「週刊こどもニュース」のキャスターを務めていたとき、鎌田靖さんはわかりやすく表現する大切さをしみじみ感じるようになった。鎌田さんが試行錯誤しながら会得した伝え方とは──。

『追跡!AtoZ』は、あらゆる分野から視聴者の「知りたい」というニーズに応えるテーマをピックアップして、今起きている事象を徹底的に追いかける番組です。

現場で撮影した映像や密着インタビューは、スマートに編集するのではなく、なるべく加工しないでゴツゴツした映像のまま見てもらうのが私たちのこだわり。それが番組の臨場感を高めていると思います。

スタジオではそうした取材映像を見ながら、取材した記者やゲストの専門家などと一緒に、視聴者が抱く疑問やわかりにくいポイントを解説してゆく。キャスターであり番組の最終表現者である私の役割は、取材した側と視聴者の間に立って問題を整理し、視聴者の目線で疑問を投げかけ、その答えをわかりやすく伝えることだと思っています。

わかりやすく伝える、わかりやすく表現するという意識は「週刊こどもニュース」の時代に強くなりました。わかりやすくなければ視聴者が番組を見てくれないことを、しみじみ感じたからです。

そのために心掛けていることがいくつかあります。まず番組の下準備の段階で、自分自身がそのテーマについてきちんと理解するということ。

番組で取り上げるテーマには制約がありません。私はそれぞれのテーマの専門家ではないし、初めて聞く話もある。薄っぺらな理解かもしれませんが、まずは自分で噛み砕いて咀嚼しなければ始まらない。

番組のテーマが決まったら、そこから基礎勉強をします。関連の本を読んだり、検索をかけてウェブサイトを覗いたり。一つのテーマで3冊ぐらいの本を読むと、そのテーマで何が問題になっているかが大体わかってきます。その理解した内容をA4くらいのノートに手書きで書きます。砕いた言葉を使って自分なりに表現してみる。活字で育っているせいか、書かないとなかなか頭に入りません。

この手書きのメモをベースに、番組の全体の流れが書いてある構成表をもらったら、それを見て自分の担当するコメントの原稿を最終的にワープロで書きます。ちなみにそれぞれのテーマで現場に潜って取材するのは記者やディレクターですが、一回の番組で私も一度は現場に足を運ぶようにしています。普天間基地問題の取材で沖縄に行きましたし、口蹄疫の問題では宮崎の畜産農家を訪ねました。ユニクロの回では新店舗のオープンに合わせて上海にも飛びました。

■問題の発端や経緯が大事

時間的制約はありますが、行ける場所にはなるべく行く、というか行きたい。たった1日、2日の取材ですべてがわかるとはまったく思っていませんが、私自身、元社会部記者ですから現場は欠かせない。現場に行かないと自信を持って説明できないのです。現場で感じたことはコメントにも生きてくるし、スタジオで質問するときに「私が行ったときはこうでしたが、どうですか?」という聞き方ができる。その分、説得力も増すのではないかと思っています。

番組の本番前には顔の体操と舌の体操をします。筋肉が強張っているとうまく話せないので、口を大きく開けたり、表情を崩して顔の筋肉を動かしたり、舌をゴロゴロと転がしたり。口や舌の動きが滑らかになって、それだけですごく喋りやすくなる。私の声はアナウンサーのように聞き取りやすくないし、特別なトレーニングも受けていないので、番組中は少し大きめ、普段の1.5倍くらいに声を張るようにしています。

それから普段よりもゆっくりめで話す。本当にいいのかどうかはわかりませんが、一言一言ゆっくり話したほうが聞き取りやすいし、説得力があるように聞こえるようです。

私は話のプロではないので拙い話し方のスキルはさておいて、視聴者にわかりやすく伝えるために工夫のしようがあるのは、やはり話の内容であり、番組の進行の仕方です。

番組の冒頭、まず私が大切にしているのは「そもそも」ということです。

新聞記者もそうですが、私たちがニュースの記事を書くとき、初報では「こういう事件が起きました」「こういう問題で誰某がこう言いました」という形で事件や問題のそもそものあらましを伝えます。

これが続報になってくると、伝える側としてはなるべく新しい情報を多く提供したいと思うから、事件や問題の発端、経緯についての説明が圧縮されてどんどん短くなります。しかしテレビの視聴者や新聞の読者で、問題のあらましをずっと覚えている人は、ほとんどいないと思います。

