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長野県佐久市にて開催される野外アニソンフェス“ナガノアニエラフェスタ2023”の出演アーティストに、イベントの魅力を聞く連載シリーズもいよいよ最終回。連載の最後を飾るのは株式会社アニエラ代表・コバヤシリョウと、2017年の立ち上げから現在まで“アニエラ”の運営に携わってきた株式会社OUT LOUD FACTRY・荻野晃平に話を聞いた。ゼロからのスタートから始まった長野のフェスが、存続の危機を超えて日本有数のフェスへと成長していった過程に迫る。

INTERVIEW & TEXT BY 澄川龍一

自然の中でアニソンフェスをやりたい想いはずっとあった(コバヤシ)



ーー今年も開催目前となった“ナガノアニエラフェスタ2023”の、立ち上げから携わるお二人にこれまでの“アニエラ”を振り返っていただきます。と、その前に“アニエラ”以前の長野のアニソンイベントシーンはどのような感じだったのでしょうか?

コバヤシリョウ 仲間内で、2009年に長野県で今もやっているアニソンクラブイベント(以下、アニクラ)を初めて開催したんです。そのイベントが長野で行われるアニソンイベントの初期の頃だったかなと思います。

ーーなるほど。同時期にも東京や大阪、名古屋でもアニクラが盛り上がっていましたが、そうした流れのなかで名古屋でもアニソンイベントが開催されていたと。

コバヤシ 当時mixiがまだあった頃に、そのコミュニティの友達に名古屋のイベントに誘われたんですよね。それが僕にとってのアニクラ初体験というか、当時一緒にDJしていた友達と一緒に行ったんですけど衝撃を受けて、それを長野県に輸入してきた、みたいな感じでしたね。

株式会社アニエラ代表・コバヤシリョウ

ーー一方荻野さんは当時はいかがでしたか?

荻野晃平 僕は当時、そこまでオタクを公言していなかったんですけど、毎日家に帰ったら深夜アニメはチェックしてる隠れオタクでして。

コバヤシ 初耳なんだけど、そうだったの!?

荻野 僕が当時好きだったのは『灼眼のシャナ』でした。

コバヤシ 良いねえ(笑)。

荻野 その頃僕が上京してアニメを観始めて、いわゆるアニソンイベントと関わりができたのは、僕が当時勤めていた会社で”Re:animation”(2010年から2019年まで都内を中心に開催されていたアニクライベント)の第3回か第4回のお仕事をしたことが始まりで。それまではクラブってちょっと強面な人たちのものってイメージがあったんですけど、そこではオタクの皆さんが集まってアニソンを聴きながらめちゃめちゃ楽しそうにしてる景色がすごく良くて……そこが自分的にはアニソンイベントの原風景でしたね。

株式会社OUT LOUD FACTRY・荻野晃平

ーーそうした2000年代末から2010年代にかけてのアニソンイベントでの体験が、後の“アニエラ”に繋がっていくわけですね。そこから2017年に“アニエラ”が初開催となるわけですが、いわゆるDJたちがメインとなるアニクラに対して、“アニエラ”では初回からきただにひろしさんや米倉千尋さん、橋本みゆきさんといった大御所のアーティストを含むフェスとなりました。コバヤシさんの中でも「フェスをやりたい」という想いがあったんでしょうか?

コバヤシ 新木場ageHaで開催されていた「あきねっと」という秋葉原MOGRA主催のイベントがあったですが、それが始めたいと思ったきっかけだったんですよね。これがライブとDJの融合しているイベントで、すごく衝撃を受け、長野の野外でこれやってみたいと思ったんです。そこから、当時すでに開催されていた”Re:animation”さんを参考にさせていただきました。僕も荻野くんも地元が長野県ということもあったので、自然の中でアニソンフェスをやりたいなという想いはずっとあって。それで会社を立ち上げたときに、よしやってみようと思い、開催に至りました。

ーーそれこそ初期のアーティストブッキングはどうだったのかなと。最初からスムーズだったのか……。

コバヤシ いえ、まったくスムーズじゃなかったですね。そもそも長野県を起点としてのスタートで、当時コネクションもほぼ持っていない状態だったので、とにかくアーティストの公式HPの問い合わせから連絡しまくっていました。



ーーたしかにツテも実績もないなかでのオファーはなかなかハードルが高そうなイメージがあります。

コバヤシ いやあ、本当に「なんだこいつは?」みたいな感じだったと思います(苦笑)。ノウハウもないし、今思うと失礼だったんじゃないかなと思うんですけど、とにかく熱量だけでガムシャラに。あと、荻野くんが少し“Re:animation”に携わっていたこともあったので、そこで少しずつノウハウを聞きながらやっていましたね。

