「サンタの故郷」フィンランドの在日大使館で、セレブ女子と裸のサウナ外交した
■フィンランド大使館にお呼ばれした!
メリークリスマス!「サンタクロース村」が随一の観光スポットになっている、フィンランド。その日本大使館から謎の招待状が届いた。それはいわば、「女性だけのサウナ外交ナイト」。国内外のセレブの女性と“裸の付き合い”をした女性編集者のどきどき体験記。
▼慰安旅行にサウナ外交、裸の付き合いはビジネスに好影響?
“裸の付き合い”という言葉がある。
同じ部署の慰安旅行で親睦を深めたり、取引先とゴルフの後のシャワーとビールで新たなビジネスチャンスを掴んだり。まあ裸でなくても喫煙室、いわゆる“タバコ部屋”での立ち話や接待の飲み会は往々にして男性中心の世界で、なかなか女性は入りにくい。
とはいえ最近は、組織で昇進するためにタバコを吸ったり、ゴルフを始めたりする女性もいる。とりわけ管理職の上の方へと上り詰めた女性たちで実際そうした“親睦”をするケースは少なくない。
さて、これは日本だけの話なのだろうか? 数年前にフィンランドを訪れた際に、あるフィンランド人のビジネスパーソンがこんな話をしていた。
「フィンランドは、リラックスするときにはサウナに入って体を温め、家族や友人といろんな話を楽しみます。日本の温泉文化と似ていますよね。ビジネスの現場でも、重要な契約を決めるようなミーティングの後は、クライアントと一緒にサウナに入って親睦を深めることもあるんです。サウナには、男女別なモノもあれば混合のモノ(いわゆる混浴?)もあり、女性が昇進するには、こういうビジネスの男性のサウナに入っていかないといけない、っていうジョークがあるくらいですよ」
日本にも混浴風呂はあるが、ビジネスの場で入ったらそれこそセクハラだ。男女平等の手本としても有名な北欧のフィンランドでも、そんな男性社会に女性が入り込むための試練が本当に存在するのだろうか?
■大使館のサウナで裸の女子会トーク
▼ビジネストップの女性たちは、子供と夫の話に花咲かせる
そんな疑問を解明する機会が訪れたのは、今年の夏のこと。以前、取材を通して仲良くなったフィンランド大使館の広報さんから、突然謎めいたイベントへの招待が届いたのだ。
そのイベントとは、言うなれば「女性だけのサウナ外交ナイト」。招待客は、東京・広尾にあるフィンランド大使館の中にあるサウナに入り、会話を楽しむというもの。
日本にありながら異国。普段は中に入ることのない海外大使館の中に、仕事でもなく入れる上に、初めて会う女性たちといきなり裸で仲良くお話を楽しみましょう、というのである。興味が先走ったものの、さすがに「は、裸ですか?!」と電話口でたどたどしくなってしまった。
「一応バスローブやタオルもありますので、気になるようなら巻いてサウナに入れるので大丈夫ですよ」と全く特別なことでもないかのように、優しく答える広報さん。そうかよかった、と安堵し、「じゃあ、ぜひ伺います!」と言った私に、電話を切る間際に広報さんがぽそっと言った。
「よかったですー! ほかにも国際機関など日本を代表する女性たちがいらっしゃいますから」
「タオルも持ってきてね」と言うような軽い口調だったが、電話を切ってから青ざめた。アルファベットが3つか4つでできた有名国際機関の、しかもトップ!
自慢ではないが、ある程度の英会話はできてもビジネス会話をできるほどの英語力も知識も持ち合わせていない。しかも、日々細々と仕事をしている雑誌編集者が、そんな女性トップリーダーたちに囲まれ、しかも裸でなんの話をしろと言うのだろうか。
そもそも、裸じゃ名刺も持っていけない。肩書きなんてお互いに関係ないのだろうが、女性トップともなればきっと肉体も鍛え上げて美しいのだろう。そこにどんな姿で入って行けと言うのだろう……。
自分の知識を増やすにも、体を磨きあげるにも、どちらも一夜漬けではどうしようもないことは明白過ぎる。一緒に招待されたフィンランドに長年住んだ経験のある女性と待ち合わせて向かうことにした。いざとなったら、彼女の動作を真似していけばいいのだ。
■女性の国際機関トップや官僚が大集結!
