「10年後のマイナーチェンジ」は縁起が悪い!?

 ミニバンは今でも国内の売れ筋カテゴリーで、新車として売られるクルマの15%前後を占める。そのなかでも日産エルグランドは、Lサイズミニバンの代表として知名度が高い。

 しかし現行型の発売は2010年だから、すでに10年が経過する。そこで日産はエルグランドのモデルチェンジを行うが、マイナーチェンジだという。そこで販売店に事情を尋ねた。

「エルグランドは発売から長い時間を経過しますが、フルモデルチェンジではなくマイナーチェンジを実施します。それでも従来型から新型に乗り替えるお客様は少なくありません。正式な発売は10月12日で、フロントマスクの質感を高めて安全装備も充実させます」。

 発売から10年後にマイナーチェンジを行ったミニバンとして、最終型のトヨタ・エスティマも挙げられる。2006年に発売され、2016年にフロントマスクなどを大幅に変えるマイナーチェンジを実施して2019年に廃止された。その後にエスティマは登場していない。

 つまり「10年後のマイナーチェンジ」は、縁起の良い話ではなく、現行型で打ち切られる可能性も高い。従来型のトヨタ・ヴィッツは2010年に発売され、2020年に現行ヤリスにフルモデルチェンジされた。悪路向けのSUVや商用車などフルモデルチェンジの周期が長いカテゴリーを除くと、車種を継続させるには、最長10年でフルモデルチェンジをする必要がある。

 この時期を逃すと、マイナーチェンジを実施しても、走行安定性や乗り心地などに古さが目立ってしまう。衝突被害軽減ブレーキなどの安全装備も、フルモデルチェンジしない限り抜本的に高めるのは難しい。また発売された年に購入したユーザーが、2回目の車検直前の5年後に後期型へ乗り替えたとしても、その後は新型に乗りたいだろう。10年を経てもフルモデルチェンジしないと、ユーザーが離れる心配も生じる。

 それならなぜエルグランドはマイナーチェンジなのか。この背景には複数の理由がある。

エルグランドのフルモデルチェンジにはリスクが伴う

 まずミニバン市場全体の先行きが不透明なことだ。ミニバンは一部が海外でも販売されるが、基本的には日本向けの商品になる。ミニバンの主要顧客はファミリーだが、少子高齢化が進み、今後もミニバンを堅調に販売できるか分からない。

 しかも日産ではセレナの売れ行きが好調だ。空間効率が優れ、ミドルサイズでも大人の多人数乗車を可能にする。3列目シートを格納すれば自転車などの荷物も積みやすい。ハイブリッドのe-POWERも設定して、売れ行きを伸ばした。

 このセレナに比べてエルグランドは商品力が低い。Lサイズミニバンなのに、3列目シートは床と座面の間隔が不足して、膝の持ち上がる窮屈な座り方になる。3列目の畳み方は、左右跳ね上げや床下格納ではなく、前側に倒す方式だ。3列目を畳んだことで荷室の床が持ち上がり、荷室高が不足して、自転車のような大きな荷物を積みにくい。

 そしてエルグランドの全高はアルファード&ヴェルファイアに比べて100mm以上低いから、重心が下がるメリットはあったが、室内高も100mm下まわる。背が低いために外観の見栄えも貧弱で、2020年1〜8月の登録台数は、1か月平均で約300台にとどまった。ライバル車のトヨタ・アルファード(ヴェルファイアを除く)は、1か月平均で6500台だから、エルグランドの売れ行きは5%だ。

 こうなるとエルグランドのフルモデルチェンジにはリスクが伴い、ミニバンはセレナに集中させたほうが安全と考えるだろう。少なくとも現行エルグランドとセレナを比べると、3列目の居住性、荷物の積載性、シートアレンジは、ボディがコンパクトなセレナが勝る。そうなると「エルグランドをフルモデルチェンジしても、身内のセレナに負けるのではないか」という心配まで生じる。

 しかし、だからといってエルグランドを廃止するのは惜しい。売れていなくてもフーガやシーマの登録台数は上まわり、フォーマルなミニバンだから、アルファードのように法人需要も多少は期待できる。さらに売れ行きがもともと芳しくなかったから累計生産台数も多いとはいえず、開発費用を償却したあとの利益が十分に確保されていないことも考えられる。これらの事情から、中途半端ともいえるマイナーチェンジを実施するわけだ。

 1997年に発売された初代エルグランドは、ヒット作になって日産のブランドイメージを高めることにも貢献した。その意味では今後もエルグランドの意欲的なフルモデルチェンジを望みたいが、今の日産には難しい課題かも知れない。