荻野 アーティストさんのHPから問い合わせをコバヤシ社長が入れていたところで、これからどうやってやり取りをしていくべきか、のような相談を受けたところから、僕の“アニエラ”との関わりが始まりました。

コバヤシ 僕ら社員もスタッフのみんなも含め素人の集まりで、荻野くんしかわかっていないことが多かったから、なんとか事故なく終わったという感じでしたね。でも、とにかくスタッフのモチベーションがすごく高かったので、僕らからも「こうしたほうがいいよ、こうしてください」と伝えたことを全員がきっちりとこなしてくれたこともあり、大きな事故なくなんとか終われたっていう。



ーー加えて初回の白馬(岩岳スノーフィールド)から“アニエラ”は野外開催だったので、天候との戦いでもあったと思いますし……。

コバヤシ 当時は「とりあえず山があるし、大丈夫だろう」って思っていて、今考えると相当怖いんですけど(笑)。あのとき知識があったら色々解決策があったかもしれないんですけど、その当時はわからないことが多すぎて。当時の白馬の運営チームとも話し合っての結果だったんですけど、当日の朝に「天候不良でゴンドラ動かない」という話になって。本当はゴンドラで登って行った先にメインステージを組む予定だったんですけど、ゴンドラが動かないから上に行けないということになり……あれは前日に全部会場マップを変えたんだよね?

荻野 前日に全部変えましたね。

コバヤシ ゴンドラ動かないから、麓で全部のステージをやっていこう、と。

初年度ステージ

ーー本来はゴンドラに乗って麓と頂上のステージを回遊できる構想だったんですね。そうした自然のトラブルがあるのもフェスの怖さでもありますが、いずれにせよ初回をやり切ったという達成感は大きかったですか?

コバヤシ いやぁ、達成感はエグかったですね。たしか、終わったあとに荻野くんとハイタッチした記憶あるもんね(笑)。

荻野 あー、そんな気がする。あと、リョウくんと白馬の担当者さんが抱き合ってたのを覚えている(笑)。

ーーエモいですね(笑)。

コバヤシ 今考えると恥ずかしいですけど、達成感はありましたね。無事開催できて良かった。



不便なところを長野を感じてもらうことで補っている(荻野)



ーーそうした初回を経て、翌2018年には第2回が開催されましたが、それは早い段階から決まっていたんですか?

コバヤシ そうですね。そもそも毎年やるつもりで1回目をやっていたので。初回の反省点が山ほどあったので、そういう部分も改善しながら翌年に臨んでいきました。

ーーその翌年から現在まで、コロナ禍での中止はありながらも継続されていくフェスとなった“アニエラ”ですが、継続してアーティストに来てもらうためにお二人が大事にしていることはなんですか?

コバヤシ アーティストさんに対して意識していることは、“気持ち良く歌って帰ってもらう”ことですね。そもそも長野県で開催してるので、やっぱり自分たちの地元を楽しんで帰ってもらいたいんですよね。仕事として来ていただいているなかでも、例えば初年度は楽屋に名物のおやきを置いたりとか、長野を少しでも感じて帰っていただけたら、という部分は意識してやっていました。僕はもうそのくらいで、多分荻野くんのほうがそういう細かいところのケアが強いのかなと。

荻野 長野でやるということは、予算の都合で、普段のように設備をフル装備にすることは難しくて、となると不便なことは絶対に間違いないし、そこにはストレスが存在するはずなんですよね。なので、そういうところでも楽しんでもらうというか、コバヤシさんが言うように、長野を感じてもらうことで補っている感覚はあります。



ーーなるほど、野外ということも含めて設備が完璧にならない部分を補って余りあるホスピタリティというのは、過去に出演されたアーティストからもお話を聞きます。一方で、毎年開催されるなかでフェスとして巨大化していくわけですが、それに伴って現在は気を配ることも増えていったのかなと。

コバヤシ そうですね。今は鬼ほど増えてるんじゃないですか。

荻野 うん、鬼ほど増えましたね(笑)。

コバヤシ 規模も大きくなったっていうのもあるし、出演されるアーティストの方々も増えて、そもそも開催が2日間になったっていうのは大きいですよね。2019年までは1日だけだったので、2日となるとアーティスト数も倍になりますし、世のフェスの主催の方々は本当に大変だったんだなっていうのも、ひしひしと感じています。

