どこでもテレビが見られる

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ソニー・インタラクティブエンタテインメントのネットワークレコーダー「nasne(ナスネ)」が、近日出荷を完了される予定だと、2019年6月下旬までに、公式サイトで発表された。各社報道によると、後継機の予定はないが、サービスは当面継続するという。

nasneは当初、プレイステーション(PS)の周辺機器として生まれたが、ソフトウェアのアップデートを重ねるにつれ、スマートフォンやタブレットにも対応。テレビの視聴習慣を変える――といっても過言ではないガジェットに進化していた。

「見ず知らずの人とテレビを一緒に見ている」感覚

nasneは、地上波とBS、110度CSのデジタルチューナーと、ハードディスクを内蔵している。また、その名の通り「NAS(ネットワークアタッチトストレージ)」でもあり、機種内に保存した動画や画像、音楽などへネットワーク越しにアクセスできる機能も持っている。

12年8月の発売当初は、PS3専用ソフト「torne(トルネ)」と、(当時)ソニーのパソコンであった「VAIO」向けアプリのみに対応していた。PS3経由で、録画した番組を書きだせる機能も持っていたが、対象となる機種はPS VitaやPSP、ウォークマンなどと、一部ソニー製品に限られていた。

14年からはAndroidやiOSでも再生可能になったが、15年3月の「torne mobile」登場によって、PSと同様の操作感が実現した。17年10月には、番組の書き出しにも対応し、名実ともにtorneのモバイル版になった。

torne最大の特徴は、双方向性だ。多くのユーザーが録画予約をしている番組を「ランキング」で見られたり、背景に「ニコニコ実況」のコメントを流しながら視聴できたりと、インターネット越しに見ず知らずの人々と、テレビを一緒に見ている感覚を味わえる。

「実況」で時空を超える

かくいう筆者も、nasneユーザーの一人だ。13年冬、当時発売された「PS Vita TV」ともに購入してから、ほぼtorneでテレビを見ている。せっかちな私は、字幕表示で2倍速にするのがお気に入り。週末のたびに、1週間のドラマやバラエティーをまとめて見ている。

標準で「ニコニコ実況」を流せるのは、放送後10日以内の番組に限られているのだが、ニコニコ動画のプレミアム会員であれば、その制限はなくなる。ニコ動は最近ご無沙汰だが、この機能のためだけに毎月540円を課金している。番組をただ見るだけでなく、「連帯感」や「臨場感」を味わうためなら、お得と言っていいだろう。

時たま、自宅でビール片手に、過去のNHK紅白歌合戦を見る。5年間のストックから選んで、気になる出場歌手にスライダーを合わせると、実況とともに熱唱が流れてくる。「ああ、こんな曲が流行ってたなぁ」。ちょっとしたタイムスリップ感覚だ。ひとりでも、移動中でも、そこにはお茶の間があらわれる。

愛用者からは「月額課金」待望の声も

nasneの定価は、2万3760円。torne mobileはダウンロード無料で、テレビ視聴機能が500〜600円、録画番組の書き出しが840円の買い切りになっている。回線通信料やNHK受信料といった月々の支払いは必要だが、基本的には2万5000円程度で、快適なモバイル視聴環境が手に入る。そのため、流行りのサブスクリプション(定額制)になってもいいから、サポートを続けてほしいという愛用者のツイートは絶えない。筆者も同感だ。

「月額300円なら出す。クラウド上で保存できるなら700円」
「月額数百円なら払うから、なんとか継続してもらえないだろうか」
「売り切りじゃなくて月額課金制になっても良いから継続してほしい」

2000年代前半、「通信と放送の融合」なる言葉が、世間の注目を集めた。総務省主導で環境整備が進みそうになったが、IT企業の買収攻勢により、放送業界が「アレルギー」を抱いたことで失速し、いつしか人々の記憶から消えてしまった。

あれから10数年、民放各社が「TVer(ティーバー)」での見逃し配信をスタート(15年)し、先日(19年5月)の放送法改正で、ようやくNHKのインターネットサイマル(同時)放送が可能になった。それ以前の「谷間」とも言える時代の中で、放送局でもネット企業でもないメーカーが、両者を飛び越えた「テレビの未来」を提案し続けていたことは、決して忘れてはいけないだろう。

(J-CASTニュース編集部 城戸譲)