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選挙期間中のSNS偽情報対策法案が6月26日、衆議院を通過した。参議院でも可決し、成立する公算が大きい。良くも悪くもネット世論が選挙結果に大きな影響を及ぼす時代となり、今回の法案は選挙の公正さを維持するうえで第一歩に過ぎない。

企業の公式SNSがまた炎上 背景にはバズり優先の投稿か

さすがに、意図的に悪質な偽情報を拡散させる行為は減るだろうが、SNSや広告の数字を不正に増やすことは今でも簡単にできる。最近、問題になっているのは「スマホ農場」だ。

スマホ農場とは、大量のスマートフォン端末を一か所に並べて、SNSのいいね、フォロワー、表示回数、動画再生回数、広告クリックなどを人工的に増やす拠点のこと。これにより、世論誘導や広告収入の不正獲得が可能となる。

数百~数千台のスマホや基板などが一室に並べられたスマホ農場は、大量のサーバーが並べられたデータセンターを連想させる。それらのスマホをパソコン等で一括制御し、特定のアカウントの投稿に大量のアクセスや反応を発生させるのだ。

スマホ農場の運営者が「水増し」を行うことで受け取る謝礼(販売価格)は、SNSの種類によって大きく変わる。朝日新聞の取材によると、例えばYouTubeの再生1000回で175~750円とのこと。単価はこの程度でも、24時間稼働しているので、結構な収入になるのだろう。

TBS系「報道特集」ではスマホ農場の運営者にインタビューしている。それによれば、電波などを遮断したシールドルーム内に60のラックが並んでいるといい、1つのラックには144個のボックスが並ぶ。

それぞれのボックスにはスマホの基板12枚が差し込まれていて、常に特殊な冷却液の通るパイプで冷やされている。基板は約10万枚、かかった費用は数十億円規模で、年間の利益は約45億円だと運営者は明かす。

衆院選候補者からの依頼も

依頼は海外からも多く、今年の衆院選では候補者陣営からの依頼も複数あったそうだ。「いいね」やフォロワー数を増やせば、たくさんの有権者から支持されていると見せかけることができるからだ。だが、この運営者は法律違反を避けるために、選挙関連依頼はAIを使って弾いたそうだ。

番組の取材に対し、YouTubeやTikTokなどのプラットフォームは人為的な閲覧数増加を見つけ次第削除していると回答した。

TBSの取材先はかなり大規模で例外的な運営者だと思うが、スマホ農場のような仕組みは、実は昔からあった。昔はPCをたくさん並べて、作業員が手動でクリックする“人海戦術”が中心だった。その後、1台のPCで多数の仮想スマホを動かせるようになり、効率が一気に上がった。

しかし、仮想端末は検知されやすくなり、本物のスマホや基板などが大量に使われるスマホ農場となった。そして、スマホの画面やバッテリーを外し、基板だけをまとめてラックや専用ボックスに組み込むのが一番効率的だ。

スマホ農場と同じように、アクセス数や再生回数を人工的に水増しできる方法として「Bot(ボット)」がある。Botは、人間に代わって特定のタスクを自動で繰り返し実行するプログラム(ソフトウエア)のことで、大量のスマホやパソコンを並べる必要はないのだが、プラットフォーム事業者から簡単に発見されてしまう。それでスマホ農場が重宝されている。

日本ではスマホ農場そのものを名指しで一律禁止する法律は整備されておらず、プラットフォーム事業者の自主規制的な取り組みに任されている。だとすれば、ユーザー側がリテラシーを上げるしかない。

選挙のときはとくにそうだが、スマホ農場を使って、「いいね」や再生回数を人為的に増やすのは、多数派の意見であるかのような状況を作り、同調圧力を生み出すためだ。それが世論を操る方法である。候補者への誹謗(ひぼう)中傷のみを規制しても、選挙の公正さはネット世論によってゆがめられたままになっている。

文/横山渉 内外タイムス