ーー今は都市型のフェスと同様のケアが必要なくらいイベントの規模も巨大化したということですよね。そのなかでも“長野らしさ”や“アニエラらしさ“というものはしっかり残されていて、特にそれを感じられるのはお客さんの層ですよね。子供から大人まで、非常に幅広い層の来場があるところが特徴的かなと。

コバヤシ そうですね。会場が公園なので、普段利用されている方も来られるんですよね。あと近場にマレットゴルフ(木槌を使ったコンパクトなゴルフ)場とかもあって、そこでおじいちゃんおばあちゃんは早朝7時とかからゴルフをやられていて。そこはある種、駒場公園の味の1つとして捉えていて、当然運営チームとしてそこのケアをすることもあるんですけど、逆に良い雰囲気だなと。たしか2018年か2019年に近所に散歩に来ていたおばあちゃんが、当時はあった無料のDJブースに来て、そのDJが終わったあとに「あんた、良かったよ」って飴玉を渡してくれるっていうエピソードがあったんです。そういう瞬間を見ると、すごくほっこりしますね。



ーー駒場公園あるいは地域と融和したフェスという、ほかにはない形も大きな魅力ですよね。さて、そんな“アニエラ”が2020、2021年と新型コロナウィルスの影響で開催できなかった時期がありました。フェスを運営する立場として、あの2年間はどんな想いで過ごされていましたか?

コバヤシ もう、全然思い出したくない記憶ですね……。

ーー元々は2020年9月に予定したものを2021年に延期したのが、それも開催できずに中止となったわけですよね。

コバヤシ たしか、2020年は早い段階で中止の決定をしてたよね?

荻野 そう。ゴールデンウィーク明けには延期を決定していた気がする。

コバヤシ 何が起きているのかまったくわからない状況且つ、色んな人を巻き込んで動いていくうえでの難しさなどを考慮して結構早めに判断をしました。2021年は、毎年来てくれているお客さんや楽しみにしてくれてる方たちに2年間もイベントを届けられないのは嫌だと思って、様々な対策を考えながら進めていたんですよ。でもその頃に感染対策に対してルールが厳守されなかった公演などの報道があり、8月からフェス開催への風当たりが強くなっていったんですよね。

ーータイミング的に、フェスを行える雰囲気ではなかったですよね。

コバヤシ それまでは行政とも話をしながら「こういう感じでやっていきます」と進めてきたんですけど、あの辺りで一気に空気が変わって、多方面より公演に関する様々な意見などが届いて。僕らも、ここまで来ちゃったらさすがに難しいだろうということで中止せざるを得なかったんですよね。

荻野 2020年はライブやイベントなど予定されていたほとんどのものが中止になったりして、成立するのは配信だけという状況が多くて。2021年は少しずつ復活はしてましたけど、大きなフェスを実施するとなると計画があってもことごとく中止が続いた流れのなかで、特に一番厳しかったのが“アニエラ”の中止判断をした時期でしたね。

ーーそうした危機的状況を耐えて、2022年には久々の開催となりました。やっとフェスを開催できたときの想いはいかがでしたか?

コバヤシ 「やっとできたな」というのと、当日バチバチに晴れたんですよ。毎年天気が良くなかったので、すごく嬉しかったですね。あと毎年言っているんですけど、イベント前の今とかめちゃくちゃ大変で、荻野くんもヒイヒイ言っているところなんですけど(笑)、毎年この時期「もうやめたい!」って思うくらいしんどいのに、当日お客さんがアニソンや信州の食べ物、地酒を楽しんでいる姿を見ると、そんな想いも吹っ飛んで「来年もやろう!」って気持ちになるんですよね。特に2022年はその想いが強かった。コロナ渦もきつかったけど、頑張って耐えて良かったなと思いますね。

荻野 僕は2021年の「中止の判断をします」という日も、駒場公園の内覧に行っていたんですよ。お客さんの新しい入れ方をシミュレーションしよう、ということで。結局そこまでやったことが形にならずに1年間できなかったことが、やっと去年に開催できて、形になった嬉しさは大きかったですね。

“自分だけの夏の終わりの思い出”になったら(コバヤシ)



ーーそうした昨年を経て、今年も9月に開催されることになった“アニエラフェスタ”ですが、去年と比べて制限がないなかでの開催についてはどうお考えですか?

