現在の日本代表には、招集されても試合のとき、ベンチにすら座れない選手たちがいる。トレーニングは一緒に積んでも試合に登録できるメンバーの人数が限られているため、外れてしまうのだ。彼らは決勝点を取った山口蛍がベンチに駆けつけ仲間と喜びを分かち合ったときも、その輪に入ることは出来なかった。そんな役割を務めたのが、イラク戦の植田直通と永木亮太だった。

ベンチに座っていても出られないことに表情が曇る選手もいる。ましてベンチ外だったとしたら、スター選手に群がる記者たちの横を通り過ぎるのに辛くないだろうか。特に植田は五輪の際、主柱として報道陣から追われていた選手。悔しさは想像するに余り有る。

ところが、オーストラリア入りして初めてのトレーニングだった8日、報道陣の前を通った植田の表情には、イラク戦の前に見せていた悲痛な感じが薄れ、落ち着いた感じが戻っていた。勝利がチーム全体に冷静さを与えたのかもしれない。植田は勝ったことで「いい緊張感の中でリラックスもできている」とチームの様子を語る。

ベンチ外だったのでショックを受けたのではないか? そうストレートに切り出すと、植田は少しだけ笑みを浮かべて「いや、そこまで。悔しいことは悔しいですけど、はい。でも備えて準備するしかないと思って」と答えた。

オーストラリアの映像は確認済み。「力強さと言うか強さがありますし、その中でも巧さも兼ね備えている」という。そして「厳しい試合になると思いますけど、チーム全員で戦わなければいけないと思います」と続け、「出るつもりで準備しています」「ヘディングの部分では負けられない」と決意を語った。

ヘディングばかりが取り上げられる植田には、もう1つの武器がある。鹿島のチームメイト、昌子源が「植田の特長を生かすためにチームでは自分のポジションを変えている」という右足の正確なフィードだ。「そこには誰にも負けない自信があります。一本のパスで得点につなげるというボールを出せると思いますし、そこは自信を持って出来るところだと思って。そこは狙っていきたいと思います」。植田はこの日一番力を込めた言葉で語った。

オーストラリア戦では相手のパワープレー対策として投入される可能性が十分ある。植田が狙っているのは、そこでヘディングではね返すことだけではないかもしれない。

【日本蹴球合同会社/森雅史】