サムスン、最新GalaxyはiPhoneよりスゴいのか
サムスンは日本でGalaxy Z Flip6(左)およびGalaxy Z Fold6を7月28日に発売する。携帯キャリアではNTTドコモとKDDI(au)が取り扱う(写真:サムスン提供)
2024年のスマホ業界において、“AI”がトレンドなのは誰も疑わないだろう。アップルはiPhoneに「Apple Intelligence」というAI機能を導入し、音声アシスタントSiriに賢い受け答えをさせるなど、機能強化を図るとWWDC24でアピールした。
アップルのAIに真っ向勝負
アップルのライバルである韓国サムスンは、「折りたたみAIフォン」と自ら呼称を定めた「Galaxy Z Fold6」と「Galaxy Z Flip6」を日本時間7月10日22時に発表した。Apple Intelligenceに負けず劣らず、AIを活用した機能がてんこ盛りとなっている。
横折り型の「Galaxy Z Fold6」は、システム手帳のように広げて大画面で使えるスマホだ。外側にもディスプレーを備え、閉じた状態でもストレート型スマホのように操作できる。高機能なノートアプリを搭載していて、オプション(別売り)のデジタルペンを併用することで手書き入力も可能になる。
Galaxy Z Fold6は、閉じた状態で通常のスマホとして使えて、開くとタブレットのように大画面になるハイブリッドな折りたたみスマホ(写真:筆者撮影)
縦折り型の「Galaxy Z Flip6」も同時に発表。ファッション性重視のスマホで、6色のカラーバリエーションを用意する。コンパクトミラーのように閉じた状態で持ち運べるのが魅力だ。こちらも外側に画面があり、待ち受け画面として通知を確認したり、カメラで自撮りする際のプレビューなどが行える。
5年目にAIを本格統合
Galaxy Z Flip6はコンパクトミラーのように閉じて持ち運べるファッション性重視の折りたたみスマホ(写真:筆者撮影)
サムスンは折りたたみスマホを2019年から日本へ投入しており、5年かけて市場を育ててきた。ハードの完成度が高まり、今回はソフト、それもトレンドに合わせ「AI」を目玉機能として打ち出してきたわけだ。
折りたたみAIフォンと銘打っただけあり、AI関連の機能が随所にちりばめられている。文章作成、翻訳、要約、画像編集などの用途を、AIを用いて効率的に行えるように仕上がっている。仕事の効率化に役立つものもあれば、SNSなどプライベートな時間を楽しくする機能も用意している。折りたたみAIフォンの機能をチェックしていこう。
大きなディスプレーとキーボードがあるPCと比べると、スマホでの文章作成は手間と感じる世代も多いと思う。ビジネスパーソンなら外出先からのメール作成に苦心した経験があるだろう。最近ではビジネスチャットルーツも普及し、スマホから対応する機会が増えてきている。
Galaxyのチャットアシストは、生成AIの力を使ってスマホからの文章作成の手間を削減できる機能だ。ごく簡単な下書きを入力するだけで、典型的な文章を作成してくれる。
例えば「7/10〜12 休み」という文章を与えると、「いつも大変お世話になっております。7月10日から7月12日までお休みをいただいております……」といった具体の文章が一瞬で現れる。特にビジネスメールのような型が決まったメッセージの場合、だいぶ手間が省けるだろう。文章のスタイルとシーンも選べるようになっていて、例えばInstagramのようなSNSの投稿する文章の場合などは、まったく違ったトーンで文章を作成してくれる。
簡単な内容をテキスト入力するだけで、あっという間にまとまった文章を出力(写真:筆者撮影)
GalaxyのWebブラウザやノートアプリには要約・翻訳機能が備わっている。要約機能はニュース記事や学術論文、企業の公式発表などを短い文章でポイントを押さえて表示してくれる。時間を節約したい場合や、要点を素早く把握したいときに便利だ。
翻訳機能はPDF形式の書類にも対応する。文書のレイアウトや図表の配置などを崩さず翻訳できるので、海外の報告書や技術文書を読み解く際に威力を発揮するだろう。
PDFの文書を体裁を崩さずに文字のみ翻訳できる(写真:筆者撮影)
翻訳機能はメッセージアプリ内でも有効だ。LINEやFacebookメッセンジャー、Instagramのダイレクトメッセージなど主要なメッセージアプリに対応し、レイアウトを崩さず翻訳できる。
音声の翻訳、つまり通訳もできる。通訳機能は、ほぼリアルタイムで動作する。会話をしながら、ほぼ遅延なく相手の言葉を自分の言語に翻訳してくれるは未来を感じさせてくれる。これはフェイス・トゥ・フェイスの対話でも、電話でも利用可能だ。従来は電話アプリのみの対応だったが、今回からGoogle MeetやLINEなどの音声通話でも使えるようになった。