コバヤシ 去年は声出しができなかったり飲食も含めて色々な制限があって、今年はそれがなく開催できるということで、やっとお客さんに制限を強いることなく楽しんでもらえる場を提供できると思っています。元々野外フェスでは自由さや開放感を大事にしているので、あまりルールを増やしたり規制を増やしたりはしたくないという気持ちは強いんです。今年は制限がなく、本来見せたかった景色や体験してもらいたかったことがやっとできるのかなって、個人的にもワクワクしていますね。

荻野 制限がなくなることでお客さんが楽しめることが増えるし、それが増えたことでアーティストさんにもステージに立ったときやそれ以外の部分で楽しんでいただけるのかなと思いますね。



ーーまた、出演アーティストを見ても錚々たるメンツが名を連ねています。開催規模も出演アーティストの面でも現時点での手応えを感じられているのかなと。

コバヤシ そうですね。毎年僕らがその年に聴きたい、この2日間でこういった組み方をすればすごく楽しんでもらえるんじゃないかという、“僕たちが考えた最強のラインナップ”をイメージして主催陣で話し合いながら組んでいくんですよね。今年は特に制限もないということで協力してくださる方々も増えましたし、ご出演いただくアーティストの数もこれまでで一番多いので、楽しんでいただけるラインナップになったのかなと思っています。

ーーそれこそ2017年の頃の、問い合わせフォームからオファーしていた頃と比べると……。

コバヤシ そもそも2017年の頃は「誰だお前」って感じだったと思うので……。それでギリギリまで出演者が決まらなかったこともありました。今はもうそれが逆転して、僕が荻野くんに「もう一組呼びたいんだけど……」って言うと、「リハとか転換があるから無理!」って言われるくらいで(笑)。

荻野 嬉しい悲鳴ですよね、あの頃から考えると。

ーーそうしたなかでいよいよ目前に迫った今年の“アニエラフェスタ”ですが、最後にお二人から、改めて注目ポイントを教えてください。

コバヤシ じゃあ僕から。キッチンカーエリアというフェス飯が出る屋台エリアは今年もあるので、そこで長野県の食べ物や信州の名産が楽しめます。基本的に長野で事業をされている飲食店の方々をお呼びしているので、そういった長野県の名物を楽しんでいただきたいですね。あと長野県は地酒の蔵元が多くて、美味しい日本酒がたくさんありますので、地酒のラインナップも現在色々考えています。お酒でいうと、よなよなエールなどを展開されている軽井沢のヤッホーブルーイングさんも出展してくださるので、そこも楽しみにしていただけたらなと思います。

荻野 僕が個人的にすごく楽しみにしているのは、MYTH & ROIDさんが“アニエラ”に帰ってくるという。





ーー2019年以来となる最多出演アーティストですからね。やはり荻野さんとしてはライブをどう見せるか、というアップデートの部分を楽しんでほしいと。

荻野 はい、やはりポイントはそこになりますね。

コバヤシ 野外フェスは開催時間も長いですし、同じ場所にいるけれど全員が違う体験をすると思うんですよね。誰をどこで観るのかとか、この時間にご飯を食べようとか、翌日は観光しようとか。野外フェスは来てくれた人全員の思い出がそれぞれ違ってくると思うので、そういう“自分だけの夏の終わりの思い出”を作っていただけたらいいなと思っています。

●ライブ情報

ナガノアニエラフェスタ 2023



開催日:2023年9月16日(土)・9月17日(日)

時間:開場 11:00/開演 12:00※予定

場所:長野県佐久市『駒場公園』

住所:〒385-0011 長野県佐久市猿久保55番地

■チケットの詳細はこちら

https://aniera-festa.com/ticket/

■出演者※50音順

<9月16日(土)>

安月名莉子/上坂すみれ/梶原岳人/岸田教団&THE明星ロケッツ/木村良平/小林愛香/ZAQ/サンドリオン/白井悠介/太陽と踊れ月夜に唄え/高木美佑(Peaky P-key)from D4DJ/立花慎之介/寺島惇太/nonoc/Happy Around! from D4DJ/松永依織/MYTH & ROID/峯田茉優 /???

<9月17日(日)>

i☆Ris/angela/小原莉子/swing,sing/鈴木このみ/スピラ・スピカ/SERRA/寺島拓篤/凪原涼菜/南條愛乃/畠中祐/Who-ya Extended/FLOW/前島麻由/ライブレボルト/ラブライブ!虹ヶ咲学園スクールアイドル同好会<大西亜玖璃(上原歩夢役)、相良茉優(中須かすみ役)、林 鼓子(優木せつ菜役)>/Liyuu

主催 / 企画制作:ナガノアニエラフェスタ2023実行委員会

関連リンク



ナガノアニエラフェスタ 公式サイト

https://aniera-festa.com/

アニエラ 公式サイト

https://aniera.jp/