「弱くて地味で50年間赤字」そんな千葉ロッテを黒字球団に変えた3つのアイデア
※本稿は、山室晋也『経営の正解はすべて社員が知っている』(ポプラ社)の一部を再編集したものです。

■球団運営は「広告代理店の経営」と同じ
「ロッテブランドを高めてほしい」
オーナーからいただいた「3つの指令」のひとつです。おそらく、日韓をまたぐ巨大なコングロマリットのロッテグループのブランド価値の向上という意味での発言だったと思いますが、子会社の立場で全社のブランディングは困難であるため、私なりに千葉ロッテマリーンズのブランド価値向上に置き換えました。
選手が入れ替わっても、監督・コーチが入れ替わっても、千葉ロッテマリーンズというチームのファンが変わらずファンであり続けたいと思い、新たに野球を見始めた人が「千葉ロッテマリーンズを応援したい」と思うような何か。それが千葉ロッテマリーンズの「ブランド」なのでしょう。
「マリーンズブランド」を高めるも何も、そもそも「マリーンズブランド」とは何なのか。社員に聞いてみても、自覚している人は誰もいませんでした。
そのためまずは「マリーンズブランド」を明確にすることからのスタートでした。そのような状況を知ってか知らずか、外部のコンサルティング会社が「御社のブランディングを手伝います」と営業をかけてきましたが、私はすべて断りました。
球団運営とは、「広告代理店」のようなものだと私は考えています。「千葉ロッテマリーンズ」というチームをコンテンツ化し、グッズを製作して販売したり、球場やユニフォームに広告を出稿してもらったりしているわけですから、「広告代理店」というニュアンスもわかっていただけるでしょう。
「千葉ロッテマリーンズ」というコンテンツを商品としている広告代理店が、「千葉ロッテマリーンズ」の価値がわからず、ブランディングを外部のコンサルタントに任せる。こんな笑い話はありません。
私たちは自社内で、「マリーンズブランドとは何か」を話し合うことにしました。
■見いだした「3つのブランド」
必ずしも立派なものでなくていい。「これが千葉ロッテマリーンズだ」と誇れるものは何だろう。それらをとがらせていけば、「マリーンズブランド」を高めることにつながる――私たちは自由に話し合いました。
その結果、いくつかの「ブランド候補」を見つけることができました。
・日本一の熱い応援
・勝利のときのコール&レスポンスの「WE ARE!」は千葉ロッテマリーンズの名物
・習志野高校吹奏楽部の美爆音応援
・ピンストライプのユニフォーム
・交流戦の風物詩ともいえる「他球団挑発ポスター」
そこから次の3つのブランドを考えました。
1つ目は「意外性」。
当時の千葉ロッテマリーンズは「Bクラスの常連」であり、決して強いチームではありません。
しかし2005年には、レギュラーシーズンを2位で終えながら、プレーオフでレギュラーシーズン1位の福岡ソフトバンクホークスを下して逆転優勝。その勢いのまま、日本シリーズでは阪神タイガースを破り、日本一の座に輝きました。
5年後の2010年には、シーズン3位でありながらクライマックスシリーズを勝ち抜き日本シリーズ進出。「プロ野球史上最大の下克上」を合言葉に、セ・リーグ王者の中日ドラゴンズを下し、日本一に上り詰めました。
「千葉ロッテマリーンズがクライマックスシリーズに進出すれば、何かが起こる」
「5年に1度、何かが起こる」
この「意外性」は十分、ブランドになり得ると考えたのです。
また、1998年には「18連敗」というプロ野球史上最長の連敗を喫しながら、熱いファンは一切、離れませんでした。これもある意味「意外性」として、球団は誇りに思っています。
■「千葉ロッテマリーンズの応援歌」は甲子園で最も多く歌われている
2つ目は「日本一の応援」。
声と手拍子を中心とした独特の応援スタイルで、たとえリードされていても決してあきらめない応援の威圧感など、千葉ロッテマリーンズの応援は多くのプロ野球ファンから日本一と言われるとともに、相手チームにしばしば恐れられているほどです。そして、なによりも甲子園の高校野球の応援で最も多く採用されているのが千葉ロッテマリーンズの応援歌です。
くわえて、甲子園の「美爆音」応援で知られる、習志野市立習志野高校吹奏楽部も定期的に千葉ロッテマリーンズの応援に駆けつけてきていただいています。
3つ目は「突飛なファンサービス」
千葉ロッテマリーンズの交流戦の風物詩ともいえる「他球団挑発ポスター」は、私が社長に就任する前年の2013年以前から始まっていたものです。他球団の協力やファンの盛り上がりのおかげで話題になったこともあり、「新たなファンサービスを千葉ロッテマリーンズのブランドにしよう」という機運が社内でも高まりました。
「みんなで『恋するフォーチュンクッキー』」「マリンフェスタ」「マリーンズカンパイガールズ」「謎の魚」……そのどれもが、「突飛なファンサービスを千葉ロッテマリーンズのブランドにしよう」という社員たちの気概の成果なのです。
「日本一の応援」
「突飛なファンサービス」
私たちはこれらを「マリーンズブランド」と定義し、磨きをかけ、ファンやスポンサーにアピールしていくことになります。

