”類は友を呼ぶ” 「経済格差」よりやっかいな「ネットワーク格差」 【橘玲の日々刻々】
わたしたちは言葉を介して社会のなかでコミュニケーションする。同様に市場は、貨幣と商品・サービスを交換する複雑系のネットワークだ。このように現在では、世界を単純な数式で記述するのではなく、ネットワークとして把握しようとする試みがあらゆる分野で行なわれている。
「アメリカは人種によって分断されている」といわれるが、それはいったいどういうことなのか。ネットワークの科学はそれを明快に説明できる。
多様な人種の生徒が通うアメリカの高校の友だちネットワークを描くと、白人グループと黒人グループで2つの大きな島ができる。そこから計算すると、人種が同じ生徒同士では、人種がちがう場合よりも15倍以上、友だちができやすい。
友だち関係には濃淡があるだろう。そこで「放課後に街に出かける、週末いっしょに遊ぶ、電話で話す」などの「強い友だち関係」だけを抜き出すと、人種をまたぐ友だち関係はほぼすべて消えてしまう(この学校には255人の生徒がいるが、白人と黒人の「強い友だち」関係は数本しかない)。これが同類性(homophily)、すなわち「類は友を呼ぶ」効果だ。
社会的・経済的なつながりを研究する経済学者マシュー・O・ジャクソン(スタンフォード大学教授)の『ヒューマン・ネットワーク ヒトづきあいの経済学』(早川書房)は、こうしたネットワークの科学のわかりやすい入門書になっている。
ひとはみな、自分と似たひととつき合いたがる性質をもっている
分断と同類性はコインの裏表の関係にある。ひとはみな、自分と似たひととつき合いたがる性質をもっている。こうして似た者同士が集まると、「自分たちと似ていない」集団とのあいだに分断が起きる。同類性は、ジェンダー(性別)、民族、宗教、年齢、教育レベル(大卒/非大卒)、婚姻関係、職業、現在の雇用状況(働いているか、失業者か)など、社会のあらゆるレベルで現われる。
ドイツの婚活サイトで10万人以上を対象に行なった調査では、女性利用者の初回のコンタクトメッセージは、学歴の似た男性に送る可能性が平均より35%高く、自分より学歴の低い男性に送る可能性は41%低かった。男性は年齢(若さ)など別の要素に注目するため学歴にはさほどこだわらないとされるが、それでもメッセージを送った割合は自分と同程度の学歴の女性が15%多く、自分より低い学歴の女性は6%少なかった。
一方、アメリカではオンラインデートの利用者は100万人にのぼるが、異性愛者でも同性愛者でも人種に強い同類性を示すことがわかっている。学歴など他の要素を補正したあとでもこの傾向は変わらない。
ひとはなぜ同類に惹かれるのだろうか。その理由のひとつは、同じ境遇を経験したひとの方が役に立つからだ。歯が痛いときは、盲腸の手術をした知人よりも、虫歯で歯医者に通っている知り合いにアドバイスを求めた方がいい。同様に(思春期前の)子どもたちは、同年齢で性別が同じ相手と友だちになろうとする。
もうひとつの理由は、同類といっしょの方が安心できるからだ。わたしたちはつねに他者の反応を予測しようとしているが、このとき予想外の反応をされると大きな不安を覚える。「わけのわからないことをする相手」は生存への最大の脅威なのだ。
それに対して同じ環境を共有している相手なら、どのようなふるまいをするか予測しやすい。家族や親せき、中学・高校の同窓生などとのベタな共同体から出たがらないひとがいるのは、見知らぬ他者が不安を与えるからだろう。
同類を好むのは保守的なひとたちだけではない。シリコンバレーのパロアルト(アップルの本社所在地)では住人の13%が博士号をもっており、しかもこの数字は、教授などが多く住むスタンフォード大学周辺は入っていない。
シリコンバレーの同類性はイノベーションの源泉でもある。地元のカフェで最新のテクノロジーについての会話が聞こえてくればつねに刺激を受けるし、会話に入って新しい知り合いができるかもしれない。こうした「知的ネットワーク」があると、伝手をたどって会社から会社へと転職できるから一種の雇用保障にもなる。
シリコンバレーは家賃がとてつもなく高く、公共交通機関も歓楽街もなく、けっして住みやすいとはいえないが、それでも世界じゅうから天才たちを引きつけるのはこのネットワーク効果があるからだ。
同類性にはポジティブな影響(正の外部効果)があるが、同時にそれが分断をも引き起こす。とはいえ、ヒトはみな「差別主義者」というわけではない。
2005年にゲーム理論でノーベル経済学賞を受賞したトーマス・シェリングは、自分と異なる人種が隣にいることを嫌う「差別」ではなく、たんに自分と同じ人種の世帯が最小限いることを願っているだけで、ホワイトフライト(白人の郊外への転出)のような社会の分断が起きることを証明した。
「近所(隣接する8世帯)のすくなくとも3分の1は自分と同じ人種であってほしい(自分が圧倒的な少数派にならなければいい)」というかなり寛容な基準を用いても、異なる人種が半分になると2つのグループに「分断」されてしまう。現実には、黒人の転入者が5〜20%のあいだで白人たちは出ていってしまった。
外部性は「ある人のふるまいが他者の幸福に影響すること」で、ネットワークでは正の方向にも負の方向にも強い外部性が生じる。みんながワクチンを接種するのが「正の外部性」で、基本再生産数が1を下回れば感染は収束する。それに対して「負の外部性」では、もともとは小さな好みの偏りがネットワーク効果によって増幅され、共同体を分断してしまう。
近年では、インターネットやSNSによって負の外部性がさらに強力になっている。研究によれば、インターネットに接続されていないときと、完全に利用可能になったときとを比べると、その地域の政治の二極化が22%拡大した。インターネットアクセスの増加は偏ったニュースの追随者を増やし、社会の分極化につながるのだ。
インターネットの利用が増えるほど投票率が高まり、政党の力関係を変化させるが、ふつうのひとが「極右」や「極左」に変貌するわけではない。SNSは、「すでに強硬な意見をもっている人たちを勢いづける」ようなのだ。どうやら、「ほかの人も自分と同じような考え方をしていると、人は自信を得て、その考えを共有している人がほかにもおおぜいいると過大評価する傾向がある」らしい。