通訳機能に新たに追加されたリスニングモードは、講義やプレゼンテーションに特化した機能だ。外国語で行われる講演を逐次通訳し、リアルタイムで画面に表示する。通訳した内容は文字で表示されるため、リスニング学習の補助としても活用できる。
通訳機能のリスニングモード。話した内容を通訳して表示(写真:筆者撮影)
「ノートアシスト」と「録音文字起こし」は、会議や講演の記録を格段に効率化する可能性を秘めた機能だ。ノートアシストは手書きメモをテキストに変換して自動で整理。さらにAIによる要約機能で、長文のメモを簡潔にまとめてくれる。録音文字起こし機能はリアルタイムで音声をテキスト化し、話者も自動で識別してくれる。
さらに手書きメモと音声を同期させ、メモをタップすると該当部分の音声を再生できるようになっている。手書きによる記憶の定着効果と、録音というデジタル機器ならではの利便性といった良いとこ取りをしたような機能だ。
2種類のAIを使い分けている
Galaxy Z Fold6とZ Flip6には、AIを活用した画像生成・編集機能を搭載している。この機能を使えば写真の背景を変更したり、不要な物体を削除したりといった高度な編集が簡単に行える。
注目は手書きのスケッチを瞬時にリアルな画像に変換するAIスケッチの機能だ。ユーザーが簡単な線画を描くと、AIがそれを解釈し、詳細な絵や写真のような画像を生成する。絵を描くのが苦手な人でも楽しめるだけでなく、例えば、新製品のアイデアやデザインコンセプトを素早く視覚化するのに役立つ。アイデアをまとめて、ビジュアルで説明したい時に役立つだろう。
すでにある写真にAIスケッチを追加することもできる。鳥の絵を雑に描いたが、違和感ない画像を生成し、合成された(写真:筆者撮影)
以上に紹介したAI関連機能は、2種類のAIを使い分けている。1つは「オンデバイスAI」で、もう1つは「クラウドAI」だ。この2つを総じて「Galaxy AI」と呼ぶ(まさにApple Intelligenceの対抗だ)。
オンデバイスAIは、スマートフォン自体に搭載されたプロセッサーで動作する。例えば通話中の翻訳や、テキストの翻訳などがこれにあたる。これらの機能は、インターネット接続がなくても使えるといった利点がある。
一方、クラウドAIはインターネットを通じて外部のサーバーにアクセスして処理を行う。文章の生成や音声の文字起こし、長い文章の要約、複雑な画像編集、画像生成などがこれに該当する。Galaxy AIでは、GoogleのGeminiやImagenと呼ばれるAIサービスをバックグラウンドで活用しているそうだ。
なお、Galaxy AIは2025年末まで無料で提供されることが発表されているが、その後の料金体系は明確にされていない。クラウドAIを利用するサービスに対して、将来的に追加料金が発生する可能性もあるため、ユーザーは長期的な利用を考える際に、この点を念頭に置く必要がある。
AIを身近にする折りたたみスマホ
Galaxy Z Fold6とZ Flip6が示す「折りたたみAIフォン」の世界は、最先端のAI技術を日常的に使えるツールとして、私たちの手の中に収めてくれる。日々の生活がもっと便利に、そして少し楽しくなりそうだと感じさせてくれる。メールや報告書作成の手間が減り、海外の人とのやりとりも驚くほど簡単になるだろう。複雑なアイデアをサッと視覚化できるのも、AIを身近に感じさせる魅力的な使い方だ。
これらAI機能は、ビジネスの現場だけでなく、旅行や趣味の場面でも活躍する。例えば、海外旅行での言葉の壁が低くなり、現地の人とこれまでより楽に交流を深められるかもしれない。小さく持ち歩け、大きく使えるという折りたたみデザインと相まって、AIの力をどこでも引き出せるのが魅力だ。
サムスンのGalaxy AIとアップルのApple Intelligenceは、文章作成の補助、写真編集、音声認識の強化、翻訳機能の向上など、個別に実現できる機能は類似点がある。しかし、そのアプローチには両社の違いが見えて興味深い。サムスンは個別の機能に積極的にAIを導入し、迅速な改善を行う一方、アップルはプライバシーとiOSエコシステム全体の統合に重点を置いている。
結果的にどちらが世の中に浸透するかはわからないが、Apple Intelligenceの日本導入が2025年以降になることを考えると、筆者的には「待っていられない」という気持ちも湧いてくる。
折りたたみAIフォンは、AI技術の急速な進化を身近に感じさせてくれる。これから日常が変わっていく中で、AIと共存する私たちの生活はどうなっていくのか。Galaxy Z Fold6とGalaxy Z Flip6は、最先端AIの世界を今すぐ肌で感じたいという人に、おすすめのモデルだ。
日本の市場シェアはiPhoneがダントツだが、Galaxyで巻き返しを狙うサムスンの本気度が伺えるラインアップだ(写真:筆者撮影)
(石井 徹 : モバイル・ITライター)