▼男性厨房入るべし。女性バスローブでワイン片手に語るべし
さて当日、フィンランド大使館の奥にあるラウンジルームには、続々と女性リーダーたちが集まってきた。
さすがに遅刻をしてはまずいと15分ほど前には到着。まだ1、2人だったため、子育て体験をつづった書籍を出版した「イクメン広報」として有名なミッコ・コイブマー参事官(現在は別の参事官が赴任中)や日本人の女性広報さんたちと楽しく会話。さらに、フィンランドからインターンに来ているという20代の男子学生さんがワインやカクテルを注いで歓迎してくれた。
「今日は、女性の会。私と彼はバーテンダーやシェフ役です。サウナはご一緒できませんが、楽しんでください」とミッコさん。
人数が少ないうちは、携わっている仕事やフィンランドとの関係などを自己紹介に変えることで、見知らぬ同士も会話が進んでいたが、徐々に国際機関の代表やら官公庁の女性リーダーたちが集まり始めた。教育系の国際機関や、日本の女性の活躍を推進するような大きな団体、国際的なコンサルティングファームのトップなどだ。こういう人たちが本当の「セレブリティ」なのだろう。その気品ある風格に圧倒され、気持ちと体は自然と端っこへ。
大使館の2階ラウンジには東京タワーの見えるバルコニーがあり、涼しい夏の夜風を楽しみながらワインと会話……といきたいところだが、やはり気持ちと体は隅っこへ。
こんな女性リーダーたちの間で、きっと相手にもしてもらえないのではと思っていたが、さすが国内外のビジネスシーンを渡ってきた女性たち。肩書きや年代なんて全く気にせず、前から知っていたかのように笑顔でサラっと話かけてくれるのだ。その時、ビジネスで値踏みをするような話は絶対にしないのも、社交に長けたセンスを感じさせる。
「子どもがアメリカの学校に通っていて、卒業式に出るために現地からさっき戻ったばかりなの。いい卒業式だったわ」
「今日は少し雨が降っているけど、私晴れ女なのよ。この前もね……」
女性同士がつながりやすい子育て、最近の身近な出来事、夫の話などを、まるでバス停で出会った人かのように話し始める。
おかげでこちらも難しい話はしなくていいんだという気になってきた。参加者の中では、役職的なレベルはもちろんのこと、年代も1番下の私と友人。それでも引け目を感じさせないでくれたのは、トップに上り詰めた女性こその気遣いや気さくさ、そしてこれこそ社交術だった。
彼女たちは普段、国際会議などで顔を合わせているメンバーも多いのだが、決してそれ以外のメンバーに疎外感を感じさせない。「これ、おいしいけどどうやって作るのかしらね」「お子さん今何歳?」と話を振ってくれたり、ちょっと会話に乗り遅れているとそっと背中に手を回してくれたりする気遣い。
世間では異業種交流会が人気だと聞くが、これこそ本当の異業種交流会であり、ただ名刺をかき集めたり、キャリアにプラスになる相手を捕まえるだけのハンティングではない、社交の場だと思えた。
■女性セレブとのサウナトークとフィンランド料理!
しかしながら、通常の集まりと何か違うことをあげるとすれば、やはり語学力かもしれない。
実際に外国籍の人は3分の1程度だったが、フィンランド人、日本人というくくりだけでなく、海外に長く暮らす人、英語圏で育った人、様々なバックグラウンドの人が集まる中、テーマに合わせて、話す人に合わせて英語と日本語が入り混じり、誰もそれに違和感を感じていない様子。英語に助けられた瞬間だった。
さらに、参加者の半分近くが国際結婚をしていることもあり、異文化で育った夫との暮らしを面白く話すことで、笑いが広がり、距離が縮まっていった。
▼肝心のサウナの話
フィンランド大使館には、実は2つサウナがあるらしく、1つは職員用、1つは大使専用だそうだ。
ゲストには大使専用を使ってもらっているという話だった。何と光栄な。「日本にある在外大使館の中でも、サウナがあるのはフィンランド大使館だけじゃないですかね」とミッコさんは誇らしげに語った。
私たちが使わせてもらったのは、そのゲスト用サウナ。ラウンジからそのまま扉がつながっており、手前にシャワールーム、奥に2段式になったサウナルーム。5人も入ればいっぱいなので、2組に分かれて交代で入ることになった。すでに気後れしている私は、後半グループに。
バスタオル、バスローブなどがすでに用意してあり、センスのいいスーツやワンピースを着ていた女性たちも更衣室でバスタオル1枚になって、サウナルームへ。
自分の番の体験から説明すると、まずはタオルでシャワールームへ。(もちろん裸で)シャワーを浴びたら、バスタオルを再び巻いてサウナルームへ。上の段ほど気温は高いが、室内は暑すぎるというほどでもなく、意外と快適。
ヒーターの上に敷き詰めてある石に杓子で水をかけるとジューっという音とともに煙が上がり、湿度が上がっていく。みな修学旅行の風呂場のようなウキウキしながらきゃっきゃっと会話し5分も経つと、「そろそろギブアップ……」と1人、また1人と扉の外へ。
そしてシャワーを浴びて、用意された真っ白のバスローブに着替えて、再びラウンジへ。フィンランドでは、サウナが森の中にあり、サウナで温まったら目の前の湖へ飛び込み、冷えたらまたサウナ、と繰り返すのが本場の楽しみ方らしい。
白いバスローブ姿の女性たちにはワインと料理が提供された。男性陣が腕を振るったフィンランドのキノコなどが入ったスープやパスタ……なんとも言えぬ至福の時間。会話も弾み、お酒も進む。
そのうち、「せっかくだからバスローブで写真を!」と誰かが言い出し、バスローブで赤ワイン片手に東京タワーを背景にみんなで記念写真。
後日、酔いの冷めた頭で見たその写真には、明らかに場違いな人がいた。バスローブに包まれたちんちくりんな私が、美しい女性たちに囲まれていた。う、浮いている……。だが、服を着ていたとしてもなかなか会えない女性リーダーたちと裸のお付き合いができたことは、まさに一夜の光栄な夢だった。
(エディター 岩辺みどり=文 フィンランド大使館=写真提供)