■選手の自然な姿を発信すると、ファンから大きな反響があった
「弱い」「地味」「首都圏のローカル球団」
ともすれば首都圏の大手主要メディアからは埋没しがちな千葉ロッテマリーンズにとって、球団自らが情報を発信できるSNSの発達は大きな追い風となりました。
ブランド力を高め、ファンを増やすには、メディアの力が必要不可欠です。しかしテレビや新聞、雑誌にはどうしても「尺」や「スペース」の限界があります。
シーズン中は、ニュースの内容は試合結果や成績が中心になりますから、「千葉ロッテマリーンズ」というチームの特色を伝えるチャンスにはなかなか恵まれません。
一方のシーズンオフは、たとえば「入団した注目新人に親会社・ロッテのお菓子工場を見学してもらう」など、画になるニュースがあればテレビも尺を割いてくれますが、限られたスポーツニュースの枠を多くの競技、そしてプロ野球12球団で取り合うとなると、千葉ロッテマリーンズをまるまる取り上げていただく機会にはなかなか恵まれないのが実情です。
「意外性」「日本一の応援」「突飛なファンサービス」というブランドの軸を定めたものの、広く打ち出す機会がないのでは宝の持ち腐れに終わります。
そこで味方になってくれたのが、球団自らが情報を発信できるSNSです。
2013年に公式YouTubeチャンネルを開設。試合前に円陣を組んで声を出したり、勝った試合後にロッカールームでリラックスしながら試合を振り返ったりといった、選手の自然な姿を発信すると、ファンから大きな反響をいただきました。

■YouTube開始後、数年にわたり12球団で再生回数トップ
いずれも、いくら熱狂的なファンでも、テレビを見たり球場に来たりするだけでは見えない部分。球団広報自らが世の中に発信することで、ファンも「この選手、試合以外ではこんな一面があるんだな」と感情移入しやすくなったことでしょう。

また「ドラフト会議舞台裏」と題した動画では、私をはじめとするフロント陣と監督がどのような意気込みで会議に臨んでいるかが伝わるはずです。
現役選手が一切映っていないこの動画もやはり、「千葉ロッテマリーンズはどのような球団か」を知っていただくきっかけになるのではないでしょうか。YouTube開始当初の数年は、12球団で再生回数トップを走っていました。今ではインターネット関連が親会社の本業である横浜DeNAベイスターズや東北楽天ゴールデンイーグルスなどには発信力で劣るかもしれませんが、「何をブランドとするか」から考えながら、手探りで始めたYouTubeチャンネルにしては、面白いコンテンツが揃っていると自負しています。
これからもさらに、面白いコンテンツがどんどんアップされていくことでしょう。
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山室 晋也(やまむろ・しんや)
エスパルス社長
前・千葉ロッテマリーンズ社長。1960年三重県生まれ。立教大学を卒業、第一勧業銀行(現みずほ銀行)入行。4店の支店長を経験し、支店長在任17期中15期で総合成績優秀賞を受賞。11年から執行役員、13年にみずほマーケティングエキスパーツ社長、その経歴から「リアル・半沢直樹」とも言われる。同年千葉ロッテマリーンズ顧問を経て、14年に社長就任。営業利益マイナス25億円(着任前の直近5年間平均)の千葉ロッテマリーンズを、6年間で「創業以来初の単体黒字」「売上1.8倍」「球団創立以来最多観客数」を達成する。20年より現職。
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(エスパルス社長 山室 晋也)
