高校球児にとって甲子園は絶好のキャリアステップの場所(写真はイメージ)

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 地方への移住を推進するNPO法人ふるさと回帰支援センターが発表したデータによると、39歳以下の移住相談の割合が10年間で18%から50%にまで増加した。相談内容も一昔前はリタイア後に地方で悠々自適な生活を希望する相談が多かったが、近年は移住先での就業環境についての相談が増加している。

 国の政策としても東京一極集中の緩和を目的として地域おこし協力隊の募集枠も拡大することが発表され、さらに地方で起業する場合の金銭的な支援策も新設される。

 その一方で「若いうちは競争激しい東京で鍛えるべきだ!」という声や「地方に移住したらキャリアに傷が付く」という考えも存在する。確かにマーケットが大きく競合も多い東京で働くことで得られることは多い。しかしながら、キャリアアップを考えればなおさら、地方に移住したほうが有利なケースが多い。

最も勝ち上がる確率の高い福井県
 夏の風物詩でもある全国高校野球選手権大会、通称「夏の甲子園」は全試合が全国中継され、最近は週末の試合であれば満席になることも珍しくない。

 プロ野球や大学、社会人野球のスカウトがネット裏に控え、ストップウォッチとスコアブックを片手に有望な選手を探している。甲子園は高校球児が最も憧れる聖地で、自身の次のキャリアが決まる大事な舞台なのだ。

 この甲子園に出場できるのは都道府県の予選を勝ち抜いた1校のみだ(東京と北海道は2校)。しかし、都道府県によって人口にばらつきがあり、もちろん出場校の数も違う。最も激戦なのが毎年約200の高校が出場する神奈川県で、逆に最も勝ち上がりやすいのは29校の福井県だ。

 神奈川県大会だと5回勝ってようやくベスト8にも関わらず、福井県大会であればシードに残れば4回勝てば甲子園に出場できるのだ。

 この差を利用して行われるのがいわゆる越境留学で、激戦区に住む野球が上手な選手が福井県や高知県などの高校の数が少ない県に引っ越して主に私立高校から甲子園を目指すのだ。

 選手としてはキャリアパスに直結する甲子園出場の可能性が上がり、高校としても知名度が上がることで入学者が増えるなど、お互いにとってメリットが生じる。

ビジネスで起こらない「越境留学」
 しかし、これがビジネスやキャリアの分野になると全く逆のことが起こっている。いわゆる夢や目標を持っていたり、物事に対して積極的な人、(定義と測り方は別として)能力の高い人ほど激戦区の東京を目指す傾向がある。

 たしかに昔は東京から情報が発信され、モノとチャンスも東京に集まっていたので仕方ない面もあったが、現代になってもなお東京を目指し続けている。

 キャリアアップの世界も甲子園と同じで、各都道府県に「枠」が用意されている。全国から集まる激戦区の東京を勝ち抜いても、人が少ない地方から勝ち抜いても、全国大会の甲子園で対等な立場で出場できるのだ。

大学中退からいきなりテレビ出演した移住者
 例えば、私の住む日南市には中央大学を中退してイチゴ農家に転身した渡邉たいぴー(愛称)という若者がいる。彼はイチゴを作りながら、地元のお祭りでバルーンアートを行ったり、塾を開いたりしている。

 東京だと「大学中退した変な若者」というある種レッテルを貼られていたかもしれないが、日南市では人手不足に悩むなか新規就農してくれ、地元のお祭りを盛り上げてくれ、子どもたちに勉強を教えてくれる救世主となる。

 実際、彼は地元のテレビや新聞でひんぱんに登場している。日南市で行われた国家公務員の研修で講師を務めたり、地元の国立大学で300人に向けて起業家論の講話をしたり、宮崎県内ではそこそこ有名人だ。

 彼は地方に越境留学して甲子園に出場し、多くのスカウトにアピールし、キャリアを切り開いている好事例だ。確かに彼のセンスとバイタリティとキャラクターは素晴らしい。