「そもそも」の部分が欠落すると、事件や問題の流れや全体の輪郭がぼやけてきて、新しい情報の意味付けもよくわからなくなってくる。それで大体、ニュースについていけなくなるのです。

速報性が求められるデイリーのニュースや新聞記事は新しい情報を詰め込むやり方でもいいと思いますが、私たちのような報道番組は何かの問題を取り上げるときには一度、事件や問題の流れをせき止めて報じることになります。そのときにいつも欠かせないのが「そもそも」ということです。「そもそもこの問題は……」ということを説明しないと、恐らく誰も見てくれない。

視聴者のレベルが高い、低いという問題ではありません。「そもそも」から説き起こすことによって、取り上げる問題の奥行きや立体感というものが浮かび上がってくる。それが視聴者の関心を引き込んだり、それぞれの問題意識を整理したり、想像力を掻き立てる大切なきっかけになると思うのです。

同じ問題がずっと続いて、新しい情報が積み重なってゆくほどに、「そもそも」は語られなくなります。しかし、問題の根源がどこにあるかを忘れて、今起きている現象を追いかけても絶対に本質には迫れない。

普天間基地の移設問題で名護市の稲嶺進市長にお話を伺ったときに、事前の打ち合わせで稲嶺さんは500年前のことから語り起こされました。基地をどこに持っていくかということだけではなく、沖縄が抱えている問題を本当に理解するためには、500年前の沖縄と本土の関係、中国との関係まで含めて、遡らなければならない。

■四文字熟語やカタカナ言葉は言い換えを

「そもそも」を語るうえで歴史を遡ることも欠かせません。しかし、番組の限られた時間の枠の中で、そればかりに時間を割くわけにはいかない。伝えるべき「今」がある。結局、按配ということになるのでしょうが、前段の「そもそも」を説明するのは私の大事な役割だろうと思っています。

わかりやすく伝えるためには、わかりやすい言葉を使うのが基本です。

私がいつも引っかかるのは四文字熟語。原稿に四文字熟語が出てきたときには必ずチェックします。四文字熟語は語呂がいいし、音としては覚えていますが、意味はわかっているようでよくわかっていないということが往々にしてあります。そこで、たとえば「政治主導」という言葉を使うときには、「これまで官僚任せで、国民の意思がなかなか反映されなかった政治のやり方を、選挙で選ばれた政治家が官僚をリードして主導的に政治を行うようにする、この政治主導」というように必ず解説をつける。

難しい漢字に敏感になったのは「週刊こどもニュース」時代から。子供は難しい漢字が嫌いですから、四文字熟語は絶対に使いませんでした。

子供にもわかるように平易な言葉で説明しようとすると、これがなかなか難しい。だから当時は、家の近所にある図書館の児童書コーナーによく通いました。私も最初は知らなかったのですが、自然科学系だけではなく、経済のことを子供向けに解説した絵本や児童書はたくさん出ています。

たとえば円高の仕組みや需要曲線と供給曲線による価格決定のメカニズムを、小学生にもわかるような書き方をしている優れた本もある。換骨奪胎して完全に言い換えているのに間違いではない、わかりやすい言い回しをしている本に出合うこともあれば、ときには「である」を「です、ます」調に変えただけの“子供だまし”に遭遇することもあります。

専門家が子供向けにどういう言い換えをしているのか、随分、参考にさせていただきました。使えそうな表現に出合うとノートに書き写したり、読んだ本のタイトルを赤丸付きでメモしたり。

その頃からの習慣で、難しい言葉に出合うとなるべく別の、ひらがなの多いやさしい言葉に言い換えることを心掛けています。

外来語やカタカナ言葉も同じです。たとえば「コンプライアンス」は直訳すれば「法令遵守」ですが、日本語訳の意味もわかりにくい。「企業には守るべき法律や、社会の要請に応えて守るべき企業倫理や社会的責任というものがある。それを守らなければ企業のトップに大変な責任が課せられたり、信用を失って企業の存続そのものが危ぶまれるようなことにもなるので、ビジネスの世界で関心が高まっている」くらいまで説明できれば、聞いている人も理解しやすい。

決まりきったフレーズ、言い回しというのも注意が必要です。同じフレーズを何回も何回も使っていると、それで皆わかったような気になる。

※すべて雑誌掲載当時

(小川 剛=構成 的野弘路、斎藤 文=撮影)