のレコーディングスタジオで普及しているのを見ても、時代が求めている音の一つじゃないかと思いますね。僕もGenelecのスピーカーを買おうと思っています。
尾田:10年くらい前だと低域にウェイトを置いたモニタースピーカーがヒップホップのプロデューサーを中心に流行っていましたが、最近はジャズとのクロスオーバーも目立つせいか、オーディオのセットアップの質が変わっているように思えますね。
解像度の高いサウンドだから伝わるものがある
続いてShingo Suzukiさんがプレイしたのは、ディアンジェロ「Untitled (How Does It Feel)」。2000年にリリースされた名盤『Voodoo』からの1曲です。
スペシャルなサウンドシステムによって一流プレイヤーの演奏が持つニュアンスがはっきりと伝わるからか、まるで演奏者やその表情、スタジオの広さまでもが見えるかのようなサウンドです。
Shingo Suzuki:衝撃ですね。このシステムで聴いたらとても良いだろうと思って選曲したのですが、この音にはびっくりしました。これはジミ・ヘンドリックスが作った「エレクトリック・レディ・スタジオ」というスタジオで録音されたアルバムで、Jディラ(伝説的なヒップホッププロデューサー)の遅れるビート感を名ドラマーのクエスト・ラヴが生演奏で再現したという特徴が、見事に伝わってきます。
尾田:サウンドが生々しく、モタッとしたドラム演奏のニュアンスがよくわかりますよね。
Shingo Suzuki:ドラムもずっと遅れているわけじゃなく時にはスピーディーで、その組み合わせが絶妙なのですが、このサウンドシステムで聴くと、ベースがキックより少し後ろにあることがよくわかりますね。
信頼できるRMEのサウンド
続いて再生されたのは、現代最高のジャズボーカリストとギタリストのコラボ作品、Gretchen Parlato, Lionel Loueke『Lean in』。
Shingo Suzuki:オーディオファンにも有名な音の良いアルバムですが、音楽の頂点にいる人たちがどういうサウンドを奏でているのかを、この頂点のようなシステムで聴きたいと思って選曲しました(笑)。
今回アナログレコードで再生しましたが、再現性がすごく高いですね。音痩せすることなく、200〜300Hz、いわゆる中域あたりの音がムチーっと出ている。音楽の良さを表現しきっているんじゃないかと思いました。
尾田:このRME「ADI-2/4 Pro SE」は僕も自宅で使っているのですが、フォノイコライザー※を搭載しているのでレコードを簡単に最高の音質で使えるのがとても便利です。
DJをする際、アナログとデジタルを混在させにくいとずっと思っていたのですが、この「ADI-2/4 Pro SE」を使うと違和感がないのも気に入っているポイントです。
※レコードプレーヤーから出力される音声信号を増幅し、元の音に復元するための技術
Shingo Suzuki:僕も同じくRMEが出している音楽制作用のオーディオインターフェース「UCX」を使っているのですが、RMEの機材は本当に信頼しています。RMEを使い始めてから、音がズレている感じみたいなものが本当にない。それくらい自然に音を出してくれる機材じゃないかと思います。
時代に応じて定義が変わる「良い音」
そして最後に再生したのはイギリスの覆面バンドSAULT『9』と、アメリカのラッパーであるマック・ミラーの遺作『Circles』。
Shingo Suzuki:SAULTは初めて聴いたのですが、先ほどのグレッチェンの作品とは正反対ですね。
尾田:ローファイですよね。こういう作品を聴いたらどうなるのかが気になってかけてみました。
Shingo Suzuki:生演奏ではなく、打ち込みでローファイなトラックを作って、そこにハイファイめなボーカルが乗っている。印象的なのはキックの音を歪ませて使っているのと、途中でレコードか何かから別の音源をサンプリングしているところで、そのミックス感がいいですね。
今の音楽において「良い音」の定義はいろいろあると思うのですが、僕は「そのミュージシャンが出したい音」が再現できているなら、それが「良い音」だと思っています。
尾田:なるほど。Shingoさんは音楽を作る際、そうした音質はどのように選択していますか?
Shingo Suzuki:最終的にその楽曲が目指す世界観に応じてですね。たとえばレトロなディスコロック風味のものを作りたければ、音質も世界観表現の一部となるので、プレシジョンベースと古いアンプを使ったような音作りをしたりします。
でも、初めから「古い音作りをしよう」とは思わないですね。音楽の骨になる部分はリズムやコードやメロディーであって、それをどう表現するかというところに「音質」も含まれる感じです。
音楽の骨をシャツに例えるなら、そのシャツを綿で作るかポリエステルで作るかみたいな感じでしょうか。だから必ずしも高いスタジオでいいマイクを使って再現性の高い音を作るばかりが「良い音」ではないんじゃないかと思っています。
今回使わせてもらったGenelecとRMEのシステムでは、従来的な「良い音」も、そうした新しい「良い音」も両方が見事に再現されていると感じましたね。
Shingo Suzuki、mabanua、関口シンゴによるOvallは、5年ぶりとなる新作『Still Water』を発売中。
各種ストリーミングサービスでの視聴はこちらから。
source : シンタックスジャパン / ジェネレックジャパン / MI7ジャパン